日産は、新型EVクロスオーバー「日産 アリア」を発表しました。これは2019年の東京モーターショーで公開した「ニッサン アリア コンセプト」の市販モデルとなるクルマです。
「日産 アリア」は、日産デザインの今後の方向性を示しています。また、「ニッサン インテリジェント モビリティ」が提供する数々の最新テクノロジーが搭載されています。そして、クルマに乗っているときから降りたあとまで、ドライバーに直感的で順応性が高く、シームレスな経験を提供し、ライフスタイルのさまざまなシーンをサポートします。
「ニッサン インテリジェント モビリティ」の究極のアイコンとなる「日産 アリア」。その商品企画を責任者としてリードしたのが、福田 真人です。ある春の日の朝、厚木にある日産テクニカルセンターにて、福田が「日産 アリア」の開発時に経験したひらめきや、乗り越えた課題について語りました。
Q:「日産 アリア」が既存のクルマと異なる点はどういった点でしょうか?
福田:2つの点で「日産 アリア」は特別なクルマです。1つ目は、「ニッサン インテリジェント モビリティ」の最新のテクノロジーを網羅するクルマであることです。「日産リーフ」に続く100%電気自動車というだけではありません。全く新しいクルマです。例えば、「日産 アリア」の革新的なインテリアは、飛躍的に進化したプラットフォームとITによって、クルマの持つ可能性を最大限に引き出し、これまでにないドライビング体験を提供します。「日産 アリア」のテクノロジーが、新次元のドライビングを実現しているのです。
2つ目は、「日産 アリア」が自動車の進化の指標となっていることです。私が若い頃、モーターショーで見かけたワクワクするコンセプトカーが、市販モデルになると普通のクルマにしか見えなくなってしまうということがありました。市販モデルをコンセプトカーと同じようにワクワクしたものにできないのは何故だろう、と思ったものです。しかし「日産 アリア」は、コンセプトカーと市販モデルがほとんど変わらないクルマに仕上がっています。
Q:「日産 アリア」を一言で言うと?
福田:「自信」ですね。「日産 アリア」のスタイリングを見ていただければ、滲み出る「自信」を感じられると思います。誇張したキャラクターラインや装飾の追加に頼ることなく、クリーンでパワフルなスタイリングに仕上げました。なぜなら、このモデルを創り出していくうちに、何もことさらに誇張する必要はないと自信を持ったからです。自信を持てば持つほど、何かをみせびらかす必要はなくなります。「日産 アリア」は「自信」という感覚をよく表したクルマです。
Q:「日産 アリア」と「日産リーフ」は異なるクルマですが、共通項もあります。2台はどのようにつながっていますか?
福田:世界中のお客さまに向けてクルマや最先端テクノロジーを開発していくという日産のマインドセットがキーポイントです。「日産リーフ」で実証したように、日産は、そのジャンルに革命を起こすようなパイオニア的な商品を迷うことなく量産するメーカーです。非常に限定的にクルマをつくり、様子を見てから徐々に市場に出していくというようなことはしません。それでは、日産らしくありません。「日産リーフ」と同じく、「日産 アリア」も発売時から量産して、ただ真っ直ぐ進むのみです。
Q:同じセグメントの他のクルマと比べて、「日産 アリア」は路上でどのような特徴を発揮しますか?
福田:まず、「日産 アリア」のインテリジェントパワーに日産のDNAが表れています。電気自動車が語られるとき、よく0-100km/h加速タイムが話題になります。しかし、電気自動車で加速タイムを速くするだけなら、それは簡単なことです。ですから、私は直線で速く加速するというだけでは、パワーをインテリジェントに使っているとは言えないと思っています。「日産 アリア」(AWDモデル)の場合、「e-4ORCE」というツインモーター4輪駆動テクノロジーによってインテリジェントな加速を実現しています。もちろん、「日産 アリア」は直線でも加速が速いクルマです。それに加えて、雪の山道や雨で濡れた街の路面まで、さまざまなシーンで性能を最大限発揮します。「e-4ORCE」には、他にはない、多くの技術が搭載されています。
Q:「e-4ORCE」は動力性能を重視したシステムですか?
福田:ある意味ではそうですね。「e-4ORCE」の制御技術は日産のスポーツカーで蓄積したデータに基づいて開発されているので、動力性能に根差したものと言えます。実際、「日産 アリア」に搭載された技術の多くは、スポーツカーに搭載されていても不思議ではないものです。しかし「e-4ORCE」は、スポーツカーのような性能だけを目指しているのではありません。車両の揺れや沈み込みを最大限抑えて、フラットで安定した乗り心地を提供します。この点が「e-4ORCE」 の一番面白いところだと思っています。高出力のツイン電動モーター、「e-4ORCE」の制御技術、ペダル1つで加減速が可能な「e-Pedal」の機能が組み合わさることで、誰もが熟練ドライバーのように自信をもって、右足だけで290キロワットの爽快なパワーを操りながら、スムースで思い通りのドライビングを楽しめます。運転していて本当にワクワクしますし、高性能車を生み出してきた日産のDNAを感じさせる新感覚のドライビングを楽しむことができます。
Q:「日産 アリア」の素晴らしい加速については分かりました。では、ハンドリングについてはどうでしょうか?
福田:新しいEVプラットフォームのポテンシャルは非常に高いものです。最も重い部品であるバッテリーは、フロアの中心下に配置されています。この配置により、「日産 アリア」の前後の重量配分は、スポーツカーのようにほぼ50:50と理想的なものとなっています。高性能ダンパーを採用し、スポーティなマルチリンク式サスペンションとソフトなモーターマウントによってハンドリングを向上させています。
Q:ボディ剛性は、どれくらい重視しましたか?
福田:非常に重視しました。特にボディ上部の剛性は重要です。クロスオーバーには大きな開口部を持つバックドアがあるので、ボディ剛性の向上は簡単ではありません。しかし、私たちはクルマのどの部分を強化すればボディ上部の剛性が向上するのか分かっていました。さらに、ボディ上部とバッテリーケースをつなげて、ボディ下部の剛性も高めました。クルマを1つの塊と捉えてボディ剛性を設計し、ドライバーが強く自信を持てるような頑丈なフォルムを実現しました。
Q:「日産 アリア」が持つ日本特有の品質とは何ですか?
福田:「日産 アリア」の洗練されたフィット感と仕上がり感には、日本伝統の高度な職人技が活きています。「行燈」ライトなどの車内の照明も、既存のEVとは一線を画したものです。日産初の量産クロスオーバーEVとして、「日産 アリア」には日本的な「おもてなし」の心を備えたいと考えました。「おもてなし」とは、日本ならではのホスピタリティの精神で、お客さまが望むものを先回りして尊重する心のことです。一例としてドライバーがクルマに近づくと、前後のライトと日産エンブレムが自動で光り、ドアを開くと車内の照明が徐々に点灯するという機能があります。ドアを閉めると、今度は照明が徐々に消えて車内は暗くなり、スタートスイッチが光ってドライバーに合図します。こうした「日産 アリア」のライティングには、インテリアに細やかな配慮と気配りが込められていることを印象付ける深い目的があります。
Q:「日産 アリア」には他にも「おもてなし」の機能がありますか?
福田:もちろんです! 日産ならではのバーチャルパーソナルアシスタント(VPA)は、最も純粋に「おもてなし」を表していると思います。「日産 アリア」は家にいるときも、クルマに乗っているときもお客さまのライフスタイルをサポートします。現状では車載システムの多くがAmazon EchoやAppleのSiriなどをサポートしていないので、クルマに乗るとお客さまが利用中の各種サービスは中断されてしまいます。「日産 アリア」では、ボイスコマンドシステムによるサービスをシームレスに提供したいと考えており、画期的な自然言語理解システムを搭載しています。
また、Amazon Alexaで、V2H(Vehicle to Home)コマンドを使うことができます。例えば、運転しながら帰宅する途中で自宅のエアコンのスイッチを入れておいたり、家に到着した時にお気に入りの音楽が流れるようにしておいたりすることもできます。また反対に、自宅にいながらクルマのバッテリーの状態をチェックすることもできます。
他にも、例えば運転中にヘッドアップディスプレイの表示を消したくなったら、ボイスコマンドで指示をするだけで消すことができます。これらは、ほんの一例に過ぎません。「日産 アリア」は、お客さまそれぞれのライフスタイルや好みに、ぴったり寄り添うことができるクルマなのです。
Q:「日産 アリア」のテクノロジーは今後他の日産車にも搭載されていきますか?
福田:「日産 アリア」は日産の数多くの先進技術を組み合わせて搭載した初めてのクルマで、日産の歴史の中でも非常に特別なモデルです。例えば、私たちが「モノリス」と呼ぶ12.3インチのスクリーン2つを使用した新開発ヒューマンマシンインタフェース(HMI)や、最新の「プロパイロット」については、今後の日産車に搭載されていく予定です。
Q:「日産 アリア」の機能の中で「プロパイロット 2.0」が最も話題を集めていますが、この自動運転システムについてどうお考えですか?
福田:「プロパイロット 2.0」はお客さまがあっと驚くような移動体験を提供します。「日産 アリア」のキャビンは「プロパイロット 2.0」がもたらす移動体験を最大化するよう設計されていますが、その効果は高速道路でのハンズオフ走行した際に、特に感じることができるでしょう。この先進運転支援機能で走行していると、フラットな床が心地よさを演出し、ラウンジのような内装がリラックスした雰囲気を醸し出す中で、ドライバーは同乗者とゆったりとしたひとときを楽しむことができます。
私が子どもの頃、クルマが空中に浮かび、透明なチューブの中を疾走するという未来的な映画を観ました。そんな未来はまだ到来していません。しかし、高速道路で「プロパイロット 2.0」のハンズオフ機能を使うと、映画で観たシーンを思い出すかもしれません。透明なチューブの中を走ることはありませんが、ハンドルを握っていないのに、クルマが目に見えないルートに沿って走行するのです。こうした体験を通して、過去に思いを馳せたワクワクする未来を感じていただけたら、と願います。
Q:「日産 アリア」を開発するとき、過去のどのクルマに最も影響を受けましたか?
福田:1990年代の初頭、日産は面白いクルマを沢山生み出しました。「フィガロ」、「フェアレディZ(Z32型)」、「シルビア(S13型)」、初代「シーマ」などです。他社のどのクルマとも似ていないモデルばかりで、走っている姿を一目見ただけで日産車だと分かったものです。私は「日産 アリア」もそんな感じのクルマにしたいと思っていて、特に「シーマ」を意識しました。「シーマ」は高級車でしたが、少しエッジが効いていて、派手さがあり、悪童のような感じのするクルマでした。これらのクルマと同様に、「日産 アリア」も自己主張をするクルマだと思います。日産がお届けする次世代車というだけでなく、古き良きニッサン ブランドを形成したDNAをどこかに感じさせるクルマだと思います。お客さまがこのクルマを見たときや乗ったときに『やっぱり日産だ、日産やったね』と言っていただきたいですし、日産が自動車というものを未来に向けて前進させたことを見ていただきたいと思っています。
Q:過去の日産車の中で、日産の歴史の中でどのクルマが最も重要だったと思いますか?
福田:日産の従業員にどのクルマがレジェンドのような存在かと尋ねたら、多くの人が「GT-R」か「フェアレディZ」と答えるでしょう。しかし、私の答えは「日産リーフ」です。以前、自分の子どもに乗り物の100年の歴史を記した本を買ってあげました。その本は、電車や船、飛行機、クルマなどを網羅していたのですが、その1ページに「日産リーフ」が画期的なクルマとして紹介されていたのです。とても誇らしかったですね。
Q:「日産 アリア」を開発するにあたって、何よりも大切にしたことは何ですか?
福田:「日産 アリア」では、インテリジェントなクルマを実現したかったので、インテリジェント パワー、インテリジェント ドライビング、インテリジェント インテグレーションを備えるようにしたことは必然でした。しかし、私にとっての日産は、常にドライバーのためのクルマ、極めて高性能なクルマを創り続けてきた自動車メーカーです。この変わらぬ思いが、「日産 アリア」を開発するにあたって、常に私の道しるべとなりました。