Nissan Passionate Challengers

EPISODE 04

みんなを笑顔にするためのクルマづくりを目指して

パワートレイン一括搭載システム「SUMO」

「日産アリア」の量産を行う栃木工場ではこれまでにない新たなコンセプトが取り入れられています。それが「ニッサン インテリジェント ファクトリー(NIF)」。このコンセプトに基づく革新的な生産技術を導入したからこそ「日産アリア」の量産化が可能になりました。NIFの代表的な技術が「パワートレイン一括搭載システム(SUMO; Simultaneous Underfloor Mounting Operation:スモー)」です。開発・導入を担当した車両生産技術開発本部車両組立技術部 島田武さんと、組立工程の生産現場をまとめ上げた栃木工場第一製造部組立課 秋吉淳さんに話を聞きました。

車両生産技術開発本部車両組立技術部 島田武さん

栃木工場第一製造部組立課 秋吉淳さん

自動化で作業者の負担が大幅に軽減

秋吉:パワートレインやサスペンションをボディに組み付ける工程では、ボディを上から吊るして、下から持ち上げた部品をボルトなどで固定していきます。そのため、どうしても上を見ながらの作業になり、またボルトも非常に長く、締めるのに強い力が必要なので、専用の工具も重くなります。それを持ち上げながら作業するので、シニアや女性など力の弱い方には厳しい工程になっていました。それに工場は上からライトがあたるので影ができ、位置が見にくいという難しさもありました。

島田:SUMOは、高速ビジョンシステムによる画像認識でボディの位置を瞬時に測定。独自に開発したパレットシステムと自動組付けロボットにより、モーター・バッテリー・リヤサスペンションを一括して組み立てることが可能になりました。6工程に分かれていた3つのユニットの搭載を汎用性の高い1工程に集約しています。上を見上げて行う負担の大きな締め付け作業も完全自動化しました。
具体的にはまず作業者が車両のフロント、センター、リヤの3つのパレット(部品を正しい位置にセットするための治具)上でパワートレインの部品を組み立てていきます。その後、ロボットが計測結果をもとにパレットを移動させ、ボディの正確な位置に自動で組み付けていくのです。パレットに載せるユニットを変えることで、一つのラインでガソリン車から、e-POWER搭載車、EVまで生産が可能となりました。それぞれのプラットフォームにあわせて27通りのモジュールの組み合わせに対応可能な画期的なシステムになっています。無理な体勢での作業がなくなり、作業者はパレット上での組立作業に集中でき、品質の安定化にも貢献しています。
導入するにあたり、課題になっていたのが車両や部品に求める要件です。ロボットが多様な車種に対応しながら自動組み付けをできるようにするためには設計段階から配慮しなければなりません。様々な車種を扱えるように共通した要件を決めるために、ルノーも含めてアライアンスで要件定義したので、他工場でも導入可能になりました。

SUMOによる一括搭載の様子

ロボットを熟練の技に近づけるために

秋吉:SUMOが導入されると初めて聞いたとき、作業者の負担が大幅に軽減するので、ぜひ実現したいと思った一方で、熟練の作業者の技術をロボットで本当に行えるのかという懸念もありました。人間がすごいのは状況に合わせて微調整ができるところ。生産ラインでボディが流れる位置は一定でなく、ミリ単位のズレが生じ、1台1台判断しながら作業します。その微調整をロボットが再現するのは難しいと思ったのです。

島田:SUMOではボディの位置をミリ単位で把握するビジョンシステムが肝になっていますが、試作を重ねると、塗装されるカラーによって微妙な誤差が生じることが分かりました。
塗装工程に協力を要請し、ボディの一部を塗装したテストピースを作成し、異なる色のボディにテストピースを貼り付けることでビジョンシステムの調整を行いました。
また、苦労したのがルーフトリムと呼ばれる、車体の天井部分の内張りです。騒音の吸収・遮音や断熱などのために付けますが、その取り付けにはボルトではなく、クリップが使われます。ボルトの締め付けについては自動化の技術が確立されていますが、クリップに関してはまだ十分な技術がありませんでした。

秋吉:クリップを力一杯押すとヘッドランニング自体がしわになってしまうし、穴の位置が合ってないまま押し込んでしまうとクリップが破損してしまう。何よりも力加減が難しく、繊細な作業が要求されます。

島田:基本的には圧力センサーを付けてクリップがロックされたのかを診断しますが、クリップごとに形状が違うため、ロックしたときの圧力の変化も一律ではありません。クリップを押す位置によっても圧力は変化します。どこを押せば圧力の変化を正確に把握できるのか、クリップごとに実験を重ねて、ようやく自動化の作業が安定しました。

ルーフトリム

みんなを笑顔にするためのクルマづくりを栃木から世界へ

島田:私自身にとって、これだけ大きな設備を新たに導入するのは初めてのことでしたが、これまでの経験が大いに役立ちました。課題に直面した際に活きているのが、これまで量産工場に設備を導入した経験です。量産ではどのような課題が顕在化するのか。それをどう解決すれば良いのか。経験から得たノウハウが、開発段階から役に立ちました。ビジョンシステムについても、日産自動車九州でエンジンとトランスミッションを自動で合体させる設備を導入した際に活用した事例があり、その時に苦労したことがよかったと思っています。

秋吉:これまでにない最新の生産設備で、日産のフラッグシップとなる「日産アリア」を組めるということに、みんな誇りを持って取り組んでいます。作業者全員が前向きで、「日産アリア」を高品質で造るという思いがひとりひとりから伝わってきます。
私の好きな言葉に「居心地の悪い場所に行く勇気を持とう」というのがあります。新しいチャレンジをして成長しようと思えば、居心地の悪い場所にも行かなければなりません。工長にはこの言葉を伝えていましたが、そういう気概をみんなで共有しながらプロジェクトを進めることができたと思っています。日産もこれまでいろいろな変化がありましたが、そういう節目でいつも誰かがチャレンジしています。それが日産のDNAです。

島田:NIFの導入は工場全体を変えようとしています。近年、生産現場でも働き手が減っており、シニアや女性をはじめ、誰もが働きやすい職場づくりが一層求められています。今回のように自動化を組み入れることで、作業者の負担は軽減され、誰でも働きやすい職場に近づいていきます。

秋吉:組立工程では、「『日産アリア』を通してみんなを笑顔にしたい」と話してきました。「アリア」のプロジェクトメンバーだけでなく、サプライヤーや販売会社も含め、また何よりもお客さまを笑顔にしたい。これからも栃木工場をはじめ各日産工場をよりさらに良いものにしていこうと取組み続けています。

「ニッサン インテリジェント ファクトリー」での次世代のクルマづくり
https://youtu.be/YH5x_wBe1hM?si=UpJiQicwS4sgeVya