レフェリー

世界を熱狂させるスポーツ、サッカー。ピッチを駆け回っているのは、プレーヤーだけではない。中立の立場で公正な判定を行う審判がいてこそ、迫真のゲームが成り立つ。審判は規定のルールに則り、ゲームを管理。時にはプレーヤーを退場させることもある…。

サッカーには世界共通の単一ルールが存在する。競技規則は17条からなり、全50ページにわたりゲームで使用するフィールドやボール、得点の方法などが規定されている。この共通の言語があるからこそ、世界的なトーナメントも混乱せずに開催することが可能だ。

日産にもサッカー競技規則と同じようなクルマ作りに関するルールがある。それがグローバル共通の車両品質評価基準「AVES(Alliance Vehicle Evaluation Standard)」だ。AVESが導入される以前、日産におけるクルマ作りは、ある意味、匠の世界だった。ボディ塗装を例に挙げると、それは日本の伝統工芸「漆塗り」に近い。職人が下地を作り、磨き、塗り、また磨く…。こういった行程を繰り返し、美しい塗装面を作り上げていた。基本的に明確なルールが明文化されることなく、あくまでも職人の技量によって作られ、世に送り出されていたのだ。

しかし、年を追う毎に生産台数が増え、必然的に関わるスタッフの数も増えた。さらにグローバル企業として成長していくためには、お客様に満足いただける高品質なクルマを、全世界の生産拠点で正確に量産し、出荷しなければならない。そのためには、お客様視点の日産品質を明確に定義する共通の言語としてAVESが必要だったのである。

この分厚いファイルが、車両品質評価の基準書だ。静的、動的時における判定基準が、約350も記されている。

お客様視点の日産品質を明確に定義する共通の言語として、AVESが必要だった。

AVESの生い立ちは古く、1981年にその礎が誕生した。1988年には静的、動的というように項目が分類され、1999年のルノーとのアライアンスを契機に今のカタチとなった。AVESは定期的にアップデートされ、現在のチェック項目は約350にもなる。車種によりチェックする項目やレベルの差は多少あるが、基本的には全車種共通の品質評価基準だ。

AVESの実施タイミングは、試作の段階から数えて計4回。判定は認定資格を持ったオーデターが、限りなくお客様の視点に沿うよう二人一組での評価。ドライビング評価時には運転席と後席を周到に手分けする。

ちなみに、AVESを実施するセクションは、開発や製造部門と完全に切り離されている。これはサッカーの世界で審判が中立的な立場でいることと同じである。また、AVESをクリアしないと、たとえ発売に関する準備が全て整っていたとしても、新型車を出荷することはできない。レッドカードが出せるほど強大な権限を持つからこそ、高い品質が維持できるのだ。

現在、約350人のオーデターが、全世界にある27カ所の生産拠点で日産車の品質に目を光らせている。AVESが日産における製造品質の最終関門なら、オーデターは品質の番人。このシステム、彼らがいるからこそ、日産車は光り輝くことができるのだ。

車両品質評価は、オーデターが二人一組で行う。エクステリア、インテリアに留まらず、下回りに対してもチェックのメスが入る。