世界一周旅行を一日で

アメリカの削れたコンクリート路、イタリアのゴツゴツとした石畳、パプアニューギニアの獣道のような砂利道、ブラジルの悪名高きポットホール…。これらを一日で、しかもあっという間に駆け抜けられると言ったら、あなたは信じるだろうか?

クルマのサスペンションにダメージを与える厄介な存在として名高い、アメリカのマンホールカバー。そんなものまで、日産の重要な開発拠点である栃木試験場には用意されている。約2,922,000m2という広大な敷地(工場を含む)には、マンホールカバーや縁石といった特殊な路面状況に加え、コンクリート路や石畳、砂利道といった10パターン以上の路面、さらに全長6.5kmの高速耐久テストコースなどが配置されている。ここで行われているのは、クルマを実際に走らせて行う走行実験。日産が世に送り出す、全ての新型車がここを走り、鍛え上げられていく。

設定されている路面は、無作為に抽出されて再現されたわけではない。また行う実験内容にも、必然がある。まず実験を行う前に、どんなことが市場で求められているのか、徹底的に調査する。今までに日産のスタッフが調査で赴いた国は、約65カ国。調査は現地で数100名以上のお客様に会って、1週間の行動パターンをインタビューすることから始まる。さらに走る路面の種類や距離も調査し、その国の平均化した市場走行モデルを作成。この他、試乗車に計測器を装着し、自分たちでも走る。路面の負荷や受ける入力をデータ化し、日本を1とした場合、この国はいくつになるのか結論を出し、それを栃木試験場で再現して、仕向地に適した新型車の走行実験を行っているのだ。

コンクリート路、石畳、砂利道、水溜まり、ぽっかりと穴が空いた道…。世界各国の道が、栃木試験場にはある。

1モデルの開発を行う際、地球を数100周するほどの距離を走ると言っても過言ではない。

もちろん、クルマの使われ方はさまざまなので、平均値を保証するような走行実験だけを行っているわけではない。お客様の期待値とクルマの特性を考慮しつつ、相当厳しい側まで保証するのが日産のポリシーだ。ただし、耐久性を例に挙げていえば言えば、むやみに頑丈にすると重くて、走らないのに価格が高くて、燃費も悪いクルマになってしまう。それでは意味がないので、いかにして常識と非常識のバランスを取るかにノウハウが隠されていたりする。

開発技術の進歩により、実際にクルマを走らせないで実験できる内容も増えた。しかし、無人状態やコンポーネント単体の実験だけでは、日産が目指すクルマ作りは行えない。あくまでもクルマは人が運転するモノなので、実際にあらゆる道を走り込んで、データ的、人間的なチェックを繰り返す。ポイントは「路面」「駆動」「制動」「操作」「物理」「化学」「熱」といった負荷を必要なだけクルマに与えて評価できたか、お客様の使い方を全てチェックできたか、不安全事象を全て潰せたか…になる。そのためには1モデルの開発を行う際、地球を数100周するほどの距離を走ると言っても過言ではない。時には栃木試験場を飛び出して、最終的な検証のため世界各国にある要件の厳しい道を走ることすらある。

クルマは数万点の部品によって成り立っている。そのため、クルマ作りはすり合わせ技術の結晶と言われて久しい。あらゆるバグを潰し、高品質で耐久性に優れ、安全なクルマをお客様にお届けするため、今日もデビュー前の日産車が栃木試験場を走っている。

縁石が目前に迫っても、実験車は速度を落とさない。高さの異なる縁石を、さまざまな速度や進入角度で乗り上げることによって、サスペンションやロードホイールの耐久性をチェックしているのだ。