「第28回ニッサン童話と絵本のグランプリ」表彰式を開催

大賞受賞者インタビュー<絵本の部> 長尾 琢磨 さん


【プロフィール】
美術大学で油絵を学び、卒業後はいくつかの職業を経て、独学で絵本作家を目指す。現在は、依頼主から絵本の目的を取材し、印刷・出版を目的としないパーソナルな「世界に1冊だけの絵本」を創作・製作している。

【受賞作】
『ぴっちとりた まよなかのサーカス』
(あらすじ)
くろねこのぴっちと、くろしろのりたは、小さな入り口をくぐって「まよなかのサーカス」に出会う。それは、動物たちを元気づけるために世界を回っているサーカスだった。サーカスが大好きなぴっちとりたは大よろこび。ところが、いざサーカスが始まってみると、それは古くさく、つまらないものだった。
「ぼくたちの夢見るサーカスを作ってよ!」
ふたりの声に背中を押されて、団員たちは知恵を絞り、練習に励む。そして・・・。

その人にとっての「宝物」を絵本に描きたい

Q:受賞の感想をお聞かせください
A:よろこびはもちろんありますが、「これからよいものを作っていかなくては」という使命感と責任感を、ひしひしと感じています。今は、嬉しいより、気を引き締めなくては、という思いの方が強いですね。
Q:絵本を描きはじめたきっかけは?
A:絵を描くことは昔から好きでした。大学で油絵を学び、卒業後は就職もしたのですが、自分にしっくりくるモノが見つからなくて。いろいろやってみて、必要ないものをそぎ落としていった結果、残ったのが絵本だったんです。20代半ばの頃だったと思います。絵が好き、子供が好き、文章が好き。自分にはこれしかない、と思ったところから、独学で絵本について学び、描きはじめました。


Q:どんな絵本を描いてこられたのでしょう?
A:その人にとっての「宝物」を描くことを心がけています。誰が、誰に、どんなことを伝えたくて絵本を贈るのか。依頼主と打ち合せを繰り返し、物語をつむぎ、キャラクターをつくり、絵を描いて、最後に製本して1冊の絵本にまとめます。
画材は、水彩が主ですね。手軽だし、色も作りやすい。誰でも知っている身近な画材なので、伝えやすいのもメリットです。
Q:印象に残っている絵本は?
A:あるお母さんが、二十歳になる長女に絵本を贈りたい、という依頼を受けたことがあります。幼い頃は妹さんに目がいきがちで、お姉さんに冷たかったのではないか、と後悔していらっしゃいました。「ごめんね、あなたがこんなに素敵な女性に育ってくれて、私はとても嬉しい」。そんなメッセージを伝えるために、絵本を作って贈りました。お母さんも、娘さんも、とても喜んでくださり「家族の絆が深まりました」という感謝のお手紙をいただきました。
Q:グランプリに応募してみようと思ったきっかけは?
A:実は、絵本を出版することにはあまり興味がなかったのです。それが、依頼主や周囲の方々が、「あなたの絵をもっと広めて欲しい」と言って、背中を押してくださったんです。皆さんが望むならと思い、心機一転して自分の絵本を出版することを目指し、今回初めてグランプリに応募しました。
Q:今回の作品の着想はどこから?
A:「ぴっち」と「りた」は、うちで飼っているねこです。彼らは、僕たちが寝ている時や外出している間に何をしているんだろう? と思ったことがきっかけです。また、僕の中で「夜」というのは魔法の時間なので、何が起きても不思議がない。ねこたちは、そんな時間を楽しく過ごしているのだろう。ねこたちには「人間にはナイショ」の世界があるんだな、といった思いから、この物語が生まれました。
Q:この作品で伝えたかったこととは?
A:これまでの人生はいろいろありましたが、僕は絵本に救われたと思っています。絵本には、生き方や考え方のヒント、楽しみなどが詰まっています。絵本は、僕にとってはなくてはならないものです。
僕から伝えたいものがあるとしたら、それは絵本というジャンルです。具体的なメッセージはありません。皆さんが自由に感じていただければ幸いです。


Q:今後の抱負をお聞かせください
A:人との触れ合い、未知の世界、ナンセンス絵本など、いろんなものを描きたいと思っています。その過程で、自分が本当に描きたいものが何なのかを探っていきたい。まずは、読んだ人がホッとするような、人生捨てたもんじゃないと思えるような、楽しい絵本を描きたいですね。

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