わたしたちはどうしてクルマに乗るのでしょうか。その理由はきっと、単に移動のためというだけではないはずです。運転するたびにワクワクしたり、車内で家族や友人とのおしゃべりを楽しんだり。そんなクルマを次世代に受け継いでいくために、クルマが排出する温暖化ガスをゼロにし、環境負荷を軽減する。そして、電動化によってクルマを進化させ、世界中のお客さまに運転する楽しさや喜びを提供し続ける——そんな強い思いで2010年に日産が世界に先駆けて発売した量産型100%電気自動車が「日産リーフ」です。「日産リーフ」は、これまで多くのお客さまに支持され、現在では50以上の市場で販売されています。
ところで、日産はいつから電気自動車を開発しているのでしょうか。実は日産が初めてEVを販売したのは1947年のこと。それから半世紀以上、多くの日産エンジニアがEVの進化に情熱を注いできました。「日産リーフ」の誕生10周年を記念して、日産が販売してきた数々のEVの中で、エポックメーキングな名車たちをご紹介します。
目次
- たま電気自動車(1947):日産初の電気自動車
- プレーリージョイEV(1996):世界初のリチウムイオン電池搭載車
- ハイパーミニ(2000):電気仕掛けの映画スター
- ピボ /PIVO(2005):ラミネート型リチウムイオンバッテリーを世界初搭載
- ピボ2 /PIVO2(2007):ドライバーをハッピーな気分にする電動シティコミューター
- 日産リーフ(2010):EVの未来を切り開いたパイオニア
- 日産ニューモビリティコンセプト(2010):コンパクトな2人乗りで移動をもっと楽ちんに
- e-NV200(2014):日産EV初の量産型商用車
- 新型日産リーフ(2017):最新技術を搭載させた電気自動車の新基準
- シルフィ ゼロ・エミッション(2018):ニッサンブランド初の中国生産による中国市場向け電気自動車
- ニッサンIMk(2019):ついに軽もEVの時代へ
- 日産 アリア(2020):日産の新たな扉を開くクロスオーバーEV
たま電気自動車(1947):日産初の電気自動車
第二次世界大戦が終わったばかりの日本は、石油不足に悩まされる一方で、水力発電による電力供給には比較的余力がありました。そのため政府はEVの生産を奨励し、戦前まで飛行機を生産・開発していた立川飛行機の有志が東京電気自動車(のちのプリンス自動車工業)を立ち上げ、EVの開発に乗り出しました。その第一号として開発されたのが1947年発売の「たま電気自動車」です。「たま」の名前は工場のあった多摩地区に由来します。カートリッジごと交換することも可能な鉛酸バッテリーが使われた「たま電気自動車」は、カタログ値を超える最高速度35.2 km/h、航続距離96.3 kmを達成するなど、その高性能が注目を集めました。「たま」ブランドの電気自動車は、1950年までの間に約1,100台が生産され、乗用車は主にタクシーとして、小型トラックは戦後日本の小口物流に大きく貢献しました。ホイールキャップ上の「たま」の2文字を図案化したユニークなブランドロゴもチャームポイントです。なお、東京電気自動車は、のちにプリンス自動車工業となり、1966年に日産自動車と合併しました。
プレーリージョイEV(1996):世界初のリチウムイオン電池搭載車
今では多くのEVでスタンダードとなっているリチウムイオンバッテリーですが、世界で初めてリチウムイオン電池が商品化されたのは1991年のこと。当時はノートパソコンや携帯電話に使われる小型の製品がほとんどで、自動車用に大容量の電池を開発するのは難しいとされていました。しかし、日産のエンジニアは1992年、ソニーと共同で自動車用リチウムイオン電池の研究開発をいち早く開始。地道な研究の末、1996年についに実用化にこぎつけ、円筒型のリチウムイオン電池を搭載した世界初の電気自動車「プレーリージョイEV」を翌1997年に発売しました。主に各種企業・団体などの法人向けに30台をリース販売した「プレーリージョイEV」は、最高速度は120km/h、一充電当たりの航続距離は200km以上と、実用性の高い性能を備えていました。また、2000年からは国立極地研究所北極観測センターの支援車としても活用され、厳しい気象条件下でも6年間故障することなく、高い信頼性を誇りました。騒音や排出ガスを一切出さない「プレーリージョイEV」は、音や異臭に敏感な野生動物に極限まで接近することが可能で、観測基地のシンボル的存在として大いに活躍しました。
ハイパーミニ(2000):電気仕掛けの映画スター
2000年に日本で販売された「ハイパーミニ」は、2人乗りの超小型EVです。軽量で小型の高性能リチウムイオンバッテリーとネオジム磁石同期トラクションモーターを搭載し、最高速度は100 km/h、一充電あたりの航続距離は115kmと都市型シティコミューターとして十分な性能を備えていました。カーシェアリングを想定したICカードタイプのキーレスエントリーシステムの採用も画期的で、横浜市のカーシェアリングプロジェクトやカリフォルニア大デービス校など、日米で幅広く使用されました。また、ランフラットタイヤや軽量・高剛性のアルミフレームなどの先進的な技術も採用し、「いっぱい走れる1km、1円。100km走って、たったの100円」というキャッチコピーも話題に。全長わずか2,655mm、高さ1,550mmと印象的なスタイルの二人乗り自動車はどこでも注目の的でした。独特の存在感をたたえるキュートなスタイリングは映像界でも人気を博し、アメリカ映画の『プリンセスダイアリー2』と『スリープオーバー』や、日本のTVアニメシリーズ『シゴフミ』にも登場しています。
ピボ /PIVO(2005):ラミネート型リチウムイオンバッテリーを世界初搭載
「ピボ」は次世代EVのコンセプトカーとして、2005年の東京モーターショーに出展されました。薄くてコンパクトなラミネート型リチウムイオンバッテリーを世界で初めて搭載。ラミネート型には小型で軽量化しやすく、冷却性能が高いという大きなメリットがあり、「日産リーフ」にも採用されています。「ピボ」は将来の電動車両の可能性を追求した3人乗りのコンセプトカーで、ユーザーフレンドリーを基本コンセプトに、都市で生活する若い女性の「こんなクルマがあったらいいのに」という夢を具現化しました。最大の特長は、ドライバーの進みたい方向に向けて、人が乗り込むキャビンを360度回転できること。後ろを振り返りながら走行する必要がありません。コンパクトなボディサイズなので運転もカンタンです。フロントウインドウ両端の支柱(Aピラー)の内側に外の風景を映し出して死角を軽減する機能や、ステアリングホイールから手を離さずに、指の本数や動きによってナビやオーディオの操作を実現するシステムなど、安全装備にこだわったのも日産ならでは。4個のカメラで車から見下ろしたような映像を表示するアラウンドビューモニターは、今ではインテリジェント アラウンドビューモニターに進化し、多くの日産車に採用されています。アーティストの村上隆氏とのコラボレーションしたイベントで展示したキュートなオリジナルキャラクター「Pivoちゃん」も注目を集めました。
ピボ2 /PIVO2(2007):ドライバーをハッピーな気分にする電動シティコミューター
2年後の2007年東京モーターショーで発表された「ピボ2」は、クルマの知能化に取り組む日産が、「ハッピーでポジティブな気分のドライバーは事故を起こす確率が激減する」という研究結果をもとにつくりました。ドライバーの状態と運転状況に合わせ、音声と動きにより各種サービスをより楽しく、使いやすく提供する「ロボティック・エージェント」は、表情や会話からドライバーの状態を推定し、ドライバーが常にハッピーな気分になるように話しかけます。また、四輪にモーターを搭載し、それぞれ独立した動きを可能にしたのも電動化ならではの技術。自由に360度回転するキャビンと組み合わせ、タイヤを真横に動かすことにより、苦手とする人の多い縦列駐車もラクラクと行えます。そのほか、どこからでも乗車可能な電動フロントドアなど最新技術を投入。走行状態に応じて4輪の荷重が均等になるようにタイヤ位置を自動的にコントロールすることで、加減速時やカーブでも車体が傾かない安定した走行を実現するなど、安全装備も充実させ、「いつでも楽しく、どこでも便利」なモビリティを実現しました。
日産リーフ(2010):EVの未来を切り開いたパイオニア
量産型EVの開発を本格化させた日産は、環境性能・走り・使いやすさ・コストなどすべての面で、お客さまの期待を超えたいと考えました。様々な課題を乗り越えて販売を開始した「日産リーフ」には、ゼロ・エミッション社会の実現を目指すという日産の強い決意がこめられています。アクセルを踏んだ瞬間に感じる力強い加速感や、圧倒的な静粛性。優れた重量バランスとバッテリーパックを車体中央床下に配置したことによる低重心が生み出す意のままのハンドリング。これまでのクルマとは全く違う、EVならではの走行に、世界中の多くの人が魅了されました。当時としては未来的だったメーター周りのデザインも話題になりました。バッテリーを走るためだけでなく、エネルギー源として活用するというEVの新たな価値を世界に先駆けて提案したのもこの「日産リーフ」です。2016年には「日産リーフ」を運転するドライバーの脳波を自動的に言語化する特別車両を公開しました。この車両は、ドライバーがワクワクする楽しさを感じると、その瞬間の脳波を「ドキドキ」「すげー!!!」など、まるでマンガの吹き出しのような言葉でクルマの周囲に映し出すことができます。
日産ニューモビリティコンセプト(2010):コンパクトな2人乗りでラクラク移動
高齢者や単身世帯の増加に伴い、今後、ますます近距離移動や少人数での移動のニーズが増えると予測されています。こうした社会変化に対応するため、日産は効率的で使い勝手のよい移動手段として「日産ニューモビリティコンセプト」を発表しました。誰にでも運転や駐車がしやすい車両サイズで、オートバイと同等の機動性と高い安全性を両立させています。駐車スペースも小さく、公共交通機関と組み合わせれば、利便性はさらに向上。例えば、朝晩は個人車両として通勤に使用し、昼間は社用車として利用する「2モードEVカーシェアリング」など、新たなクルマの活用方法も可能になります。この画期的なEVを観光や都市での移動に活用し、低炭素交通の実現と街の賑わいの創出に貢献するという試みがワンウェイ型大規模カーシェアリング「チョイモビ ヨコハマ」です。日産と横浜市が協働し、多くの人が超小型EVの楽しさ・便利さを体感しています。
e-NV200(2014):日産EV初の量産型商用車
2014年にはゼロ・エミッションモビリティをLCV(小型商用車)にも広げ、日産にとって2車種目の量産電気自動車「e-NV200」をヨーロッパと日本で発売しました。多目的商用バン「NV200バネット」をベースに、e-パワートレインを組み合わせることで、「NV200」の特長である室内の広さや多用途性と、EVならではの加速性と静粛性を両立しました。また、「e-NV200」は走る蓄電池として、さまざまなビジネスシーンで活用されています。その一つが移動しながらアイスクリームを販売するアイスクリームバン。欧州などで人気のアイスクリームバンをEVにすることで、空気のきれいな山間部でも排出ガスを気にすることなく、おいしいアイスクリームを提供できます。
新型日産リーフ(2017):最新技術を搭載した電気自動車の新基準
待望の新型「日産リーフ」は、デザインを一新して登場しました。特筆すべきは、航続距離を400km(JC08モード)と、飛躍的に伸ばしたこと。さらに、自動運転技術「プロパイロット」や、車庫入れや縦列駐車をクルマがサポートする「プロパイロットパーキング」、そしてアクセルペダルの操作だけで発進、加速、減速、停止までをコントロールできる「eペダル」など数々の先進技術を採用しました。
2019年には、新開発のe-パワートレインを採用した「日産リーフe+」をラインアップに追加。航続距離をさらに約40%向上させたことで、ロングドライブをより安心して楽しめるようになりました。「日産リーフ e+」の進化した62kWhのリチウムイオンバッテリーをフルに充電すれば平均的な日本の家庭の4日分の電力を供給可能。スマートフォンなら6,200台分の充電が可能です。災害時に停電が発生しても、避難所の冷暖房の電源として活用すれば寒さや暑さに悩まされることはありません。病院や介護施設で冷蔵庫、洗濯機なども使用可能です。
ちなみに、走行中のエンジン音がない「日産リーフ」は、車両接近報知音によって歩行者に接近を知らせます。2020年モデルで車両接近報知音に採用されたのは「カント」。北米日産は、この音源に「ジングルベル」と「荒野の果てに(“Angels We Have Heard on High”)」の2つのクリスマスキャロルを組み合わせ、ハイテク感のあるエレクトロニックサウンドに仕上げて公開しました。クリスマスの話をもう一つ。ヨーロッパでは「日産リーフ」がなんとクリスマスツリーに変身しました。きらめくライトに飾られた「日産リーフ」を通じて、停止時や減速時に電気自動車がエネルギーを回生する仕組みを紹介しました。
シルフィ ゼロ・エミッション(2018):ニッサンブランド初の中国生産による中国市場向け電気自動車
中国のお客さまの電気自動車へのニーズに応えるために発売したのが、「シルフィ ゼロ・エミッション」です。「日産リーフ」と同じプラットフォームを採用し、「日産リーフ」のコア技術を継承している同車は、クラストップの広さを持つレッグルームと、快適で広々としたキャビンを実現しています。航続距離は中国の基準*で338kmを達成しました。
- SMVICがNEDCモードで測定
ニッサンIMk(2019):ついに軽もEVの時代へ
2019年の東京モーターショーで公開したのがEVコンセプトカー「ニッサンIMk」です。新開発のEVプラットフォームを採用し、軽自動車クラスというコンパクトなボディサイズでありながら、EVならでは力強くスムーズな走りと驚きの静粛性を実現しました。次世代の運転支援技術を搭載したほか、クルマと社会、ドライバーがいつでもシームレスにつながる最新のコネクティビティ機能を搭載するなど、日産が目指す未来のクルマを体現しています。目的地に着いたら「ニッサンIMk」の室内はお気に入りのプライベート空間へと変化。ベンチシートにゆったりと座って、ディスプレイに映し出されるコンテンツをゆったりと楽しむことも可能。ドライバーのスケジュール管理ソフトともつながり、クルマが渋滞など最新の交通状況を考慮して出発時間を提案してくれます。
日産 アリア(2020):日産の新たな扉を開くクロスオーバーEV
では、最新の日産の電気自動車はどんなクルマなのでしょうか?それが、電動化・知能化・コネクテッドの最新技術を詰め込み、EVの新たな扉を開く「日産 アリア」です。ガソリン車はフロントにエンジンルームなどを冷却するためのグリルがありますが、エンジンのない「日産 アリア」が装備しているのは「シールド」。「シールド」には日本の伝統的な組子模様が組み込まれ、その内側には運転支援システム「プロパイロット 2.0」で使用するレーダー、カメラ、センサーといった先進技術が搭載されています。また、ルーフから車体の後方へと流れるラインは日本の刀をイメージ。室内は、空間を最大限に生かす日本独自の「間」がコンセプトで、組子模様をイメージした行灯風の照明が、足元のスペースやドア周りを照らしてくれる——そう、「日産 アリア」は、日本らしい伝統的なテイストを新しい時代に通用するモダンなデザインに昇華しているのです。また、新次元の4輪制御システム「e-4ORCE」*は、前後の駆動力を最適に配分し、4輪のブレーキを個別に制御することで、ドライバーはどんな路面状況でも思い通りに走行することができます。この新しい駆動システムは、「日産リーフe+」をベースにしたテストカーを用いて開発されました。さらにはコンシェルジュのようにドライブをサポートするシームレスなコネクテッド技術など日産の技術の粋を投入。帰宅途中に「日産 アリア」に話しかければ、クルマの中から照明やエアコンなど、自宅の家電をコントロールすることもできます。1回の充電による航続距離は610km(2WD 90kWhバッテリー搭載モデル 2WD WLTCモード 社内測定値)に達し、週末のドライブでも活躍します。
70年を超える経験を糧に、これからも日産のEV開発の道のりは続いていきます。
- AWD版のみ