大気品質と水

工場での水資源利用の削減

水使用量の削減と水質の管理を通じて、生態系サービスへの影響と依存を配慮したモノづくりをすすめます

世界的な人口増加や経済発展により、水の需要が増えることが予想されています。また異常気象によって雨の降り方が変化しており、安定した水の供給に対する社会の関心は年々高まっています。

2030年には水の供給が需要に対して40%不足するといわれており、世界経済フォーラムが毎年発行する「グローバルリスク報告書」では、「異常気象」、「天然資源の危機」「人為的な環境被害や災害」など水に関連するリスクが上位に入っています。例えば、「天然資源の危機」には水資源の枯渇など、水に関する重大なリスクが含まれています。

2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」でも目標の1つに掲げられています。また、2018年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)により公表された「1.5oC特別報告書」でも気温が1.5oC上昇すれば大雨、干ばつといった異常気象のリスクや影響は高まり、2.0oC上昇すればリスクや影響はさらに深刻で広範囲になると報告されました。水不足や洪水などさまざまな側面において水資源の管理は持続可能な発展のために重要な課題となっています。

世界の産業別水消費量は農業が一番多く約70%を占め、次いで工業が約20%、残りが生活用水で約10%となっており、自動車メーカーの水リスクは工業界の中で特に高いという指摘はありません。しかし日産は、持続可能な企業であるためには水資源への依存を減らす必要があると考え、すべての生産拠点で、水質の管理や水使用量の削減に取り組んでいます。

日産は全生産拠点で、現地の規制よりも厳しい基準値で廃水の水質を管理しています。日本の生産拠点では、廃水処理施設の排出口に水質センサーを取り付け、異常が検知された場合は自動的に敷地外への排水を停止させるシステムを導入して、水質汚濁防止を強化しています。また、RO膜(逆浸透膜)で処理した廃水を生産工程に再利用し、敷地外への排水ゼロを実現している生産拠点もあります。

工場間でのベストプラクティスの共有や設備投資の実施、省エネルギー診断のチームであるNESCO(Nissan Energy Saving Collaboration)を水使用量や廃棄物に発展させた資源版NESCO(r(esource)NESCO)の活動の拡大などの取り組みにより、水の使用量を削減していきます。

水問題は地域によって状況が大きく異なるため、世界各地に広がっている生産拠点の水リスクを日産独自の方法で評価しています。水リスクが高いと判断された拠点では、雨水を貯める池の設置など、工場独自の水源を増やす取り組みを優先的に行っていきます。

NGP2030 目標

取り組み NGP2030 目標

生産拠点での水リスク管理の強化

ハイリスクサイト数のゼロ化

生産拠点での使用量の削減

生産拠点での排水の水質管理

主な取り組み

ハイリスク拠点:廃水のリサイクル率の向上、工場の外からの取水量の削減

全拠点:工場間でのベストプラクティスの共有、設備投資、資源版NESCO(rNESCO)の拡大、塗装工程の改良

「Aqueduct Water Risk Atlas」(世界資源研究所、aqueduct.wri.org)を元に作成

大気品質

大気品質の向上の重要性

生態系の劣化がかつてないほどの速度と規模で進行していると指摘される中、企業も、自らの活動が生態系へ及ぼす影響とともに、生態系がもたらす恩恵への依存をあらためて認識する必要があります。日産は、排出ガスのクリーン化とお客さまの快適な車室内環境の提供を通じて、生態系への配慮とともに、人々の生活をより健康的なものにするモビリティを追求したいと考えています。

米国の健康影響研究所(HEI) が発行する『State of Global Air 2017』では、世界の人口の92%は世界保健機関(WHO)が空気質ガイドラインで定めている微小粒子状物質(PM2.5)の基準値10μg/m3を超えている地域で生活していると報告されています。また経済協力開発機構(OECD)は、2050年までに世界の人口は90億人以上まで増加し、約70%が都市に集中すると予測しており、都市の大気汚染はより深刻な課題となります。

自動車メーカーにとって、この様な大気汚染は気候変動や渋滞などとともに、特に都市部における課題の1つであり、解決に貢献すべく課題に向き合う必要があります。

NGP2030 目標

取り組み NGP2030 目標

クルマからのエミッション削減(テールパイプ以外も含む)

技術の開発と適用

生産拠点でのVOC管理

活動の継続(塗装)

車室内空質の管理

車室内VOCの日産基準の順守

製品における主要な取り組み

従来からの内燃機関についても、日産は早くから厳しい自主規制や排出ガスの低減目標を定め、「大気並みにクリーンな排出ガス」を究極の目標に、よりクリーンな燃焼を行うための技術改善、排出ガスを浄化する触媒などの開発、燃料タンクから蒸発するガソリン蒸発ガスへの対応など、幅広い技術開発に取り組んできました。その結果、米国では2000年1月に発売した「セントラCA」がいち早くカリフォルニア州大気資源局が制定する排出ガス基準値をすべて満たし、ガソリン車としては世界で初めてPZEV*1に認定、また日本でも2000年8月に発売した「ブルーバードシルフィ」が、U-LEV*2の認定を国内で初めて取得するなどの成果を残しています。

日産がグローバルで累計約58万台(2022年3月末時点)を販売した「日産リーフ」をはじめ、走行時に排出ガスを全く排出しない電気自動車(EV)の普及は、都市部における大気汚染の改善に有効な手段となります。日産はそのリーダーとして各国政府、地方自治体、電力会社やその他業界とパートナーシップを締結しながら、ゼロ・エミッションモビリティの推進およびインフラ構築のための検討を進めています。

先進運転支援技術の実用化と、完全自動運転の開発が進む現在、車室内で過ごす時間はより長時間化すると予想され、快適で安心な空間を提供することはますます重要になっています。クルマからの排出ガスのクリーン化のみならず、より快適に過ごすことができる車室内の空質についても研究開発を進めます。

また、従来から継続しているホルムアルデヒドやトルエンなどの常温で揮発しやすい有機化合物VOC(Volatile Organic Compounds)の削減についても、車室内のシートやドアトリム、フロアカーペットなどの部材や接着剤の見直しを行っています。日産では、国や自動車業界として適用されている基準値を参考に、より厳しい自主的な基準を設定し、2007年7月以降、市場に導入した新型車から基準をクリアすることを義務付けています。

  1. PZEV:Partial Zero Emission Vehicle 米国カリフォルニア州大気資源局が制定
  2. U-LEV:Ultra-Low Emission Vehicle 2000年排出ガス規制「新長期規制」の適合車より、窒素酸化物(NOx)と非メタン炭化水素(NMHC)の排出量を75%低減したクルマ

生産拠点におけるVOCおよび排出ガスの削減の取り組み

一方、クルマの生産工場から排出される物質としては窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、揮発性有機化合物(VOC)が代表的ですが、日産ではNOx、SOx、VOCの排出に関して厳しい対策を推進。大気に放出される物質に関する管理基準と仕組みを徹底し、使用量と排出量の双方を低減する活動に取り組んでいます。また、各国それぞれの法規に対しても、より高いレベルでの対応を目指しています。

日産では、各国の法規制化に先駆けて、洗浄用シンナーなどの回収率を上げて工場外への排出量を減らすとともに、VOCの少ない水系塗装ラインへの切り替えや廃シンナーのリサイクル率向上を計画的に進め、VOCの使用量そのものの削減に取り組んでいます。

たとえば、九州工場水系塗装ラインでは、塗装面積当たりのVOC排出量を20g/m2以下に抑え、業界トップレベルの水準を維持しています。また、メキシコのアグアスカリエンテス工場、ブラジルのレゼンデ工場、米国スマーナ工場、中国花都工場などで水系塗装を採用しています。

クルマを生産するためには塗装工程などで大量の熱を消費します。その熱源となるオーブンやボイラ設備への低NOxバーナーの採用や、使用する燃料を重油や灯油などからSOx排出量の少ない燃料への転換を進め、NOxやSOxの排出濃度を低減してきました。

  • VOC:Volatile Organic Compoundsの略。揮発性を有し、大気中で気体状となる有機化合物の総称。