カーボンニュートラル
2050年カーボンニュートラル実現に向けて
日産は、2050年までに事業活動を含むクルマのライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルを実現するため、2030年代早期より、主要市場に投入する新型車をすべて電動車両とすることを目指し、以下の戦略分野において、電動化と生産技術のイノベーションを推進します。
- よりコスト競争力の高い効率的なEVの開発に向けた全固体電池を含むバッテリー技術の革新。
- エネルギー効率をさらに向上させた新しいe-POWERの開発。
- 再生可能エネルギーを活用した、分散型発電に貢献するバッテリーエコシステムの開発。電力網の脱炭素化に貢献する、エネルギーセクターとの連携強化。
- ニッサン インテリジェント ファクトリーをはじめとする、車両組み立て時の生産効率を向上させるイノベーションの推進。生産におけるエネルギーと材料の効率向上。
日産の気候変動への対応
気候変動への対応は、グローバルに取り組むべき重要課題のひとつとして、1992年に気候変動枠組条約が採択されたことに始まり、国際的な長期目標が論議されています。2021年4月の気候変動サミットでは、2050年のカーボンニュートラル実現のため、40か国・地域の首脳が参加し、2030年に到達するCO2排出量目標が公開されました。気候変動に対するグローバルな課題解決に貢献するべく、日産は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書から2℃シナリオに基づいた長期ビジョンを2006年に策定し、バックキャストしたマイルストーンを確実に達成することで継続的な成果を収めてきました。2020年には、国際エネルギー機関(IEA)が提示した4℃と2℃シナリオ、およびIPCCの1.5℃特別報告書に基づいた社会を想定し、気候変動がもたらす機会とリスクに対するシナリオ分析を実施し、戦略のレジリエンス性を検討しました。
このような影響や検討した戦略を、投資家などのステークホルダーにより分かりやすく的確に伝えることが重要だと考え、日産はTCFDの提言を支持するとともに、その推奨される枠組みに沿った情報開示に努めていきます。(TCFD: The Task Force on Climate-related Financial Disclosures)今年度は、すでに開示をしているシナリオ分析をもとに、財務インパクト評価に着手しました。以下に、炭素税の影響についての評価結果を紹介します。
財務インパクト評価のシナリオ選定背景
二酸化炭素排出に対する価格付けが進み、炭素税を導入する国・地域が拡大しています。国・地域により、課税の水準や対象となる業種も異なりますが、企業に対する影響が大きいため、この分析では炭素税による財務インパクトを対象とします。
算定式と試算額の評価、前提条件
試算では、日産の炭素税予測の基礎としてIEAレポートなどを参照しています。
2030年時点のGHG排出量の炭素税を、次の条件で算出しています。
①2018年時点の企業活動が継続された場合
②NGPによる環境課題への取り組みが促進され、単年度での炭素税の影響を抑えた場合
事業展望の影響度
NGPによる環境課題の取り組みを実施した場合、GHG排出量を削減しなかった場合に比べ、Scope1&2で炭素税の影響を約100億円抑えることができると試算されました。
対応戦略
これまで日産は約20年「ニッサン・グリーン・プログラム」を推進し、環境課題に取り組んできており、2021年度は05年度比でCO2排出量(t-CO2/台)の32.9%削減を達成しました。
2021年7月に発表したEV生産のエコシステムを構築するEV36Zeroや、同年10月に発表したNissan Intelligent Factoryは、未来に向けた日産のロードマップの具体例です。エネルギー削減、生産設備の高効率化や電化技術適用、再生可能エネルギーの導入とバイオエタノールやSOFCなどの代替エネルギー適用を拡大していきます。
さらに、レジリエンス性を拡大した戦略として、2021年1月に、2050年までに材料採掘から製造、走行、廃棄に至るクルマのライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルを実現する新たな目標を発表しました。日産は、クルマの走行時だけでなく、原材料の調達から輸送に至るまで、サプライヤーを含むバリューチェーン全体でのCO2排出量を視野に入れ、新たな技術開発を進めており、製造工程における再生可能エネルギーの活用強化など、CO2削減に取り組んでいきます。
よりコスト競争力の高い効率的なEVの開発に向けた全固体電池を含むバッテリー技術の革新
バッテリー技術の革新
バッテリーの技術革新においては、アライアンスで規格をそろえ、共用化率を高めることで、スケールメリットと技術競争力の向上を図ります。長期的なロードマップを策定し、サプライヤーと共同でのバッテリー材料開発をさらに進め、希少金属であるコバルトの使用量を抑えたバッテリー材料開発や全固体電池など、バッテリー技術の革新を加速していきます。同時に、バッテリーコストについてもバッテリーパックの更なる最適設計の追求や製造プロセスの合理化をサプライヤーとともに取り組むことを通じて、2030年前までには、内燃機関同等の収益率を達成する予定です。
電動車両普及に欠かせない安全性
日産が、電動車両を開発・提供する上で重視している要件の一つが安全性です。性能向上のためにバッテリーエネルギー密度を高める一方で、市場に投入する前にさまざまな厳しい条件でテストを行い、安全性と信頼性を徹底確保しています。「日産リーフ」は初代の生産開始から現在まで58万台(2022年3月末時点)の販売実績がありますが、バッテリー起因の重大事故を1件も起こしていないことがその証です。今後も、お客さまのさまざまな使用環境を市場走行データから予測し、高度な信頼性設計・実験基準に落とし込み、開発に反映するとともに、EV普及とCO₂を排出しないモビリティの実現に貢献していきます。
エネルギー効率をさらに向上させた新しいe-POWERの開発
e-POWERの開発
「e-POWER」は、ガソリンエンジンにより発電し、その電力を利用してモーターの力だけで走行する、日産独自の電動パワートレインです。100%モーター駆動ならではのレスポンスの良さ、なめらかな加速とともに、トップレベルの燃費を両立します。「電気自動車のまったく新しいかたち」をキャッチフレーズに、「e-POWER」は 、2016年11月にコンパクトカーの「ノート」へ初搭載しました。その後、2018年3月にはミニバン「セレナ」に、2020年6月には新型SUV「キックス」に、そして、同年12月には大幅に進化した第2世 代「 e-POWER」を新型「ノート」に搭載しました。いずれのモデルも好評を博し、2021年3月末時点での「e-POWER」の国内の販売累計は50万台を突破しました。日産は、カーボンニュートラル実現に向けて、2030年代早期より、日本を含む主要市場に投入する新型車すべてを電動車両とすることを目指し、「e-POWER」をEVと並ぶ同社の電動化技術の要と位置づけ、脱炭素に大きく貢献する技術開発を進めています。次世代の「e-POWER」向け発電専用エンジンでは、世界最高レベルの熱効率50%を実現する技術を開発しました。現在、一般的な自動車用ガソリンエンジンの最高熱効率は30%台であり、40%台前半が限界とされる中、日産が実現した熱効率50%は、エンジンが発電専用であることを最大限に活かした「e-POWER」だからこそ実現した、エンジン開発において極めて革新的なものです。内燃機関の技術はバッテリーEV技術と並び、電動化の重要な柱として、さらなる技術革新を続けていきます。
再生可能エネルギー活用に貢献するバッテリーエコシステムの開発
バッテリーリユースによる価値創造
日産は、再生可能な高性能リチウムイオンバッテリーの二次利用を「4R」事業と銘打ち、再利用(Reuse)、再販売(Resell)、再製品化(Refabricate)、リサイクル(Recycle)の分野において、住友商事株式会社と共同で2009年10月より検討を進めました。2010年9月には、住友商事との合弁会社であるフォーアールエナジー株式会社を設立し、研究開発や実証実験を行ってきました。2018年3月に福島県双葉郡浪江町に事業所を設立し、市場から回収されたEVの使用済みバッテリーを状態や性能によって分別し、さまざまな二次利用先に供給・リユースすることで新たに生まれる価値をお客さまに循環・還元していくビジネスモデルをすでに構築しています。このビジネスモデルをさらに拡大することにより、電池の再利用による「電動車の価値向上」、「電池に必要な貴金属の資源問題への貢献」、「電池製造時のCO2削減」を実現し、電動車両のさらなる普及に繋げていきます。また、安全性・信頼性が高く、かつ価格競争力の高い再生電池を提供することで、再生エネルギー拡大に貢献していきます。
将来のモビリティ社会の実現に向けて
EVを中心としたクルマの最先端技術は、商品としてクルマを所有いただくお客さまのためだけでなく、社会の中で人々の暮らしを豊かにしていくことにも広く貢献します。日産は、EVに搭載されたバッテリーの蓄電・放電機能を活かし、EVの魅力をさらに向上させるソリューション「ニッサンエナジー」*1を提供しています。その中の1つである「ニッサンエナジー・シェア」は、V2X技術(V2L、V2H、V2B、V2G)を活用し、EVに貯めた電力を多方面で活用(シェア)することにより、EVが移動可能な蓄電池として家庭や社会へ電力を供給しています。2012年より、「日産リーフ」のバッテリーに貯めた電気を家庭に電力供給するシステム"LEAFtoHome"を市場に導入するなど、再利用バッテリーを活用したエネルギーストレージを電力グリッドに繋いで電力需給調整を行うエネルギーマネジメントシステムの研究にも取り組んでいます。さらに、これまで培ってきた先進安全技術や自動運転技術、電動化技術、コネクテッド技術をフルに活用し、自治体とも連携して誰もが安心して移動できる環境構築を目指すとともに、それによって生まれる新しいビジネスモデルの検証も進めています。
- 「ニッサンエナジー」に関する詳細はこちらをご覧ください
ブルー・スイッチの展開
日本国内では“日本電動化アクション『ブルー・スイッチ』活動を展開しています。EVを活用し、環境、防災・減災、エネルギー、過疎化・交通弱者対策、観光にまつわる地域の課題解決を図り、住む人がワクワクする“まちづくり”の実現を地方自治体や企業とともに実践しています。「日産リーフ」に搭載されている大容量リチウムイオンバッテリーは、力強い走行性能に寄与するだけでなく、“走る蓄電池”としての価値も持ち合わせています。この価値に基づき、日産は、災害などによる停電時の非常用電源として「日産リーフ」を活用する災害連携協定を全国数多くの自治体や企業と締結しています。「日産リーフ」を使用したエネルギーコストとCO2削減や、バーチャルパワープラント*2構築等の実証実験に代表されるエネルギー・マネジメントなど、電気自動車の利点を余すことなく活用した事例も増えています。また、観光地での環境に配慮した二次交通手段としてのカーシェアサービス導入や、過疎地における交通弱者対策としてのオンデマンドタクシーなど、「日産リーフ」は新たなソリューションとして、さまざまなシーンで活用されています。これらすべての『ブルー・スイッチ』活動は2018年の開始以来、すでに172件以上にのぼります。
- 仮想発電所(VPP)と呼ばれ、自治体や企業、一般家庭のお客さまなどが保有している発電設備や蓄電池、電気自動車など、地域に分散して存在するエネルギーリソースをIoTなどの新たな情報技術を用いて遠隔制御し、集約することで、あたかも一つの発電所のように機能させること。
「日産リーフ」のV2G技術を使ったドイツでの実証実験
日産は、EVバッテリーを活用した取り組みをグローバルで行っています。2019年12月、ドイツ連邦交通デジタルインフラ省(BMVI)の支援を受け、ボッシュ・ソフトウェア・イノベーションズとフラウンホーファー研究所とともに、ドイツにて「i-rEzEPT」*プロジェクトを立ち上げました。プロジェクトでは、住宅の太陽光パネルの発電電力による「日産リーフ」の充電と、「日産リーフ」から家庭や電力グリッドへの電力供給を組み合わせ、再生可能エネルギーの有効活用を目指します。また併せて、電力グリッドの負荷低減や、EVの総保有コスト削減の効果も検証します。日産は、太陽光発電システムを保有する13世帯に、「日産リーフ」と双方向充電器を提供し、プロジェクトを主導しています。このプロジェクトは2021年10月まで継続し、2022年は実証結果を報告する予定です。
- i-rEzEPT:intelligenterückspeisefähigeElektrofahrzeugezurEigenstrommaximierungundPrimärregelleistungsmarkt-Teilnahmeの略。「自己発電電力最大化と一次電力需給調整市場参入のためのインテリジェント充放電対応電気自動車」を表しています。
持続可能な未来の“まちづくり”
日産は、カーボンニュートラルを実現し、持続可能な未来のモビリティサービスを提供するため、日産のイノベーションで地域の人々の生活を豊かにする取り組みを行っています。2021年2月初旬に、日産は、福島県沿岸部の浪江町、双葉町、南相馬市の3自治体とフォーアールエナジーや地元の販売会社を含む8企業とで、「福島県浜通り地域における新しいモビリティを活用したまちづくり連携協定」を締結しました。東日本大震災からの復興、ならびに3自治体が目指す、夢と希望のある未来の“まちづくり”において、各社が持つ資源、先進技術やノウハウを生かしながら、地域住民とともに創り上げていくことを目的としています。また日産は、浪江町スマートモビリティーチャレンジ事務局参加団体の一員として、福島県双葉郡浪江町において地域を支える新たなモビリティサービスの実証実験を2021年2月中旬に実施しました。この新たなモビリティサービスは、浪江に暮らす人や浪江を訪れる人の移動に関する課題解決を目的としました。この実証実験は、すべて電気自動車を使用しており、将来に向けた自動運転技術の導入を見据え、巡回シャトルの運行では自動運転車両による走行実験も実施しました。本サービスの提供による利便性の向上を模索し、過疎地においても持続可能となるサービスの提供を目指しています。
生産効率向上に向けたイノベーションの推進と生産におけるエネルギーと材料効率の向上
ニッサン インテリジェント ファクトリーの実践
クルマやエネルギーを通じてのカーボンニュートラル実現への取り組みに加えて、次世代のクルマづくりコンセプトとして導入を予定している「ニッサン インテリジェント ファクトリー」は、車両組み立て時の生産効率を向上させるイノベーションの推進や生産におけるエネルギーと材料の効率向上など自社の製造段階での取り組みを通じて、さらなるCO2削減に貢献していきます。例えば、ボディの低温塗装を実現することにより、CO2排出量を25%低減し、水を一切使わないドライブースの採用により、水資源の使用削減も実現しています。
また、英国最大規模の自動車工場であるサンダーランド工場の再生可能エネルギーの発電施設を大幅に拡張し、既存の風力発電施設と太陽光発電施設に加え、37,000枚の太陽光パネルからなる20MWの発電設備を導入する計画です。この増設により、工場のエネルギーの20%は敷地内で作られる再生可能エネルギーで賄えることになり、欧州で販売される「日産リーフ」の車両組み立て段階の電力を再生可能エネルギーで賄うことができる見込みです。
アルミ部品のクローズドループ・リサイクル
日産では、新規採掘資源の使用量削減を通じたCO2排出量削減の取り組みも推進しています。例えば、新型「ローグ」を生産する北米や日産自動車九州および新型「キャッシュカイ」生産する欧州において、アルミメーカーと協働し、アルミ部品のクローズドループ・リサイクルプロセスを適用しました。クローズドループ・リサイクルプロセスとは、生産時に発生した廃棄物やスクラップ、そして回収した自社の使用済み製品を同等の品質を維持した材料として再生し、再び自社製品の部品に採用する手法のことです。このプロセスの採用により、原材料から一次合金を製造したパネル部品を採用した場合と比較し、CO2排出量の大幅な削減を実現するとともに新規採掘資源に頼らない材料への代替ならびに工場からの廃棄物削減をさらに推進しています。また、これらの車種は、フードやドアなどのパネル部品にアルミニウム板を採用しており、車両の軽量化による燃費性能や動力性能向上を実現しました。今後、その他の工場や車種にこのプロセスの適用を拡大することを検討しています。日産は、リサイクル材の使用やバイオ材の開発、サプライヤーや自社でのリサイクル活動、車体軽量化への取り組みなどを推進し、資源を効率的かつ持続的に使う仕組みを構築していきます。
未来に向けたロードマップ
世界初の電気自動車生産ハブ「EV36Zero」
日産は、ライフサイクル全体でのカーボンニュートラル実現を目指し、EVの開発・生産だけではなく、車載バッテリーの蓄電池としての活用や、二次利用など、包括的な取り組みを行ってきたパイオニアです。欧州におけるカーボンニュートラルの実現に向け、パートナーとともに、自動車産業の次のフェーズを切り拓くべく、世界初の電気自動車(EV)生産のエコシステムを構築するハブとして「EV36Zero」を2021年7月に公開しました。
- 新世代のクロスオーバーEVを英工場(サンダーランド工場)で生産
- エンビジョンAESC社はサンダーランド工場の隣接地に新たな年間生産能力9GWhのギガファクトリーを建設
- 再生可能エネルギーを利用した「マイクログリッド」から100%クリーンな電力をサンダーランド工場に供給
- EV用バッテリーをエネルギーストレージとして二次利用することで、究極のサステナビリティを実現
- この包括的なプロジェクトにより、サプライヤーを含め、英国に6,200名の雇用を創出
EV36Zeroにより日産は、サンダーランド工場を中心にカーボンニュートラルへの取り組みを加速させ、ゼロ・エミッション実現に向けて、新たに360度のソリューションを確立します。この革新的プロジェクトには、日産とエンビジョンAESC、そしてサンダーランド市議会によって10億ポンドが投資され、EV、再生可能エネルギー、バッテリー生産という相互に関連した3つの取り組みによって、自動車業界の未来の青写真を示しています。このプロジェクトで得られた経験・ノウハウを他の地域にも共有し、グローバルでの競争力を高めていきます。今後も日産は電動化における強みを活かし、お客さまと社会に価値を提供しつづける企業を目指していきます。