研究通信

2023.04.18

研究通信#5の3号

社会デザイン研究
高齢ドライバー運転行動意識&
社会・人との関り調査
「社会や人との関り編」

1.研究の目的

 高齢ドライバーの交通事故要因解明のため、全国45歳以上のクルマ運転者1,600人を対象に、運転行動意識や社会・人との関り等に関するWEBアンケート調査を行い、高齢者特有の傾向がないかを考察しました。
 2021年は、他者調和性や遵法マインド、危険源発見・運転操作スキルなどについて調査を実施し、研究通信#2を発行しました。今回は、その調査の領域を広げて実施したものです。運転行動への間接影響要因として、社会・人との関り等を新しい視点として加え、調査設計を行いました。
 この調査の分析結果を、3回に分けて報告します。今回はその3回目、高齢ドライバーの社会や人との関り等(運転行動への間接影響要因)を中心にまとめました。

2.回答者プロフィール(基本データ)

  • 年齢
  • 性別
  • 職業
  • 自動車保有の有無
  • 運転頻度(プライベート+業務)
  • 走行距離(プライベート+業務)
  • 運転歴
  • 運転目的(主目的1つ)
  • 運転目的(いくつでも)

回答者の人数 年代層別の内訳(単位:人)

45〜54歳 55〜64歳 65〜74歳 75歳以上
公共交通エリア 200 200 200 200 800
自動車交通エリア 200 200 200 200 800

※公共交通エリアは 公共交通機関通勤・通学率が高い都道府県(出典:国勢調査2010・2020)
  東京都、神奈川県、千葉県、大阪府、埼玉県、奈良県、兵庫県、京都府、福岡県、愛知県、滋賀県
 自動車交通エリアはそれ以外

調査時期:2022年8月

3.分析結果

目次
3-1.車を運転する以外の交通手段はある?
3-2.車を運転する以外の交通手段は何ですか?
3-3.あなたはどのような生き方をしていますか?
3-3-1.社会貢献に参加していますか?(生き方@)
3-3-2.運動していますか?(生き方A)
3-3-3.交友関係は広い?(生き方B)
3-3-4.マイペースで生きていますか?(生き方C)
3-3-5.家事も運動の一つです(生き方D)
3-3-6.ストレスや不安はないほうがいいですが。。。(生き方E)
3-3-7.外出機会は減っていますか?(生き方F)
   現在の生き方×補償運転
3-4.あなたにとってクルマの運転とは。。。
分析まとめ
高齢ドライバー運転行動意識&社会・人との関り調査『振り返りと今後』
3-1.車を運転する以外の交通手段はある?

 自分で車を運転する以外の交通手段が全くない人は、約3割。
 年齢が上がるほど、全くない人は減る傾向にあり、高齢になるとなんらかの工夫をして交通手段を確保する傾向が見られます。
 但し、自動車交通エリアになるとその工夫にも限界があるようです。75歳以上の人は、約3割が全くないと回答しています。公共交通エリアでも、2〜3割の人が全くないと回答しており、高齢者の免許返納は簡単ではない状況が伺えます。

3-2.車を運転する以外の交通手段は何ですか?

 車を運転する以外の交通手段で多いのは、バス、電車、徒歩でした。55歳以上では、年齢が上がると、電車は減り、バスと徒歩は増えます。
 自転車の利用も約4割と多くいます。75歳以上でも約4割の人は、元気に自転車を乗られているようです。

性別の特徴( 「車を運転する以外の交通手段は何ですか? 」続く )

 電車、バス、自転車に性差は殆どありませんでした。同乗は女性が顕著に多いという結果になりました。配偶者の免許保有率が高いことが主な要因と考えられます。逆に、徒歩は男性が多いという結果になりました。

エリア別の特徴「車を運転する以外の交通手段は何ですか? 」続く )

 地域差が比較的大きく出ました。自動車交通エリアに比して、公共交通エリアは電車と自転車が多いという結果になりました。一方、公共交通エリアに比して自動車交通エリアは同乗が多くなりました。自動車交通エリアの皆さんは、自分の運転を諦めても移動は自動車に頼らざるを得ない状況を示しています。

3-3.あなたはどのような生き方をしていますか?

 事故反復ドライバーと無事故ドライバーの比較研究を行ったカナダの精神医学者ティルマンとホブスの有名な言葉に、「人は生きるように運転する」というのがあります。危険な運転行動や交通事故は、生活スタイルの現れというものです。また、長く健全な運転機能を維持するためには、運動や家事を通して身体機能を高めることが有効と考えられます。このような視点から、交通安全啓発を検討するにあたり手掛かりとなるものを発掘すべく、45歳以上のドライバーの社会や人との関りについて調べてみました。
 結果を見ると、「マイペースで幸せに日常を送っている」「定期的に運動を行うよう心がけている」人は多くいました。「社会貢献活動に積極的に参加している」「交友関係が広い」人は20%台でした。
 また、「家事はあまりやっていない」「人間関係でストレスや不安感を感じることが多い」人は30%台、「外出機会が減ってきた」*人は、半数以上いることが分かりました。
*コロナ禍が終息し、気がねなく外出できる状態に戻っていることを前提に質問しています。

*以下、一つ一つについて内容を詳しく見ていきましょう。

3-3-1. 社会貢献に参加していますか?(生き方@)

 社会貢献活動は、外出機会を増やし、他者調和性をはぐくみ、心と体の健康に良いと考えられます。
 社会貢献活動に積極的に参加している人は22%と高い数字ではありませんが、年齢が上がるほど高くなっていきます。
 男性のほうがより多く社会貢献活動に参加しているようですが、75歳以上の女性は半数以上が社会貢献活動に参加していると回答しています。(75歳以上女性の回答者数は多くなく、ここは検証が必要かもしれません)
 エリア別では、自動車交通エリアのほうが社会貢献活動に参加している人は若干多いようです。

3-3-2.運動していますか?(生き方A)

 運動は身体機能を高めるだけでなく、認知向上効果もあると言われています。クルマの運転機能にも影響が予想されます。
 定期的に運動を行うよう心がけている人は約6割と高く、年齢が上がるほど顕著に高くなっています。
 女性より男性のほうが運動への志向は高いようです。
 エリア別では、公共交通エリアのほうが運動を行うよう心がけている人が若干多いようです。公共交通エリアの75歳以上の人は、83%が運動を行うよう心がけています。

3-3-3.交友関係は広い?(生き方B)

 孤独はメンタルへのマイナス影響が指摘されています。交友関係が広ければ外出機会も増え、健康にも良いでしょう。
 趣味や近所づきあい等で交友関係が広いと感じている人は3割弱と高い数字ではないですが、年齢が上がるほど高くなります。
 女性より男性のほうが、交友が広いと感じている人が多いようですが、75歳以上の女性は6割以上の人が交友関係が広いと感じています。(75歳以上女性の回答者数は多くなく要検証です)
 エリア別での傾向は殆ど見られませんでした。

3-3-4.マイペースで生きていますか?(生き方C)

 焦らずマイペースで生きることは理想ですよね。クルマの運転も同じです。無理してスピードは出さず、安全運転に心がけましょう。
 無理せずマイペースで幸せに日常を送っている人は、85%と高い結果が出ました。年齢が上がるとより一層高くなります。
 性別やエリア別の傾向もなく、多くの人はマイペースで幸せに日常を送ることができているようです。マイペースで幸せに日常を送ることができていない人も少しいらっしゃるようです。クルマの運転を含め、色々な面でゆとりをもって生活できると良いですね。

3-3-5.家事も運動の一つです(生き方D)

 掃除や洗濯は良い運動になり、並行した作業が必要な調理は、運動になるだけでなく、認知にも良いとされています。
 家事をあまりやっていない人は4割弱でした。年齢が上がるほど家事をやっていない人は増える傾向にあります。
 男性は、家事をあまりやっていない人が顕著に多いです。家事をやっていない女性は少ないですが、年齢が上がるとその比率は更に下がる傾向にあります。
 公共交通エリアと自動車交通エリアで、家事をあまりやっていない人の比率は殆ど同じですが、自動車交通エリアでは、年齢が上がると、家事をあまりやっていない人の比率が上がる傾向にあります。

3-3-6.ストレスや不安はないほうがいいですが。。。(生き方E)

 過度なストレスや不安は、心と体の両面に良くないですね。ムカムカ、イライラ、クヨクヨはクルマの運転にも影響する可能性があるので気を付けましょう。
 仕事や近所付き合い、家族などの人間関係でストレスや不安を感じることが多い人は約3割。年齢が上がると顕著に減ります。
 男性より女性のほうがストレスや不安を感じる人が多くなっています。特に、45〜54歳の女性は約半数がストレスや不安を多く感じています。
 エリア別での傾向は殆ど見られませんが、自動車交通エリアの45〜54歳の約半数の人がストレスや不安を多く感じています。

3-3-7.外出機会は減っていますか?(生き方F)

 外出機会が減ることは、総じて、社会活動や交友関係が減ってきたことを意味します。健康面への影響も考えられます。
 年齢、性別、エリアのどれを見ても、外出機会の減少とはあまり関係ないことが分かりました。高齢者は仕事による外出が減ったとしても、地域活動や定期的な運動、交友、通院などがあり、外出機会は減らないものと思われます。
 女性だけは、年齢によって外出機会の変動が見られました。

現在の生き方×補償運転

 加齢に伴う身体機能の変化に応じて、体調や天候、道路環境などに配慮して安全運転を行うことを補償運転と言います。本調査では、全体で66%の人が補償運転を行っていることが分かっています(研究通信#5の1号)。
 ここでは、「現在の生き方」の調査結果と、補償運転をしている人に関連性があるか調べてみました。まずは4つのポジティブ質問と補償運転の関連性です。
 結果、@ 「社会貢献に積極的に参加している」、A 「定期的に運動している」 、C 「マイペースで幸せに日常を送っている」という質問に「はい」と回答した人は、全年齢層で、「補償運転を行っていない」人より「補償運転を行っている」人が多いことが分かりました。また、B 「交友関係が広い」に「はい」と回答した人も、55〜64歳を除く年齢層で、「補償運転を行っていない」人より「補償運転を行っている」人が多くなりました。

現在の生き方×補償運転(続く)

 次に、「現在の生き方」のネガティブ質問と補償運転の関連性を分析してみました。
 結果、D「家事はあまりやっていない」、E 「人間関係でストレスや不安感を感じる」という質問に「はい」と回答した人は、全年齢層で、 「補償運転を行っている」人より「補償運転を行っていない」人が多いことが分かりました。
 また、F 「外出機会が減ってきた」に「はい」と回答した人は、 全年齢層で「補償運転を行っていない」人より「補償運転を行っている」人が多くなりました。 外出機会が減ってきた人は運転に自信がなくなり、補償運転を行う人が増えていると推定されます。

以上の結果から、現在の生き方と補償運転には、どうやら関連性がありそうです。
「人は生きるように運転する」。
この簡単な言葉の中に安全運転の真理が潜んでいるのかもしれません。

3-4.あなたにとってクルマの運転とは。。。

 クルマを運転することは、張り合い、楽しみ、自分の自信のように感じている人はとても多く、7割弱でした。この比率は、年齢が上がると少しづつ増える傾向にあります。
 また女性より男性のほうが、クルマの運転に思い入れがあるようです。
 エリア別ではクルマ依存度の高い自動車交通エリアのほうがクルマの運転に思い入れを持つ人が多いようにも思えますが、エリアの差は殆どなく、75歳以上ではむしろ公共交通エリアのほうが思い入れを持つ人が少し多いという結果になりました。
 クルマの運転には思い入れがある人もいらしゃいますので、運転免許を返納するにあたっては、交通手段を失うことだけでなく、精神面への影響にも思いを寄せる必要がありそうです。

分析まとめ

 自分でクルマを運転する以外の交通手段が全くない人は約3割、自動車交通エリアではこれが4割弱に増えます。クルマ以外の交通手段では、年齢が上がると、電車は減り、バスと徒歩は増える傾向にあります。
 「社会貢献に積極的に参加している」「定期的に運動している」「マイペースで幸せに日常を送っている」「交友関係が広い」「家事をやっている」「人間関係でストレスや不安感を感じていない」「外出機会が減ってきた」人は、総じて補償運転(身体機能低下に伴う安全運転)を行う人が多いようです。現在の生き方と補償運転に関連性があることを伺わせる結果となりました。
 クルマを運転することは、張り合い、楽しみ、自分の自信のように感じている人はとても多く、7割弱。年齢が上がるほど、そう感じる人は増える傾向にあります。

交通安全未来創造ラボから
ドライバーの皆さんへのメッセージ

人の生き方は多様ですよね。この多様性が世の中を豊かで面白くしているのだと思います。
今回の調査では、社会貢献や運動・家事を
やっている人、
マイペースでストレスや不安感を
あまり感じていない人などは、
安全運転を志向する人が
多いことが分かりました。

「人は生きるように運転する」
張り合い、楽しみ、自分の自信のように感じるクルマの運転を、
長く安全に続けるために、あなたはどのような生き方をしますか。

高齢ドライバー運転行動意識&社会・人との関り調査 『振り返りと今後』

 高齢ドライバーの運転行動意識や社会・人との関り等について、研究通信を3回に分けてお送りしてきました。サマリーすると下図のようになります。

 今回の研究を通し、年齢が上がると、運転機能低下に対処した補償運転を行う人が増える一方で、自信・油断・慣れから自分の責任では事故に遭わないと考える人が増えていくことなどが分かりました。また、社会貢献や運動・家事をやっている人、マイペースでストレスや不安感をあまり感じていない人などは、安全運転を志向する人が多いことが分かりました。社会・人との関り等は、運転行動意識と関連があることが垣間見えました。
 今後は、高齢者の社会・人との関り等をより詳細に調査し、これらが安全運転意識や認知・身体機能にどう影響していくかの探求を進めるとともに、高齢ドライバーの安全運転を啓発するための手法を検討していく予定です。

3回続いた本テーマの研究通信は、今回が最終回です。最後まで読んでいただきありがとうございます。

レポート制作:
堀越実研究員、大村佳子研究員、大槻裕茂研究員
アドバイザー:
長谷川哲男ラボ リーダー兼 研究員、ラボ研究員各位