Nissan Passionate Challengers

EPISODE 05

0.3mmのゴミも見落とさない熟練工の目と手を再現

栃木工場 塗装品質自動検査工程

塗装工程では、塗装をきれいに仕上げるために日々改善を行っております。しかしながら、どうしても避けられないのがゴミやブツ(異物混入による塗膜の盛り上がり)です。これまでゴミやブツの検出は熟練した職人(検査員)が行ってきましたが、「ニッサンインテリジェントファクトリー(NIF)」を導入した栃木工場の「日産アリア」の生産ラインでは、ロボットが行なっています。多くの苦難を乗り越えて、これまで培ったノウハウをロボットに注ぎ込み、人間を超える検知率を実現しました。

生産技術研究開発センター 本田武志さん

栃木工場第一製造部塗装課 岩橋大輔さん

熟練工の目と指先をロボットで再現

本田:栃木工場の「日産アリア」の生産ラインの塗装品質自動検工程には、外観検査装置と自動計測装置それぞれによる検査が導入されています。外観検査装置では、ボディ&バンパーの一体塗装が終わった後、塗装面にゴミ・ブツやハジキ(ボディに付着している異物の影響でくぼみができる欠陥)などの不具合がないか、いままでは熟練した検査員が目で見て、手で触りながら確認をしておりましたが、現在はロボットが自動で検査を行っています。
また自動計測装置では、外観をチェックした後に、塗膜の色味や膜厚(塗装した塗料が乾燥して膜になった後の厚みの事で塗装膜の耐久性等に影響)、鮮映性(周りの景色がどれだけ鮮明に映るかを計測することで仕上げのレベルを確認)を外観検査同様に熟練した検査員によりチェックを行ってきましたが、こちらもロボットが自動で確認しています。

岩橋:外観検査の際に不具合とされるゴミ・ブツの大きさは0.3ミリと微小なもので、それを肉眼や手で見つけ出すというのは大変な検査です。そのため、担当するには特別な訓練と資格が必要です。熟練した検査員が目だけでなく指先も使いながら行う検査を、カメラを付けたロボットだけで行えるのかという不安がありました。
一方で計測工程では、クルマのすべての塗装面を検査員が姿勢を変えながら色味と膜厚、鮮映性チェックしていく為、身体的負担が大きかったですが、自動化にすることで検査員の負担軽減に貢献すると思いました。

一つ一つ確認して100%検知を目指す

本田:今回の外観検査装置の導入検討時に大変だったのはゴミ・ブツの定量化です。同じ0.3ミリのゴミ・ブツでも、とがっていたり、なだらかだったりといろいろな形があり、その形状によって人の感じ方が違ってきます。0.3ミリより小さくてもお客さまが気になるゴミ・ブツであれば、検査員は不具合だと判定をしていますが、大切なのは検査員の人の感じ方とロボットの検出の仕方を合わせることでした。

岩橋:それがまさに検査員が培ってきたノウハウです。彼らはゴミ・ブツ一つ一つの大きさを測定器で測っているわけではなく、目と指で検査していく。今回はそのノウハウを定量的な数値に落とし込む必要がありました。

本田:まずは検査員の方と一緒にゴミ・ブツを形状に合わせていくつかの種類に分類し、現場で検査員の方々と一緒に実際のゴミ・ブツを見ながら分析して数値を決めていきました。

岩橋:定量化の次の課題が、不具合と判定すべきゴミ・ブツをロボットが見逃さずにチェックできるかどうかで、再度人間がチェックしなければならないレベルなら自動化する意味はありません。私はこれまで自動化のための設備をいくつも立ち上げてきましたが、今回は特に難しい開発でした。白色部分と黒色部分がストライプ状になった(ゼブラ状)照明をボディやバンパーに当てて、その反射した映像をカメラに取り込んで検査するというシステムですが、光の当て方やカメラの角度によっては検出できないゴミ・ブツが出てきてしまいます。すべての形状のゴミ・ブツを拾い出せる明るさや角度を見つけなければなりません。また平面では検知できたゴミ・ブツが、凹凸のある面だと検知できないこともあり、また水平面と垂直面でも難易度が違いました。

照射しているゼブラライト

本田:ボディとバンパーを約600の区間に分けて、1箇所ずつゴミ・ブツを見逃していないか確認していきました。塗装する色によっても検知に違いが現れ、ダークな色だと画像が暗くて識別できないことがあり、暗い色に合わせてしまうと今度は明るい色が識別しにくくなります。

岩橋:人間の目は白でも黒でも同じように検査できますが、カメラは違うんです。例えば、白は照明が跳ね返ってノイズになってしまうため、検出が難しくなります。適切なカメラ角度で検査するにはロボットの動かし方が重要になりますが、アームの先端にカメラや照明を付けた複数台のロボットが同時に動いていくので、ぶつからないように調整するのにも苦労しました。もちろん事前にシミュレーションで確認しますが、実際の動きは実物を見ないと分からないところがあり、トライアンドエラーを繰り返しました。

手で行う繊細な検査も自動化

本田:自動計測装置の導入に向けて大変だったことは、膜厚と色味の検査についてはロボットがボディやバンパーに検査機を接触させながら測定するので、傷をつけてしまうというリスクが発生することです。

岩橋:特に苦労したのが膜厚の検査。細い棒状のプローブをボディと接触させ測定を行いますが、押しつけすぎるとボディがへこんでしまうこともある。熟練の検査員の繊細な手の動きをロボットに再現させるのが大変でした。

本田:ロボットが検出した不具合は検査員が腕に装着したスマートフォンに表示されます。検査員はその不具合を確認し、必要であれば修正作業を行います。

検査員の腕に装着されているスマートフォン

新しい設備で知った地道な作業の大切さ

岩橋:ロボットといってもその動きは人の動作がベースであり、どれだけ正しく人の動きを教え込めるのかが重要になります。正しい動きをロボットにプログラムさえできれば、ロボットはずっと正しいものをつくり続けてくれます。しかし間違ったことを教えてしまえば、ロボットは良し悪しの判断ができないので、そのまま品質の悪いものをつくってしまいます。塗装品質自動検査工程は、日産の熟練の検査員が培ってきた経験値を詰め込んだ、まさに集大成です。

本田:検査員と連携しながら検出レベルを一致させることができました。

岩橋:これも地道にトライアンドエラーを繰り返してきた成果です。栃木工場では、日産工場の中で先陣を切って新技術設備の導入に取組み、また設備立上げが出来たことが、わたしたちのモチベーション向上につながっています。

本田:これからも日産の一員としてチャレンジし続けるという姿勢を今後も取り続けていきたいと思います。

「ニッサン インテリジェント ファクトリー」での次世代のクルマづくり
https://youtu.be/YH5x_wBe1hM?si=UpJiQicwS4sgeVya