Nissan Passionate Challengers

EPISODE 03

0.01mmの歪みも許さない

レーザーブレージング

「日産アリア」のデザインコンセプトのひとつがシームレス。低く滑らかなルーフラインから、フロントとリアを直線でつなぐウエストラインまでつなぎ目がなくシームレスにつながっています。これまでにない、このデザインを可能にしたのが新たに採用されたレーザーブレージングです。

白川 寛さん 生産技術車体工程のプロジェクトリーダー(車両生産技術開発本部 環境&ファシリティエンジニアリング部)

石井 伸行さん 車体工程の統括係長(栃木工場第一製造部車体課)

クルマのルーフのルーフモール(樹脂製のカバー)がなくなった

白川:「日産アリア」ではルーフとボディのパネルを溶接する際にレーザーブレージングという新技術を採用していて、私は車体プロジェクトリーダーとしてその導入の一端を担っています。

石井:私は生産部門で車体を溶接して組み立てる工程を統括しています。かつてはルーフとリヤフェンダーの接合は人がブレージング溶接で鉄板と鉄板を接合させていました。その後、電流を流して溶接するスポット溶接が採用され、今はレーザーを使った溶接が主流です。

白川:クルマのルーフを見るとルーフモールのような部品がついているのを見たことがあるかと思います。ルーフパネルとボディパネルがまるで1枚のパネルに見えるようにつなげるために採用したのが、レーザーブレージングです。端をR状に丸く加工したルーフパネルとボディパネルをぴったりと合わせて、その上部にできた隙間に銅でできたワイヤーをレーザーで溶かし込みながら接合するのです。レーザーの場合、熱が1点に集中するので、ワイヤーだけをピンポイントで溶かすことが可能で、この技術をルーフとボディの溶接部に使用することで、つなぎ目が見えなくなり、シームレスなデザインが可能になります。またルーフモールが不要となり、軽量化も実現できます。


溶接につきものだった歪みをなくす

白川:レーザーでワイヤーを溶かしていくときに、溶接している周辺は300度ほどの温度になります。ここでできる少しの歪みをできるだけゼロにするのが大変でした。

石井:私自身、溶接に関して30年以上の経験がありますが、今回あらためて「溶接は奥が深い」と思っています。

白川:歪みの要因として考えられるものをすべて列挙して分析していくのですが、一つひとつの条件を変えながら地道にトライアンドエラーを繰り返し行いました。

石井:課題になったのが二つのパネルを合わせる精度です。レーザーブレージングでは溶接する面がないため2つのパネルをぴったりと合わせければなりません。

白川:高い精度を実現するために、ルーフパネルをボディパネルに載せる際にビジョンカメラシステムを採用。各パネルの精度も圧造部署と連携して、精度向上に努めました。

石井:レーザーブレージングでは前工程のボディプレスにおいても高い精度が必要で、何度も調整を行いました。

歪みを限りなくゼロへ

石井:レーザーを動かす速度と角度についてもトライアンドエラーを重ねました。
溶接を長くやってきた人にとって熱を加えればその周辺に歪みが出るのは当たり前。限りなくゼロにするというのはこれまでにない挑戦で、歪みの量を確認しながら開発部門と歪みを0に近づけられるような対策を議論・調整し設計変更も行っています。
塗膜を踏まえても表面の凹凸のひずみを抑えるのには、0.01㎜程度の歪みを把握かつ調整が必要で、この0.01mm程度の歪みだと熟練した作業者でないとわかりません。光の当て方を微妙に変えながら確認するとともに表面に触ることで凹凸を把握していく。そうしたレベルまでもっていけた時の達成感をかかわったすべてのスタッフが感じていました。


溶接は車体工程作業員の誇り

白川:日産で初めてルーフ部に適用した技術なので、レーザー溶接と品質のつくり込みに関するスペシャリストと共に設備の導入を行ってきました。

石井:設備導入後は生産部門で管理するため、レーザーブレージングでどのような不具合が想定できるのかというトラブルシューティングから、必要な設備点検項目までさまざまな要件を設定しております。現在はロボットで溶接をしておりますが、元々は人力で行っており、どのような速さで動かすのか、パネルからどのくらい離すかなど、取得しなければいけないノウハウが多く、熟練した人たちだけができる技でした。
車体工程は溶接屋なんです。ボディ剛性を高めるための肝になる、クルマづくりに欠かすことのできない技術です。熟練するには経験と知識が必要ですし、鉄板の特性も熟知していなければなりません。常に技能を磨きながらしっかりと溶接することが私たちの誇り。レーザーブレージングにしても、人が磨いてきた技能を設備に委嘱しているのであり、土台があるからこその新しい技術だということをあらためて感じました。

白川:車体というのはクルマづくりの中で最初に形になる工程であり、その後、塗装工程を経て、パワートレインなどの部品が組み付けられていきます。まさにクルマの土台であり、品質をしっかりと作り込まなければなりません。日産はこれまでも車体工程において多くのノウハウを積み上げクルマを生産してきましたが、新工法に関してもノウハウを積み上げさらに品質の良い商品を生産しいくことが大切だと思っています。

自動化された現場を支えるのは「人」

白川:新技術、新工法を導入時には、生産部門はもちろんのこと開発の設計部門や実験部門などいろいろな部門とのコミュニケーションが必要です。おかげで個人の知識が増えただけでなく、人間関係の幅が広がりました。
また、栃木工場で蓄積したノウハウを日産の国内外問わず他拠点工場に展開することで、更に他拠点工場のノウハウも加わり、この先日産として大きな成果が期待できると思います。

石井:現場で大切なのはなんといっても「人」です。人がついてきてくれないと仕事は進んでいきません。私の信条は話を聞くこと。それが第一歩だと思っています。

白川:「日産アリア」のデザインはとてもいいですよね。このクルマを品質よく生産し続けて、お客様に届けることが大切で、これからもこのような新技術、新工法で進化を続けて、「さすが日産」と多くの人に言ってもらえるようにがんばっていきます。

石井:レーザーブレージングは難しい技術で大変でしたが、「日産アリア」のデザインは素晴らしく、報われた気がしますね。この「日産アリア」をよい品質でお届けできるように自分の持っているノウハウをフルに活用していきます。