「人権尊重」への取り組みを加速

活動の一環として外部有識者との対話を実施

昨今、企業がサステナビリティを推進することがますます求められており、ESG (E:環境、S:社会性、G:ガバナンス) それぞれの領域での活動に対する関心も高まっています。人権は、その 「S:社会性」 の分野での主要な要素であり、日産は、人権をマテリアリティ(重要課題)の1つと定義し、高い優先度でこの課題に取り組んでいます。日産にとって人権とは何か。それは、「人を大切にすること」に他なりません。特にグローバルな自動車メーカーである日産は、多くのサプライヤーを含めた多様なステークホルダーと協業しており、こうしたビジネスパートナーの人権も尊重しながらビジネスを行うことが求められています。

当社は、「日産の人権尊重に関する基本方針」を定義すると共に、従業員の人権尊重に関する具体的な取り組み方を「日産グローバル人権ガイドライン」としてまとめ、いずれも社内外に公表しています。また、昨年度には人権に関するクロスファンクショナルチームを立ち上げ、今年度も引き続き取り組みを進めており、人権デューディリジェンス(*1)やトレーニング、人権侵害に対するホットライン、社内外のコミュニケーションなど、広い範囲で取り組みを加速させています。

今回は、こうした取り組みの一環として、外部有識者の方々と共に「ビジネスと人権」をテーマに対話を行いましたので、その内容を皆さんにお届けします。

9月末に本社で行われたセッションには、人権領域においていずれも第一人者である、国際労働機関(ILO: International Labor Organization)田中竜介氏、大阪経済法科大学 菅原絵美氏、弁護士 高橋大祐氏(日本弁護士連合会)、Global Compact Network Japan 氏家啓一氏の4名をお招きしました。日産からは人事本部とサステナビリティ推進部が参加し、日産としては初めてとなる 「人権をテーマとしたステークホルダーエンゲージメント(目的ある対話)」 として、広く意見交換を行いました。

日産側からは、取り組み強化のための具体的な活動として 「2030年までのロードマップ」や「人権尊重のありたい姿」を定義した点や、社内関係者のコミットメントを高めるガバナンスの仕組み、また情報開示の改善に向けた取り組みなどを紹介しました。

それを受け、外部有識者の方々からは、以下のような貴重な意見が寄せられました。
「企業としてどのように社会的責任を果たすのかを考えるためには、まず日産が社会においてどのような役割を果たすことを期待されているかを理解することが重要です。そのためには、2030年に世界がどうなるのか、自動車業界がどうなるのか、その中で日産がどうありたいのかを、社会の側からとらえようという視点を持ち、対話を始めることが第一歩であると考えます。」(ILO 田中氏)

「サステナビリティの推進・実現において、人権尊重への取り組みをどのように位置づけるか、そしてビジネス全体の中で人権とのつながりに目を向け、サプライチェーンのどの部分において、誰の、どのような権利が存在するのか、そしてどのような影響を与えているかを見極める必要があります。」(大阪経済法科大学 菅原氏)

「ビジネスと人権の活動推進の前提は、経営陣の主体的な参画のもと、人権方針等を経営システムにしっかりと組み込むことであると言われています。日産では、経営トップやChief Sustainability Officer(CSO)の下で部門横断チームやワーキンググループを設立して取り組んでいること等は非常に評価できると思います。」(弁護士 高橋氏)

「多くの企業からは、達成したことは公表するものの、取り組み最中・取り組み予定のもの、ましてや取り組むべきか判断を迷っているものについては、なかなか公表できないとの声が聞かれます。しかしながら、後者の情報こそ、社内外へ開示することが必要です。」(Global Compact Network Japan 氏家氏)

また、日産として特に注意すべき人権課題の特定や評価についても、外部有識者の方々からご意見・ご示唆をいただきました。

「自動車業界において負の影響が大きいと考えるのは、移民労働者と新興国の労働者の二つです。移民労働者は、一般的に脆弱な立場におかれ、採用プロセスでの仲介業者による手数料搾取の問題もあり、強制労働のリスクが高いと指摘されております。また新興国では、一般的にガバナンスギャップ(*2)がみられるため、現地の法律を遵守するだけではなく、国際基準も意識することが重要です。これらに加え、自動車業界ではサプライチェーン上の問題として、鉱物調達や環境も重要テーマではありますが、その中からメリハリをつけて重点的な課題から取り組んでほしいと思います。」(弁護士 高橋氏)

「移民労働者については、自国における貧困、移動や職を得るための借金、異なる文化圏での生活、労働条件改善のための交渉力の弱さなど、社会・経済・文化的背景等のあらゆる要素が積み重なり非常に脆弱性が高いため、企業はそのリスクに対処する必要があります。また、社会から注目される点として、労働市場に入る際、すなわち就職時のジェンダー平等があげられます。男性・女性・性的マイノリティであることを理由に、労働できない、又は仕事を辞めざるを得ない人がいることは働く権利の重大な侵害といえます。」(ILO 田中氏)

今後日産は、人権デューディリジェンスのサイクルを回す中で、今回いただいたご意見を人権課題の特定や新規事業を開始する場合等の人権影響評価の実務に反映させながら、適切な対応策を実施していきます。そして、自社のみならず、サプライヤーを含む日産のあらゆるステークホルダーと対話を行いながら、人権リスク対処に向けた取り組みを推進していきます。

このように「ビジネスと人権」をテーマにした外部有識者との対話の機会は、専門的な知見や、業界・企業に対する洞察に基づいた貴重なコメントを得られるのと同時に、日産の本領域における活動をより良く理解していただくことにもつながります。今後も積極的に活動を進めていきます。

  1. 人権デューディリジェンス:
    人権に関する影響やリスクを特定・分析・評価して適切な対策を実行するプロセス。
  2. ガバナンスギャップ:
    新興国では、国際基準に沿った法律が存在しない、あるいは存在しても十分に施行されていない場合があり、このように政府の統治(ガバナンス)が不十分なことから国際基準の内容と国内の状況の間で生まれている差のこと。