ジェレミー パパンSVPインタビュー

ジェレミー パパンSVPメッセージ

事業構造改革計画「Nissan NEXT」の米国における取り組みについてお聞かせください。

事業構造改革計画「Nissan NEXT」の米国における取り組みは、米国のリーダーシップチームが2019年度から進めていた戦略を進化させたものです。私たちは事業、商品、文化を変えることに重点を置いて社内全体を精査しました。そして「新車の投入をてこに事業基盤を強化し、お客さま中心のマインドセットでブランド力を強化する」という、好循環に基づく戦略を策定しました。
取り組みは未だ道半ばですが、当初の想定よりも速いスピードで進んでおり、成果も出てきています。あらゆる次元で持続可能かつ収益性の高い事業を行うことで、私たちはお客さま、ディーラー、サプライヤーの信頼を獲得することができます。これは、電動化が進む中で、新たな収益源となるビジネスを展開する次のステージに歩を進めるための基盤となります。

どのような変革を既に行いましたか?

米国事業の中で根本から最も大きく変えたのは、クルマを売る時に何を優先するのかということです。以前は固定費をカバーするため、台数の最大化を目指しており、そのために販売価格を下げたことでブランド価値が低下していました。今、私たちは販売の質に重点を置いています。目指しているのは、セダン、SUV、ピックアップトラックの各セグメントを代表する新車を市場に投入し、それぞれのクルマの価値を最大限に引き出して、自らのニーズに合った商品を選ぶ富裕層のお客さまを増やすことです。また、より高い残価を維持することも目指しています。
最終的には、日産車を購入し所有するという体験を通じて、お客さまのロイヤリティを高め、ブランドを強化したいと考えています。お客さまには、私たちのこれまでの成果に満足いただいており、日産は主要マスマーケットブランドの販売満足度で第3位、顧客サービス満足度で第2位を獲得しています。

マーケティング&セールスへのアプローチをお聞かせください。

マーケティング&セールスに関しては、現在、以下の6つの戦略を推進しています。

  1. 継続的な投資:日産ブランドとお客さまをつなぐため、日産のDNAにフォーカスしたブランド強化のための投資を継続的に行う。
  2. 持続可能な販売台数を実現する文化・慣習の醸成:プッシュ型からプル型に移行して、高いディーラー在庫、高いフリート率、販売台数を増やすためのインセンティブプログラムといったこれまでの行動パターンからの脱却を図る。
  3. ディーラーとの関係強化:透明性の確保、コミュニケーションの改善、ディーラーの収益性向上、在庫削減、教育を通じて、ディーラーとの関係を「最低レベル」から「最高レベル」に引き上げる。
  4. NNAとNMACの協力:販売金融子会社である米国日産販売金融会社(NMAC)によるファイナンスを受けたお客さまはロイヤリティが高い傾向にあるため、北米日産会社(NNA)とNMACの協力関係を深化させる。
  5. お客さま第一の文化を浸透させる:お客さまにかかわるすべてのプロセスの解体・再構築を実施。6つの課題を洗い出し、いずれも2022年に対応予定。
  6. ディーラー網のEV対応強化:日産は内燃機関からEVへのシフトを強力に推し進めており、「日産アリア」の発売への準備は整っている。米国における日産ディーラーの急速充電器設置台数は他の完成車メーカーを上回っており、電動化に向けてディーラーのマインドセットを変革するための教育プログラムも実施している。

こうした戦略に加え、情報発信と広告へのアプローチも大きく変えました。以前はマーケティング費用の約15%を広告に、85%をインセンティブに使っていましたが、2021年度は広告が31%、インセンティブが70%未満となっています。私たちは「プル型戦略」、つまり、日産がどのような企業か、ということや、日産が市場にもたらすワクワクする商品やイノベーションを提示する戦略へとシフトしたのです。

米国で「Nissan NEXT」を実行するにあたって、商品と技術はどのような役割を果たしていますか?

商品は日産復活の基盤です。現在の商品ポートフォリオは業界内でもとりわけ新しいものであり、第三者機関によるランキングでも、日産の新車に対するお客さまの評価は著しく改善しています。
技術も重要です。有力な消費者情報調査会社のランキングで、日産は「機能の数」「機能の質」「イノベーション全般」の各項目でトップレベルにランクインしました。こうした調査結果は、日産が先進技術を持つイノベーティブな企業であることをお客さまに印象づけます。
現在、お客さまへの販売価格は上昇しており、収益性は向上しています。また、お客さまの平均世帯収入と新車のFICOスコア(クレジットスコア)が上昇していることから分かるとおり、信用力の高いお客さまが増え、貸倒損失も減少しています。

そうした変化は、ディーラーやサプライヤーとの関係に影響しましたか?

ディーラーの売上高利益率は大きく改善し、日産に対する信頼が高まりました。かつては需要を喚起するためにディーラーにインセンティブを支払っていましたが、今はほとんどの新車について、生産時点でディーラーから予約が入ります。その結果、商品の回転率が上がり、インセンティブが減り、ディーラーと当社の収益性が向上しました。また、この1年半でフランチャイズの価値も向上しています。
サプライヤーとの関係も、短期志向のネゴシエーションが中心のものから、長期的なWin-Winの解決策を目指すものに変えました。日産にとってより持続可能なビジネスは、サプライヤーにとってもより持続可能なビジネスなのです。

将来に備えた取り組みを教えてください。

コロナ禍では、買い物をオンラインで済ませたいと考えるお客さまが急速に増えました。そこでNNAは、商品の閲覧から試乗の予約、ローンの申し込み、購入手続き、購入後のサービスの申し込みにいたるすべてのプロセスに関して、自宅にいながらオンラインで行える「Nissan@Home」を導入。戦略的な利点を見越してeコマースに参入し、オンラインで完結する新車購入プログラムを提供したのは、日産が初めてです。「Nissan@Home」は新たな自動車販売システムとして評価され、Automotive News PACE Awardを受賞しました。
また、この数年で製造にかかる固定費が削減された一方で、品質は向上しています。テネシー州にあるスマーナ工場の生産ラインの一つは、初期品質の高さで米州トップクラスにランキングされており、日産の多くのモデルが各セグメントで高い評価を得ています。初期品質は長期にわたる信頼性と耐久性にかかわり、お客さまの満足度とロイヤリティの向上にもつながります。

電動化への対応は重要ですが、それについてはどうお考えでしょうか。

私たちは電動化の未来に自信を持っています。グローバルで50万台以上販売した「日産リーフ」をはじめ、日産は10年以上にわたってバッテリーEVを販売してきました。「日産リーフ」は大きな事故や火災を起こすことなく、累積で80億キロ以上を走行しています。また、オーナーの80%以上が「日産リーフ」を気に入っており、平均世帯収入は日産ブランドの平均を大きく上回ります。充電に関しては、EVgoなどと協力してネットワークを拡大しています。
私たちは2030年までに米国で日産が販売する全車両の40%がバッテリーEVになると予測しており、これに向けて各セグメントを代表するモデルを投入する計画です。「日産アリア」は、日産が最大かつ最も活気あるセグメントにさらにEVを投入していくための道筋をつけてくれるでしょう。「日産アリア」には、最先端の運転支援システム「プロパイロット アシスト2.0」(他の車種にも拡大予定)、ダイナミックでエキサイティングな運転体験を生み出す先進4WD制御技術「e-4ORCE」、お客さまにさらなる価値を提供するコネクテッド技術など、お客さまに喜んでいただけるさまざまな技術が搭載されています。
一方、バッテリー事業ではクルマにとどまらない価値を提供します。EVのバッテリーはゼロエミッションの実現とCO2のカーボンクレジット化に貢献し、NNAはバックアップ電源の確保や系統安定化のためV2Xを推進するとともに、EVバッテリーを自動車以外の産業で活用する方法を模索していきます。また、EV用としての役目を終えたバッテリーの再利用を進めて、CO2削減、廃棄コスト削減、EVの残価向上を目指します。

最後に何か読者に伝えたいことはありますか?

私たちは新型コロナウイルスの感染拡大や、深刻な半導体不足が起きる前から事業の改善に取り組んでおり、これらの出来事によって改革は一層加速しました。私たちは電動化を更に推進し、新たな事業機会を追求することで、収益性とお客さまの満足度を最高レベルまで引き上げていく決意です。目標達成に向けて、変化を恐れず進むNNAの企業文化が助けとなってくれるものと確信しています。

2022年2月掲載