その探偵が追うモノは…

聞き込み、尾行、張り込み…。実は、日産には難解なトリックに取り組む探偵がいる。しかし、彼らが追うのは犯罪者ではない。あくまでも自分たちが世界中に送り出したクルマだ。時には日本から地球の裏側まで飛んで行き、絡み合った糸を解きほぐすかのような作業を行っている。

彼らの仕事を明確にするため、一例を紹介しよう。ある日産車が始動不良に陥ってしまった。このモデルはアジアで生産され、世界各国に輸出されていた。ちなみに、トラブルが発生した国以外からは、同様の事例が報告されていない。なぜ決まった国でだけ、始動不良を起こしてしまうのか…。原因は雨だった。なんと始動系とはまったく関係のない間欠ワイパーのノイズが、始動系のダイオードを破損。結果として始動不良を起こしていたのだ。

「彼ら」とは、品質改善の聖地「フィールド・クオリティ・センター(FQC)」のスタッフ。FQCにはさまざまな意見とともに、解決すべき課題を抱えたパーツが市場から送られてくる。FQCに集うスタッフは、可能性のある要因を全部洗い出して、ひとつひとつ潰していく。どんなに小さなサインも見逃さない。その結果、先ほど例に挙げた間欠ワイパーと始動系パーツという離れた点と点が、線で結ばれたりするのだ。

FQCに展示された不具合現品の数々。敢えて展示することで、同じ失敗を二度と繰り返さないというマインドアップにつなげている。

その過程において、「なぜ、なぜ?」を繰り返すフォルトツリーアナリシス(FTA)を駆使するが、日産のスタイルでもある。このFTA、いまでこそコンピューターで行っているが、以前はペーパーに頼っていたため、原因究明のツリーを全て並べると、事例によってはリビングルームほどの広さが必要だったという。

今回訪れたのは、日本のテクニカルセンター内にあるFQCだ。一歩足を踏み入れると、そこには新たな発想で取り入れられた多くの仕組みが詰まっていた。エキシビジョンエリアには、リコール&サービスキャンペーンの対象となった燃えかけたエアクリーナー、粉々になった内装材など、少しばかりショッキングなパーツが所狭しに並べられている。企画展示品や市場品質改善のパーツなども含めて、ざっと20~30はある。このエリアはクローズドではない。サプライヤーのみならず、来訪されたお客様も自由に見学できるスペースだ。そこに敢えて、このようなパーツを展示しているのである。これは同じ失敗を二度と繰り返さないという、日産の強い決意の表れでもある。

お客様の声を聞き、いち早く製品の改善に取り組み、今まで以上に満足していただけるクルマを世に送り出す。それを実現するためには、「現場」「現物」「現実」の三現主義がキーになる。パーテーションがない開放的なエリアで、市場から送られてきた解決すべき問題を抱えたパーツを前に、多くのスタッフが話し合っていた。まさに三人寄れば文殊の知恵だ。必要に応じてパーツは実車にセットされ、さらに常駐するサプライヤー、開発、生産部署のスタッフも一緒になって、問題を究明していく。自分たちは何をすべきか、真剣に考える。なぜなら、より良い製品を世に送り出したいから。品質改善に終わりなし。この言葉を胸に、世界7カ所に展開されているFQCのスタッフは日夜、日産車の品質改善に取り組んでいる。

FQCに集うスタッフは、可能性のある要因を全部洗い出して、ひとつひとつ潰していく。どんなに小さなサインも見逃さない。

FQCには三現主義に基づき作業する環境が整っている。これによりトラブル解明のスピードが格段に早まった。