中東の門番

灼熱の太陽の下をひた走る1台の日産車。吹きすさぶ砂嵐を受けながら走り抜ける様子は、中東における日常のワンシーンにすぎない。実はその日産車の正体は、発売前のクルマであるという。

日産では、世界中で販売するすべてのクルマにテストを実施。見事クリアした車両だけが世に送り出されるという、品質を徹底追求する体制を築いている。もちろん、テストでOKが出なければ中東市場への扉はけっして開かれない。中東日産で、市場投入する車両の最終テスト「PSQC(最終品質確認試験)」を実施するスタッフたちは、中東市場の入り口に立ちふさがる門番のような存在だ。
中東の特徴は、なんといっても高温多湿な気候である。砂嵐でフォグランプが見えづらくなることも多く、高速走行や急ブレーキ、急発進は当たり前という、車両にとって厳しい環境だ。そんな環境でも快適にクルマを利用できること。それが日産車の目指す品質であり、PSQCを実施する最大の理由だ。PSQCチームの元に発売前の車両が到着すると、さっそくレビューを実施。このレビューでは、車両の認可や使用、品質の作りこみなどを検査する。テストを実施するのはFQIのエンジニアとスペシャリストたちだ。FQIとは「Field Quality Improvement(市場品質改善)」チームのこと。このチームには、パワートレインや駆動系のスペシャリストなど、研究開発部門出身のメンバー7人が在籍する。中東市場に長けた各分野のスペシャリストたちが、厳しい目をもってレビューを行っているのだ。

2万kmもの距離をごく短期間で走破する「PSQCテストドライブ」はクルマにもスタッフにも厳しいテストだが、中東の環境に対応できる品質を提供するにはこのテストが欠かせない。

2万kmを短期間で走り抜ける

中東拠点が実施するなかで最も過酷なテストが、実際にお客様が生活している道路環境で長距離走行を行う「PSQCテストドライブ」だ。テストでは、実に2万kmもの距離をごく短期間で走破。クルマにとってもスタッフにとっても厳しいテストであるが、お客様の期待に応えられるかを調査するには、この方法が欠かせない。中東日産は、中東湾岸諸国のお客様の運転環境を徹底的に研究し、現地の一般道をテストコースのルートに設定。都市部の渋滞通過や郊外の砂嵐が吹き荒れる砂漠の道を高速走行するなど、さまざまなシーンを盛り込んだルートを実際に走行するのだ。中東諸国の高温多湿の気候が、さらにテストを厳しくする。
「品質コントローラー」と呼ばれるテストドライバーは、地元ディーラーで技術担当をしているスペシャリストであることが多い。日々お客様と接し、お客様の要望を理解していることから、その視点と共にテストドライブに取り組める。品質コントローラーには、車両において、お客様が重視するポイントを熟知していることが求められるのだ。テストドライブは、数名の品質コントローラーによって行われる。複数の品質コントローラーが実施することで、幅広いフィードバックを得ることができるのだ。
日産は、世界中のお客様に満足いただけるよう、こうしたテストをあらゆる拠点で実施。
PSQCをクルマの品質向上に欠かせない取り組みとして重要視している。

PSQCテストドライブは、現地の一般道をテストコースに設定。砂嵐が吹き荒れる郊外の道路や都市部の渋滞を通過するなど、さまざまなシーンを盛り込んだルートを実際に走行。中東諸国の高温多湿の気候が、さらにテストを厳しくする。

国によって異なるニーズにも対応

ここ中東日産は、1つの拠点で19もの国々を担当しているのも特徴だ。中東19カ国で販売されるクルマは、基本的には同一であるものの、国ごとにクルマに求められる要望はさまざま。例えば、クウェートやカタールではエアコン性能。レバノンやヨルダンはブレーキ性能、サウジアラビアやオマーンは高温下での高いパフォーマンスといった具合に、国ごとに異なるクルマに求められる性能に対応すべく、中東拠点ではテストを実施しているのだ。
中東拠点でテストに打ち込む彼らの努力の源は、クルマへの情熱だ。常に高い目標を掲げ、朝も夜もテストに打ち込んでいる。次々と新しい車両が投入される度、彼らはさらなるテストに挑戦するのだ。そんな努力や情熱が、中東での日産車の品質を高めている。
しかし、彼らのような門番がいるのは、中東だけではない。日産が拠点を置くあらゆる地域に、門番が存在する。
PSQCを始めとする日産の現地拠点の社員たちの努力によって、日産車はあらゆる地域のお客様にご満足いただけるものに仕上がっているのだ。