「第30回 日産 童話と絵本のグランプリ」表彰式を開催

大賞受賞者インタビュー<絵本の部> ながやま ただし さん


【プロフィール】
グラフィックデザイナー。子どもたちの活動を支援する中で、生きる力となるメッセージを伝えたいと思うようになったことから、絵本制作を思い立つ。図書館でグランプリのポスターを見かけ、目標とするようになる。第21回の初応募以来、毎回入賞を果たし、今回ついに絵本の部大賞を受賞。

【受賞作】
『木(きぃ)ちゃん』
(あらすじ)
木(きぃ)ちゃんは、森の奥の小さな原っぱに生まれた木の赤ちゃん。その場所から動けない木(きぃ)ちゃんは、けむしやかたつむりに葉っぱを食べられながらも、雨を待ち、少しずつ大きく育っていきます。しばらくしてやっと咲かせた美しい花も、みつばちやちょうちょたちに蜜を吸われ散ってしまいます。それでもすぐに赤い実ができ、喜ぶ木(きぃ)ちゃん。ところがその実も全部鳥たちに食べられてしまいます。やがて冬が来て葉っぱが落ち、一年の始まり「春」を待ちます。いよいよ春になると、なんと木(きぃ)ちゃんの隣には木の赤ちゃんが生まれました。

子どもたちにとって「生きる力」になる絵本をつくりたい

Q:絵本を描き始めたきっかけは?
A:学生時代につくったことはありましたが、卒業後はまったく忘れていました。ふと思い出したのは、子どもが中学校に進んだ頃です。子どもと一緒にいるのが好きだったので、少年野球などの活動に関わっていたのですが、子どもたちの中に、少しずつおかしな方向へ離れていく子が出て来て。いじめとか、登校拒否とか、きっかけはいろいろあるでしょう。でも、子どもの頃に「生きていると楽しいことがあるよ」というメッセージが伝わっていれば、生きていく力になると思ったんです。図書館で児童文学の本を読み、灰谷健次郎さんの本に触れたりするうちに、子どもたちに「この本を持ち続けて大人になるんだ」と思ってもらえるような絵本を作ってみたい、と考えるようになりました。


Q:第21回から毎年チャレンジして来られたそうですね。
A:初応募でいきなり優秀賞をいただいたので「これはいけるかも」と思ったのですが、そこからが長かったですね(笑)。絵の技法も、水彩なども試して、2〜3作まとめて応募したこともありました。でも、いつも入賞するのはこの技法。クレヨンを塗って色紙をつくり、カラーコピーしたものを切り貼りしています。はじめはクレヨンにこだわり過ぎて窮屈だったのですが、必要に応じて色鉛筆や絵の具などを使うことで、一気に表現の幅が広がりました。
入賞した際、セミナーに参加して先生方からアドバイスをいただいたことで、自由になれた部分もありました。
Q:今回の作品の着想はどこから?
A:基本的な構想は、かなり以前からあったものです。木がポツンと芽を出して、いつの間にか大きくなっていく。単純でわかりやすいストーリーなので、いつか作品にしたいと思っていました。でも、ただ木が大きくなるだけでは面白みがない。それが「これで行くんだ」と開き直って取り組んでみたら、どんどん物語が立ち上がってきました。
Q:作品の中で苦労した点は?
A:小さな木が大きくなっていくのをどう表現するか、です。ページをめくったときに「わーっ」となるシーンをつくりたいと思って、少しずつ木を大きくしていったのですが、話の途中で紙面からはみ出してしまって、最初からやり直したり(笑)。
ストーリーや言葉も、今回はどんどん変わっていきました。言いたいことがいっぱいあったのですが、とにかく削って、削って。「削る」という作業をこれほどやったのは、今回が初めてかもしれません。
Q:作品に込めた想い、伝えたかったことは?
A:一番言いたかったのは、ずっとそのままでも問題ないんだよ、ということです。子どもの頃は小さな差が気になったりしますが、大人になると、たいしたことではなくなります。勉強ができた人も、できなかった人も、あまり変わらなかったりするでしょう。だから、がんばり過ぎなくていいんだよ、と。
Q:今後の抱負についてお聞かせください。
A:この10年間作品を作り続けてきたので、とにかく、これからも作り続けようと思っています。わかりやすく、シンプルなのに、大人になってから「あれ?」と気付くような深いメッセージが感じられる物語を作ってみたい。いつか、子どもが「ボロボロになっても捨てたくない」と思ってくれる絵本が作れたら最高ですね。


Q:これからグランプリを目指す皆さんにメッセージをお願いします。
A:今回大賞をいただけたのは、技法とストーリーがバシッと合ったからだと感じています。私がやったことといえば、そのポイントが見つかるまで、とにかく作り続けただけです。途中で止めないで、できるだけいいものを目指して、作り続けてください。

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