愛と情熱のクルマいじめ

市販を控えた日産車を待ち構えるのは、気が遠くなるほど多くの実験項目。保安防災実験をクリアし、すべてのクルマを一人前に育て上げるため、エンジニアは今日も元気よく、愛のムチをふるっています。

日産車は今日も、いろんな道を走っている。路上の段差や障害物、雨の日も嵐の日も、舗装されていない悪路など、どんなに厳しい場所だって、軽快かつ、そして安全に走るのが日産車の使命だ。この任務をいかなる状況においても遂行するために、走行中に起きる「もしも」に対する備えがある。それが、保安防災実験だ。日産車を立派な一人前のクルマに育て上げるため、あらゆる事態をシミュレーション。さまざまなケーススタディーを繰り広げる実験だ。
保安防災実験を行うのは、社内の敏腕エンジニアが集う実験部のメンバーたち。彼らは今日も、クルマへの執拗かつ過酷ないじめに取り組んでいる。もちろんこれは、多大なる愛情の裏返し。愛するクルマやドライバー・乗員の身に危険が及ばないように、クルマのためを思って挑む、愛情たっぷりの行為なのである。

電気自動車である日産リーフでは、実際に雷に打たれる落雷実験も実施した。ガソリン車とは異なる、電気自動車ならではのさまざまなメニューを用意し、保安防災実験に臨んだ。

メンバーはクルマの頼れるトレーナー

クルマにどんな事態が訪れるかは、車種や場所、時間によっても異なるため、保安防災実験は「念には念を」がモットーだ。「未舗装の道路を走行」や「路上の突起物に衝突」実験はまだまだ序の口。時には心を鬼にし、クルマにとって過酷さを追求した実験を行うのもれっきとした彼らの任務である。「万が一、水の中を走ることになってしまった事態」=「大雨で思いがけず増水した道路を走るような事態」を想定し「水の中を走らせる」という大胆すぎる実験も実施することもある。
保安防災実験は、新しい車種が誕生するたびに、1台1台丁寧に実施される。実験は、クルマの特徴や得意分野、部品などから判断してどんなメニューが必要か決定されるのだ。すべての日産車は、気が遠くなるほどの項目数の実験をクリアして初めて、一人前の称号を手にするのである。
実験部の役割は、実験メニューの組み立てと実施。クルマの魅力とお客様の安全を見事に調和させること。クルマにとっては、まるでスポーツジムのトレーナーのような頼もしい存在である。
クルマを、あえて突起物のある道路で走らせる。路上突起物の直接的な干渉で、ボディ下部にたくさんある重要な部品が破損したり、亀裂が入ったり変形したりしないかを確認している。破損や亀裂が発生すれば、それがどんなに小さくても燃料漏れなどの重大な故障につながる恐れがある。また、部品同士がぶつかることで生まれる破損も保安防災上重大な問題だ。クルマがちょっとした段差を超えたり、クルマを急発進させたりしたときの急激な振動によって部品が動き、部品同士がぶつかり合って破損する可能性がある。クルマのように複雑で沢山の機能を持つ機械は、部品を限られたスペースに格納・配備しなければならない。その際、最低限の隙間の確保が保安防災上重要なのだ。メンバーは実際に実験を通じてミリ単位で計測を行い、確認している。

世界中のさまざまな路面状況を再現し、走行調査を実施する路面干渉調査。路面の突起物に車体が当たった場合に、部品がずれて故障の原因にならないかどうかを調査する保安防災実験のメインの1つ。

EVの登場で「愛」は最高潮に!

2010年、彼らの「愛」は、EVの登場によって最高潮を迎えようとしていた。世界に向けて数多の日産車を送り出してきた名トレーナーにとっても、EVは未知なる領域。「ガソリン車では当たり前」「ガソリン車なら実験するまでもない」のことも、EVではどうなるのか分からない。疑念を晴らすにはやはり、実験しかない。実験部のメンバーたちは腕によりをかけ、EVの発売を前に、いつもより強く激しく、徹底的にEVをいじめ尽くした。EVで行った保安防災実験の数は、ガソリン車の実験数のざっと2倍以上。中には「雷に撃たれる」というメニューまであったというから驚きだ。未知なるEVだからこそ、実験の手を緩めない。これが、彼らの美学なのである。

クルマには、それぞれ魅力や特徴がある。いかに魅力的で特徴的であっても、クルマとしての基本性能が欠如していれば価値はない。保安防災実験は、文字通りクルマの「安らぎを保ち、災いを防ぐ」実験だ。「いついかなる状況でも乗員の安心・安全を保つこと」はお客様には当たり前のこと。保安防災実験があってこそ、クルマの魅力や特徴が成立するのだ。
そして今日も、実験部のメンバーたちは時間の限り、愛するクルマを一人前の安全なクルマへと育てるべく、気が遠くなるような数の保安防災実験を繰り返している。「保安防災という観点でお客様の安全を設計から生産まで一貫してみているのは日産の強みです」と大林マネージャーは語る。クルマへの愛とクルマを安心してお客様に使っていただきたいというエンジニアとしてのプライドが、彼らの原動力だ。そしてまた1台、いじめに耐え抜いた日産車が、世界に羽ばたいていく。