人はどのようにしてクルマと「出会う」のでしょうか。日産の社長である内田は、子供のころに「サーキットの狼」という漫画に出会いました。そして、さまざまなスポーツカーが登場するシーンを「かっこいい!」と感じたことが、クルマ好きになったきっかけだったそうです。クルマとの最初の出会いは、親が乗っていた、テレビCMを見た、自動車会社が近くにあった、という方も多いでしょう。しかし、これからは従来とは異なる、思いもよらぬ方法でクルマを知る人が増えるかもしれません。その一つに、バーチャルリアリティ(VR=仮想現実)があります。
2021年の初めに、日本事業広報渉外部の鵜飼 春菜は、あるインフルエンサーの紹介でVR用のソーシャルプラットフォーム「VRChat※」に出会いました。VRとソーシャルメディアを組み合わせたVRChatで、世界中の人とコミュニケーションを楽しむことができると知った彼女は、バーチャル見本市の開催にあわせ、メタバース(ほかのユーザーと交流可能な仮想空間)上で日産車をPRしてみませんか?と誘いを受けたのです。
「ちょうど私たちも、VRで何かやりたいと話していたところでした。ただ、どこから始めたらいいのかが分からなくて。ですから、バーチャル見本市のお話をいただいたとき、良いチャンスなので、まずはやってみようと決めました。」(鵜飼)
鵜飼のチームはこれをきっかけに、VRの知見を深めていきました。どんな人たちが参加しているのか、どのように日産の商品を楽しんでいるのか、日産にとってどのようなインパクトがあるのか。そして、検証の結果、VRを使ったさらなる施策に取り組むことにしました。
「ただ流行っているからやるのではなく、きちんと検証して、日産として価値のあることは何かを確認した上で、VRへの参入を決めたのです。」
2021年11月、日産はバーチャルギャラリー「NISSAN CROSSING」をVRChat上にオープンします。銀座にあるNISSAN CROSSINGをメタバース上で再現し、「日産アリアとめぐる環境ツアー」など、バーチャルイベントを継続的に開催しました。
2022年5月20日には、日産の新しい軽の電気自動車(EV)である「日産サクラ」がリアルとメタバース上で発表されました。リアルな世界での発表会に加え、VRの世界でも「日産サクラ」がお披露目されたのです。そして同日、バーチャル試乗ワールド「NISSAN SAKURA Driving Island」もオープン。VRゴーグルを持っていれば、いつでも、世界のどこからでも参加できるメタバース上の試乗会です。
この試乗会では、免許証を持っていなくても、「日産サクラ」を運転できます。ちょっとクルマを見てみたい、クルマに乗って車内で遊んでみたいというお客さまも参加できます。そして、実店舗への来店は躊躇してしまうというお客さまも、メタバース上であれば、気軽にお店に立ち寄ることができるのです。(実店舗でも、見るだけ触るだけのご来店も心よりお待ちしております。)
「日産サクラ」には、日本の四季を想起させるボディカラー4色が設定されています。そして、「NISSAN SAKURA Driving Island」でバーチャルのハンドルを握れば、桜のトンネル、夏の海辺、秋の紅葉、冬の雪景色という四季折々の美しい風景の中をドライブすることができます。そんなバーチャルの「日産サクラ」は、実際の車両のデータから作成されているため、クルマをもっと高解像度で表示することもできました。しかし、鵜飼は、
「あえて、そうしませんでした。ハイスペックなPCを持っていなくても参加できるようにしたかったからです。私たちは、リアルの世界と同様、VRの世界でも、多くのお客さまに日産のクルマを身近に感じていただきたいのです。できるだけ親しみやすく、誰もが参加しやすい。そんな体験を提供したかったのです。」
例えば、クルマの魅力の一つは、家族や友人とドライブに出かけて、一緒に楽しい時間を過ごせること。こうした実世界での体験を、バーチャルの世界でいかに提供するのか。
「VRChatには仲間と一緒に何かをする、楽しむという土壌がすでに存在しているので、それを大切にしました。とにかく、人と人がつながり、共感できる体験づくりを目指したのです。また、ヘッドセットの使用は没入感のある体験ができ、より感情を揺さぶります。スマートフォンでVRを体感する方が手軽かもしれませんが、あえて、ヘッドセットの利用にこだわりました。」
そして、お客さまがインタラクティブに楽しめるような仕掛けも用意しています。
「例えば、充電ステーション。コネクターを手に取り、クルマの充電ポートの蓋を開けて、充電することができます。この充電スポットに来て初めて、『日産サクラ』がEVであることを知るお客さまもいます。また、『モノ』を持ちあげたり触れたりするような細かい仕掛けも随所に織り込みました。秋の茶屋にある、抹茶の茶椀やお団子などは手に取ることができます。また、春のエリアにあるカフェの横には、四季をイメージした4色の箱を用意しました。これを押すと、横に展示されている『日産サクラ』のボディカラーが変わります。ほかにも沢山の仕掛けがあるので、是非探してみてください!」
「NISSAN SAKURA Driving Island」は5月20日の公開からこれまでに、13,000人(7月末現在)を超えるお客さまが訪問されました。鵜飼は、体験できることのレベルの高さに驚かれる方も多いと言います。
「実世界そっくりの『日産サクラ』や、お友達(のアバター)と一緒に会話しながらドライブを楽しめることに、高い評価をいただいています。先日も、ここでの体験が楽しかったという理由で『日産サクラ』を購入されたお客さまがいると聞きました。その方は、これまで日産との関わりはあまりなかったそうです。VRがなかったら、このお客さまとの接点はなかったかもしれない。そう考えると、すごい時代になったなと思います。いつか、現実でもVRでも良いので、その方にお会いして、聞いてみたいことがたくさんあります(笑)」
- VRChat:VRChat Inc.によって運営されているソーシャルVRプラットフォーム
【一般公開ワールド NISSAN CROSSING 及びNISSAN SAKURA Driving Island】
公開先:VRChat上 ワールド検索から「NISSAN CROSSING」もしくは「NISSAN SAKURA Driving Island」を選択
対応: Meta Quest 2対応
費用: 無料