キレイな水を自然に返そう! 日産栃木工場の挑戦

2020/03/26
  • サステナビリティ
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春の日差しになり気温が暖かくなってくると、冷えたペットボトル飲料に手が伸びる機会も増えてきますね。日産では、従業員が飲み終えたペットボトル飲料の容器は、回収して自動車部品の素材として再活用しています。日産が目指す「ゼロ・エミッション」は電気自動車「日産リーフ」のように「排出ガス」を出さないことだけでなく、こうした資源の再利用や事業所でのゴミや廃棄物(エミッション)を出さない活動まで多岐に渡っています。今回は、日産が環境の重要課題分野の一つに位置づけている「水資源」の取り組みについてご紹介します。

実は皆さんにクルマをお届けするまでの過程で一番「水」を消費するのは、クルマを組み立てる生産工場なのです。水資源は、地域の環境により大きく異なるので、事業所のある地域特性にあった取り組みが必要になります。「NISSAN GT-R」「フェアレディZ」「スカイライン」等の高性能車を生産する日産栃木工場は、武名瀬川や栃木の自然100選の一つ「磯川緑地公園」を擁する磯川が流れ、従業員には水質管理のエキスパートがいます。そこでは、実際どのような取り組みが行われているのでしょうか。栃木工場で長年、周辺地域の水を守り続けてきた技術者の吉田 一美と、その取り組みを受け継ぐ吉田 雄登の2人の「吉田」の対談形式でお届けしましょう。

〔左:吉田 雄登 右:吉田 一美〕

徹底した管理により、放水先の磯川には蛍が棲む

吉田 一美:栃木工場内で使用しているのは井戸水です。まず井戸から水を汲み上げて殺菌処理して飲み水、生産用の水等として活用。各工程から排出された水はすべて工場内にある水処理場に集められ、油分、有機物、懸濁物質、アンモニア、有害金属などの汚染物質を法律より厳しい社内管理基準値まで取り除いてから、地域の川へと放流しています。栃木工場では水資源に関する環境保全活動を徹底しており、工場東側にある磯川は蛍が生息するほどきれいな水質を維持しているんです。

汚染物質を除去する方法には物理化学処理と生物処理があります。物理化学処理は、薬品などを使って汚染物質を沈殿させることで水と分離します。生物処理は、廃水にある成分を生物に食べてもらうことで除去します。栃木工場では原水槽、生物処理槽、生物処理受水槽、凝集槽、中和槽、凝集沈殿槽、活性炭原水槽、放流口の8段階で水処理を行なっています。

水処理場に流れてくる水は日ごとに違います。休日に流れてくる水には汚染物質があまり含まれていませんが、月曜日になり生産稼働が本格化すると汚染物質の濃度が高くなり、水処理への負荷が増加します。つまり、稼働状況や事故などで廃水処理は大きく左右されるので、技能を蓄積してあらゆる状況に対処し対応出来るようにして地域河川の水質を守るのが、私たちの仕事です。

水処理は最後の砦、生産に影響が出ようとも基準値を守る

吉田 一美:私たちの最大の役割は基準値を超えた水を決して地域に流さないことです。たとえ生産に影響が出ようとも、基準値は守らなければなりません。

実は2000年のことですが、塗装ラインからの廃液が川に流れてしまい、生物に影響を与えてしまったことがありました。地域の環境に影響を与えるというのはあってはならないことで、地域社会との信頼関係も失ってしまいます。そのときに得た教訓を今でも胸に刻んでいます。

吉田 雄登:一度、汚染した水を流出させてしまえば、その後処理には膨大な時間がかかります。最後の砦として責務の重大さを、当時を知らない社員に対しても何度も教え込まれました。

吉田 一美:汚染物質の量が増えると、その処理には時間がかかります。一定量を超えると処理できなくなるので、流れてきた廃水の色や濃度を見て、どのように対応すべきか判断しなければなりません。処理できないのであれば生産現場で水を流すのを止める必要がありますが、生産を止めるとなるとその影響はとても大きい。生産を維持するとともに汚染物質も処理できるよう、各工程の廃水には基準を定め廃水量を調整してもらうのですが、的確に判断するには経験を積み重ねるしかありません。私も「これは大変だ、処理できるのだろうか」という胃が痛くなるような経験を何度も乗り越えてきました。

吉田 雄登:吉田からは「まずはサンプルを採ってしっかりと自分の目で確認し、成分や濃度を自分で判断するように」と“現場”“現物”“現実”の三現主義の大切さを教えられていました。通常と違う量や濃度、成分の水を流す場合は、生産現場から「水を流していいか」という問い合わせがきますが、その場合も必ず現場に行って、その水をしっかりと目で見て確認することが大切です。作業者が薬品の成分を把握していても勘違いの場合もあるので、自分たちで確認する必要があります。廃水にもいろいろな特徴があり、分析方法を工夫しないと検出できない成分もあります。ですから1つの検査で済ませるのではなく、3種類ぐらいの分析を行い、トータルの結果をもとに判断するようにしています。

吉田 一美:川に流れる水質を守るためには、各工程から出る廃水も基準内にコントロールしてもらうことも重要です。そのためにも的確な判断が求められます。

色々なことに左右されるからこそ、経験を重ねる

吉田 雄登:2年前、塗装関連で新しい業者が循環水に関する実験を行いましたが、その結果、水の成分が極端に悪化したことがあったんです。私たちは汚染物質の含有率を10ミリグラム/リットル以下に抑えて放流していますが、その水には25,000倍もの汚染物質が含まれていました。私たちは避難槽に水を移し、半年ほどかけて微生物の浄化作用を利用して汚染物質を処理しました。

吉田 一美:生産現場ではいろいろなことが起こります。生産量が急激に増加する場合もあれば、配管に穴が開いて薬品が漏れるといった事故も考えられる。どんなときでも確実に処理し、汚染物を流出させないようにするには日頃の管理も重要です。基準値をクリアするギリギリのラインではなく、ダントツ品質を保証して地域の河川へ放流し、地域環境保全に貢献したいと考えています。

吉田 雄登:私たちは汚染物質に関する膨大なデータを持っています。各工程の廃水も全部調べて把握しているので、現場からの問い合わせにもすぐに判断できるように備えています。

吉田 一美:生産現場に新しい薬品を導入する際にはさまざまなテストを実施し、どのくらいの濃度で使用すれば水処理場で汚水処理できるかを確認。生産部門に使用濃度を伝えた上で、その結果をファイルで管理しています。

吉田 雄登:天気によっても廃水の濃度は変わります。雨が降ると道路の汚れが排水溝などから流れ込みます。また、塗装のミキシング場(塗料混合室)や危険物倉庫など汚染物質が発生しやすい場所では土壌に染み込んだ雨水も水処理場に流れ込むようになっているので、処理しなければならない汚染物質量は増加します。

大雨が降ったときなどは特に水処理が難しくなります。だから違う班の担当でも「私にやらしてください」と積極的に声掛けするようにしています。この部署に配属になった頃は何の知識もありませんでしたが、少しずつ覚え、できることが増えているのが私にとってのモチベーションですね。

水処理場の後工程は地域にとって大切な川であり、生活に関わるので、間違いが許されません。いつでも慎重に行動するように心がけています。自分は現在、水処理場の責任者になるため「水質関係第1種公害防止管理者」の資格取得を目指しています。

吉田 一美:栃木工場の若い仲間たちと共に経験を積んで、将来の栃木工場の水処理を背負ってほしいですね。

日産栃木工場からは、平均で毎時300トンもの水が放出されます。先述の武名瀬川や磯川などへの放水範囲は地元の上三川町の土地の約9%を占めます。上三川町では、この水を農業用水として活用しており、地元の産業を支える重要な「水源」です。そこで育つ稲作のほか、イチゴや夕顔を加工した干瓢(カンピョウ)などの農作物が自慢です。工場見学*とともにぜひ地元「かみのかわブランド」の特産品を味わってみてはいかがでしょうか?

  • 現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、工場見学は3月31日まで見合わせています。最新情報はコチラをご覧ください。

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