自動車販売店でクルマの点検や修理、メンテナンスを行う整備士。その多くはまだ男性が占めており、それが当たり前だと思われてきました。この状況を変えていこうと、周りの女性を指導し、励まし続ける一人の女性整備士がいます。アメリカ・ボストン郊外の日産ディーラーで働くネリー コロンです。
世界的にSTEMと呼ばれる科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の領域における女性比率は低く、その主な理由は女性が活躍する機会の少なさにあるとされています。また、米国のテックフォース財団の報告によると、技術職就業者の内、女性はわずか2.5%にすぎず、その93%が「この分野でキャリアを積むことをためらった」と回答しています。
近年、さまざまな企業や政府がダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(多様性、公平、受容。以下DEI)」を推進し、ジェンダーギャップの解消や、多様な視点が生み出す新たな技術開発やイノベーションに取り組んでいます。コロンはロールモデルの一人となり、自らのスキルを高めることで整備士として成功をおさめるだけでなく、仕事やキャリアに対する姿勢を通じて、数多くの女性たちに良い影響を与えています。
コロンが技術者としての道を歩み始めたのは、マサチューセッツ州の専門学校。当時はまだ、技術者の役職の大半を男性が占めるいわゆる男性社会だったため、彼女は女性として疎外感を感じることが多々あったと振り返ります。また、他の学生の中には、コロンの能力を否定するような人もいましたが、その環境がかえって彼女の競争心に火をつけたのです。
「『あの子にクルマの修理ができるのか』と言われたこともありました」と、コロン。「こうした環境も変わっていくといいですね」
彼女は日産のグローバル共通の整備士認定制度において、「マスターテクニシャン」という特別な称号を取得しています。これは、アメリカでは約5人に1人しか持っていない最上級の資格で、ディーゼルエンジン車や電気自動車の整備に加え、「日産GT-R」の特別なメンテナンスも行うことができます。
「マスターテクニシャンの資格取得には3年かかりました。しかし、周りに聞くともっと長くかかることもあるそうです。チームメンバーには『私にできたのだから、あなたも絶対にできる』と言い聞かせています。今まで性別を理由にあきらめてきたことも、あなたにもできると伝えることで、周りの女性を勇気づけることができると信じています。」
彼女は現在、女性を中心とするチームで仕事をしています。若い整備士やサービスマネージャー、多数の日産ディーラーを取りまとめる部署の責任者などのメンターとして次代の人財育成に励んでいます。
コロンは、日産での今までの経験は、ポジティブでありがたいものであったと振り返ります。
「私の仕事が、仲間にいい影響を与えられているようでうれしく思います。キャリアの早い段階でマスターテクニシャンの資格を取得しましたが、今もまだまだ勉強の毎日です」
日々の努力と継続的な学びが、キャリアの成長につながっているのです。
プライベートでは、妻やジャーマンシェパードのブルックリン(2歳)とトレーニングをしたり、近所を散策したり、ガーデニングやDIYにも挑戦したりと、充実した生活を送っています。特にガーデニングや家のリノベーションでは、コロンの自動車修理のスキルと経験が最大限に発揮されるそうです。また、配線や階段の改築といったDIYの作業から思いのほか学べることもあると話します。
「エンジンの解体ができるなら、家の照明器具の交換だってできる。一度きりの人生で、好きなこと、意味のあることをしたいのです」生活のあらゆることも、学びに変えています。
日産は今後、コロンのようにグローバルで技術力を発揮できる女性をさらに増やしていくためには、早い段階での育成支援が重要であり、さまざまな実体験を提供していくことで、彼女たちの将来のキャリアパスに良い影響を与えていきたいと考えています。
日産は、ヨーロッパで若年層の女性を対象とした2つのSTEMプログラムを行っています。イギリスでは、『GIMME(Girls in Monozukuri, Manufacturing, and Engineering』という、モノづくり、製造、エンジニアリングに挑戦する女子学生のためのプログラムを、そしてスペインでは『Inspira STEAM』という小学生を対象としたワークショップを行っています。いずれも日産の女性従業員が活動に参加し、この分野での女性の活躍を支援しています。
さらに、タイでは、ケア・インターナショナル・ジャパンおよびラックス・タイ財団とのパートナーシップの一環で、約1,200人の学生を支援しています。アユタヤやラヨーン県などの学生に対し、STEMリーダーシップスキルを構築するためのプログラムを実施しています。
日産は、今後も女性技術者を含め、多様性のある従業員の活躍を推進し、一人ひとりが最大限の能力を発揮できる職場作りを目指します。