「Zらしさ」の本質に迫る本シリーズ。第1回は、チーフ・プロダクト・スペシャリストである田村 宏志が、自身が考える「Zらしさ」とは何か、そして世界中で歴代の「Z」が受け継いできたものについて語りました。第2回となる今回は、プログラム・デザイン・ダイレクターである入江 慎一郎が、「フェアレディZ プロトタイプ」のデザインの特徴や新型「Z」への期待、そしてスケッチからデザインの完成に至るまでの発想プロセスを交えながら、「Z」のスタイリングとは何かを語ります。
Q:入江さんが考える「Zらしさ」とは何でしょうか?
入江:まず、「Z」のスタイリングは、日産の哲学を象徴的に体現するものだと考えています。ですから、あらゆる人を魅了し、誰もが一目惚れするようなデザインを目指しました。「Zらしさ」とは、乗った瞬間から素晴らしいハンドリングとパワーでドライビングプレジャーが感じられること。そして、伝統と現代のテクノロジーをバランスよく融合させ、新鮮さを感じさせながらもコアとなる「Z」のDNAをしっかりと受け継いでいること。これらは歴代の「Z」すべてに共通しています。これこそが、「Zらしさ」の本質だと思います。
Q:デザインのどのような点に「Zらしさ」が現れていますか?
入江:「Z」には長い歴史があり、数多くの象徴的な要素があります。ヘッドランプもその一つです。「フェアレディ240Z」(S30型)のヘッドランプにはドーム形状のカバーが装着されています。そして、ライトが照射されると、このカバーを介して独特の反射を生み出します。「フェアレディZ プロトタイプ」には、この特徴的なデザインと現代のテクノロジーと組み合わせたヘッドランプを採用しました。その結果、モダンでありながらも、240Zを彷彿させる新しい「Z」のヘッドランプシグネチャーが誕生したのです。
もう一つの例は、リヤコンビネーションランプのスタイリングです。Z32型をイメージされる方が多いようですが、実はZ32型だけではなく、S30型やS130型にも同様のデザインを採用していました。ヘッドランプと同様に、伝統を重んじながら新しいアプローチでリヤコンビネーションランプをデザインした結果、このような力強く象徴的な形状が生まれたのです。
その他には、ルーフラインを強調するシルバーのアクセントにも「Zらしさ」が現れています。日本刀を思わせる形から私たちのデザインスタジオでは「刀」と呼んでいるのですが、このアクセントが視線を引きつけ、フロントからリアにかけて傾斜した「Zらしい」シルエットを浮かび上がらせています。「フェアレディZ プロトタイプ」はルーフがブラックのツートンカラーを採用していますが、単色のボディカラーや薄いボディカラーの場合でも、アクセントの効果が薄れることはありません。
Q:「Z」は日産のラインナップの中で、どのような役割を果たしているのでしょうか?
入江:「Z」は世界中の自動車ファンが知っているスポーツカーです。そして、「Z」には日産社員一人ひとりの情熱を掻きたてるという大きな役割もあります。社員の情熱が「Z」を日産にとって唯一無二の存在へと押し上げる。そして、今度は「Z」が私たちに新たな着想を与えてくれるのです。
私は、電動化の時代に向けたクルマづくりを行っている今だからこそ、日産のラインアップには様々な位置づけのクルマが必要だと感じています。最先端のEVである 「アリア」も必要ですし、「Z」のように、お客さまの期待に応え、お客さまに喜んでいただくためにマニュアルトランスミッションが不可欠となるようなクルマも必要です。だからこそ日産は、事業構造改革「Nissan NEXT」で、A(アリア)からZ(フェアレディZ)まで商品ライナップを刷新していくことを掲げているのです。
Q:「Z」のデザインにおいて、キャラクターラインが重要な役割を果たしているようですが、このラインにはどのような思いが込められているのでしょうか?
入江:キャラクターラインのデザインは、針に糸を通すくらい困難な作業でした。コンマ数ミリ単位で調整しています。「Z」はFR(フロントエンジンリアドライブ)ですから、フロントに置かれたエンジンが生み出したパワーがリヤタイヤへと伝わっていきます。そのパワーの流れをフロントからリアフェンダー、リアのホイールとタイヤへと続くキャラクターラインで表現しました。よく見ると、ドアハンドル付近でラインがボディに溶け込んでいくのが分かると思います。これは、弓を引いたときのように極限までパワーを溜めて、一気にリアフェンダーに向かって解き放つ様子をイメージしています。この1本のキャラクターラインに「Z」の魂が宿っているといっても過言ではないでしょう。
Q:「Z」はなぜ50年以上もの間、これほど多くのファンを魅了し続けてきたのでしょうか?
入江:日産の中ではダンスパートナーに例えられることもあるように、五感を刺激するスポーツカーでありながら、多くの人にとって手の届く身近な存在だからだと思います。だからこそ、どのモデルも世代を超えて愛され続けてきたのです。先日、私のインスタグラムに2世代の「Z」を愛車にされている父子からメッセージをいただきました。次の「Z」も楽しみですと言われたときに、「『Z』というクルマの歴史だけでなく、『Z』ファンにとっても、新たな歴史を刻む1台をつくっているんだな」と実感しました。
Q:「Z」との思い出や特別な経験はありますか?
入江:私はスーパーカー世代なので、子供の頃は正直、日本車にあまり興味がありませんでした。デザイナーとして日産に入社すると決めた一番の理由は、Z32型のフェアレディZ(300ZX)との出会いです。まだ学生だった当時、街中を走っているこのクルマを初めて見たときの衝撃を今でも覚えています。スーパーカーを初めて見たとき以来の衝撃でした。当時、これほど低い車高のスポーツカーはありませんでしたし、しかも国産車だと知って再び驚きました!日本のメーカーが、こんなに特徴的なスタイリングのクルマをつくるとは想像もしていなかったからです。実は子どもの頃から、趣味でスポーツカーのスケッチを描いていて、「Z32」を見る前から、初代S30型「フェアレディZ」(240Z)に似たクルマを描いていました。「Z」のような個性的なクルマの絵を描くのが好きだったのでそれを授業中に描いていて、よく先生に叱られましたよ。今思えば、その頃から将来の準備をしていたのですかね。
Q:新型「Z」に最も期待していることは何でしょうか?
入江:世界の素晴らしいデザインの名車と並ぶ存在になってほしいと思います。例えば「ペブルビーチ オートモーティブ ウィーク」には多くの名車が展示されますが、来場されるお客さまが乗ってきているクルマを駐車場で見ているだけでも、惚れ惚れして1日中見ていられます。今までは、そんなクルマ達を見て、自分はまだこの中に置いても見劣りしないモデルをつくれていないと感じていましたが、新型「Z」を手がけて、ついにやり遂げたぞという思いを実感しています。
Q:「Z」がお客さまに、どう受け入れられて欲しいですか?
入江:新型「Z」のデザインテーマは、伝統と現代のテクノロジーの融合です。この「Z」がすべてのファンを幸せにし、今後も愛され続けるよう願っています。日産のスポーツカーのスピリットを受け継いだ新たな「Z」を、皆さんの手で育てていって欲しいと思います。