異業種や行政とスクラムを組み、CASEで街づくりへトライ!

2021/03/16
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2021年2月、福島県の浪江町で、「新しいモビリティを活用したまちづくり連携協定」が締結されました。参加メンバーは、流通や建設コンサルタントなどさまざまな企業と日産、そして福島県の浜通り地域にある3つの自治体です。そのオンライン調印式には、各自治体から首長が、各社から社長クラスが揃い、このプロジェクトにかける熱い意気込みが伝わってきました。

日産からは社長の内田誠がオンラインで参加し、「もっとも大切にしたいのは、さまざまな取り組みや生活の基盤に“ワクワク”する要素を織り込むことです。帰還された住民の方や新たに転入されてきた方々、仕事や観光で訪れた方々が、“ここに住んでみたい”と感じるような『まち』にするお手伝いができればと考えています」と強い意欲を語りました。

さて、これほど多くの人たちがスクラムを組み、情熱をもって取り組む「まちづくり」とは一体どのようなものなのでしょうか? 一部報道も出始めていますが、奥が深い取り組みなので、少しかみ砕いて解説してみましょう。

福島と日産

そもそもなぜ福島?と思われたかもしれません。日産と福島のかかわりは1992年にさかのぼります。南部のいわき市にエンジン工場の建設を開始し、1994年から世界各地に向けた高級車や高性能車用のV6エンジンを生産しています。

10年前、2011年の東日本大震災の際には日産いわき工場も被災し、地元地域とともに復興に取り組んできました。

2018年には、電気自動車「日産リーフ」などに使用されていたバッテリーを車両だけでなく、さまざまな用途に再利用する事業を手がける関連会社「フォーアールエナジー」の工場を浪江町に開所しました。

協定の内容

さて、今回の協定を結んだのは、福島県の浪江町、双葉町、南相馬市の3自治体と、流通の「イオン」、物流の「日本郵政」、建設コンサルタントの「長大」、地図の「ゼンリン」、そして日産自動車と車載バッテリーを再利用する関連会社「フォーアールエナジー」および地元の日産系販売会社です。

何しろまちづくりなので協定の中身は多岐にわたり、大きく4つに分けた盛りだくさんの取り組みで構成されています。

  • 新たな移動手段としてのモビリティサービス
  • 再生可能エネルギー(再エネ)活用による低炭素化
  • コミュニティ活性化
  • 災害に対する強靭化

これらは日産が未来への重点課題と位置付ける「CASE」と呼ばれる4領域――「つながるクルマ」(Connected)、「自動運転」(Autonomous)、「カーシェア」(Share)、「電気自動車」(Electric) ――やMaaS(サービスとしてのモビリティ)の方向性とも合っていますね。

このうち、とくに新機軸となる「モビリティ」と「再エネ活用」の2つの取り組みを詳しくご紹介しましょう。

新しい移動手段

過疎化や高齢化は日本の地方都市に共通する悩みです。さらに、この地域特有の事情として、震災後の避難指示が徐々に解除されるに伴い、帰還する住民の方々だけでなく、ビジネスや観光で訪れる方々のための移動手段の確保が求められています。しかし、バスや電車などの公共交通機関を再整備するには莫大な初期費用と維持費が必要ですし、将来にわたって持続させることの難しさは、次々と廃止される地方のローカル路線からもお分かりいただけるでしょう。

そこで全く新しい交通手段として、ビジネスや観光にも役立ち、さらにお年寄りなど「移動弱者」の方々にも優しいEVを活用したシャトルサービスを提供してみよう!というのが今回の実験です。名付けて「なみえスマートモビリティーチャレンジ」。一般的なシャトルでは、出発地と目的地を1本で結んだ「ドアtoドア」のサービスが提供されますが、これには数多くの車両やドライバーが必要となります。そこで今回のチャレンジでは、「ハブ&スポーク」という新しい発想でシャトルを運行します。

自転車の車輪を思い浮かべてみてください。道の駅など街の中核施設が「ハブ」で、そこから放射状に自宅や目的地に延びる経路が「スポーク」です。そしてハブ同士を「シャトル」が結びます。この2種類の便によって、効率よく運航できるという仕組みです。利用者はスマホのアプリで乗車の予約をして市中心部に向かい、そこから巡回するシャトル便に乗り換えて買い物などに向かうことができます。

シャトル便の発着は「デジタル停留所」を使います。 写真で見ていただくとわかると思いますが、スマートフォンのアプリや、道の駅やイオンなどに設置されている「デジタル停留所」は文字が大きく、シンプルで直観的に使いやすいグラフィックになっていて、高齢者の方々にも使いやすくする工夫が見られます。

さらに、モビリティサービスは人だけでなく、スーパーで購入したものを配達するデリバリーサービスの実験も行っています。 スーパーで買い物したとき、特に重たいお米や水などを持ち帰るのは大変ですよね。その問題を解決するためのアイディアが、定期的に走行している「シャトル」や「スポーク」が人と一緒に買い物したものを運ぶ“貨客混載”。そして、郵便局と連携し、郵便配達のクルマを活用して荷物を自宅に配送するサービス。このように効率的に低コストで荷物を配送できる、持続可能なサービスの構築に向けた検証も行います。

そして、この「シャトル」は将来、自動運転での運用も視野に入れています。

実証実験に参加した住民の方々からは、
「クルマを運転できないので、買い物や役場、郵便局などに出かけるとき大変助かる」
「電話などでの予約する必要がなく、停留所(デジタルバスストップ)の前に立てば、シャトルが来るので便利」

といった利便性をご評価いただく声や、
「このサービスが実際にあれば、安心して浪江で一生を過ごせる」

と、ふるさとで暮らす喜びを語った声も聞かれました。
実証実験の様子は、ぜひ動画でご覧ください。

なぜ再エネにEVが必要?

ここ最近、各国政府や自治体、多くの企業が、「脱炭素化社会」や「カーボンニュートラル」の実現に向けた目標を掲げてきています。その鍵となるのは、再生可能エネルギー(再エネ)の活用です。太陽光発電や風力発電などは、自然エネルギーとも呼ばれ、目新しいものではありませんが、本気で導入するうえで大きなハードルになっていたことがあります。ちょっと背景をご説明します。

「太陽電池や風車で発電した電気は、電線につなげばすぐ使えるんじゃない?」と思いがちですよね。実はそのまま系統電力や家庭に流し込むことはできないんです。何故か?太陽の光や風の強さは、天候などの自然状況に影響を受けるため、一定ではありません。そのため、太陽光発電や風力発電は天候などによって発電能力が変動します。そのため、電力需要にあわせた発電が難しいのです。

そこで、太陽光発電や風力発電の再エネを活用するためには、需要に応じて使い切れない電気を貯めたり、足りない電気を補ったりすることなどが必要になります。そこで登場するのが、EVの大容量バッテリーです。これを蓄電池として活用し、不安定な再エネで発電した電力を細かく制御しながら充放電することで、需給バランスを保って安定供給することができるようになります。EVのバッテリーは、数百分の1秒の単位で大電流を制御しながら走行できるように設計されているため、それを再利用した定置型バッテリーを使えば、秒単位で変化する再エネの発電量をオフセットすることが可能になります。

また、夏場は電力需要が最も高まる日中の「ピークカット」にも、EVや定置型蓄電池が役立ちます。近年、気候変動やエアコンの普及により、真夏や真冬の電力不足を耳にすることも増えてきましたよね。そんな場合にも、電力需要の少ない夜間にEVや蓄電池へ充電した電気を、日中に放電して使用すれば、ピーク時の電力需要を減らすことができます。

今回の連携協定でも、「走る蓄電池」としてのEVやEVに搭載されていたバッテリーを使用した定置型蓄電池を主要施設などで活用し、街全体でのエネルギーマネージメントに取り組むことも目指しています。

プロジェクトにかける想い

今回の連携協定に基づく一連のまちづくりプロジェクトのユニークな点は、更地に人工都市を作るのではなく、「そこに暮らす地元住民の方々のお役に立ちたい!」「災害復興で元通りにするだけでなく、最先端の技術とこれまでの知見を惜しみなく投入して、生活を豊かにするお手伝いがしたい」という想いをともにする企業と行政がスクラムを組んで挑戦することです。

日産の開発を統括する副社長の中畔邦雄は「本プロジェクトに日産が参加する意義は、私たちの技術で町の暮らしを便利にすることで、震災前の住民を含め、外からの人を呼び込んで真の復興を手助けすることです。今回の協定を皮切りに、日本でのモビリティサービスの先駆けとして、浪江エリアに自動運転などを活用したモビリティサービスだけでなく、4RエナジーをハブとしたEVの中古バッテリーを再利用したエコシステムや、それらを軸にしたコミュニティを地域と一緒に作り上げていきたいと考えています」と語りました。

他に例を見ないスクラムによって、どのようなトライをもたらすことができるか、ぜひご期待ください。

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