ベルナール・デルマス、アンドリュー・ハウス

新たな日産の構築に向けて
独立社外取締役ベルナール・デルマス、アンドリュー・ハウス

就任からの1年半を振り返って

ベルナール・デルマス:新しい取締役会で最初に決定したのは、経営陣の刷新でした。その後すぐに、私たちは新たな経営陣に対して、収益性とキャッシュフローの回復、米国市場への対応、アライアンスパートナーとのシナジーに重点を置いた中期的なリカバリープランを作成するよう求めました。
また、報酬委員会は、他のグローバル企業とのベンチマークを含め、役員報酬制度を再検討。さらに最近では、地域ごとの状況への理解を深めるため、各地域の事業レビューを行うことを求めています。

アンドリュー・ハウス:私たちが取締役会に加わってからの期間を一言で表現するなら「改革」でしょう。企業が徹底した改革を行う機会はそうありませんが、日産には必要なプロセスでした。改革に際しては、組織としての長所、DNA、歴史を継承する一方で、新たな能力を習得する必要があります。日産の場合、多様性とグローバルなマインドセットは継承すべきでしょう。 日産は、この2点に関して他の日本企業より優れているからです。

また、日産は組織の活力の源であるイノベーションへのコミットメントを続けることも意味します。その一方で、企業文化、組織の体制、経営スタイルについては根本から変えていく必要がありました。

新しい「日産ウェイ」を策定し、ブランドロゴを刷新したことで、「日産は経営陣と経営哲学を一新したが、いいところはきちんと残している」という強いメッセージを社内外に発信できたと思います。 指名委員会の委員である私にとって、新しい経営陣の選定は大きな成果でした。選定プロセスは公平で透明性があり、事実に基づいたものでした。その結果、過去を断ち切り、日産を前進させることができる、優れた経営チームが誕生したのです。

日産のガバナンスのこれから

ハウス:日産の経営陣が一新されてからまだそれほど時間は経っておらず、また取締役会の過半数を独立社外取締役が占めるのも初めてのことです。経営陣は会社の運営に必要な判断を下さなければなりませんが、取締役会の役割は、従業員と株主に代わって経営陣がコミットメントしたことに対する責任を果たしてもらうことにあります。
新しいガバナンス体制は過去から抜本的に変わったことから、組織内に「制度化されたガバナンス」を構築し、浸透させる必要があります。どんな形であれ、ガバナンスは枠組みでありルールです。そのルールを日産の事業の基盤とするためには、経営陣が自ら手本を示さなければなりません。

デルマス:3つの委員会によるガバナンス体制を定着させるには、まだ努力が必要でしょう。幸い経営陣は非常に前向きですので、継続していくことでいずれ良い結果が得られると思います。

社外の声を取り入れて企業価値を向上させる

デルマス:独立社外取締役は皆、多様な経験を持っているので、会社に異なる視点をもたらすことができます。私たちの役割は、株主、特に少数株主を代表することですが、それぞれが異なるバックグラウンドを持っていますから、全員が同じ質問をするということはありません。
私はミシュランの経営と研究開発に携わり、日本を含むアジア諸国を中心に長年自動車業界で仕事をしてきたので、たくさんのベンチマークと経験を持っています。また、フランス出身なので、さまざまな市場でグローバルに事業を展開する日産に欧州の視点をもたらすことができます。

ハウス:優れた取締役会のメンバーというのは、自分の会社や業界、自国の文化以外に目を向けさせ、新たなトレンド、脅威、困難に気づくことを促します。
私は日本、欧州、シリコンバレーで企業経営に携わり、事業再生の先頭に立ったこともあり、日産の経営陣が直面している困難を理解できます。また、ビジネスモデル、消費者の嗜好、製品の流通の仕組みが大きく変化する事業に携わった経験から、組織が成功するためには組織自体が迅速に変わらなければいけないことも理解しています。
日産は今後の見通しが不確かな環境の中で事業を行っています。取締役会は単に経営計画を承認するだけでなく、経営陣が確実に環境の変化に適応できる柔軟な計画を策定できるように促す必要があります。

機動性とバランス

デルマス:私はコロナ禍によって、自動車業界のCASEへの取り組みが加速すると考えています。もはや自動車メーカーはクルマをつくるだけでなく、新たなモビリティサービス、コネクテッドカー、自動運転車両などを提供する存在です。経営側は明確なビジョンを持って決断を下し、変化に柔軟に対応していかなければなりません。日産の業績回復後の方向性を定め、機動的に執行・変革を進められるようにすることが、2021年に私たちがなすべき仕事の一つでしょう。

ハウス:長期にわたって成功している企業というのは、バランスの取り方がうまいですね。将来の可能性、脅威、課題に対する理解と、自社のコアスキルとコンピテンシーに対する理解のバランスが適切です。企業は状況に適応しながらも、自社を成長させるコアスキルを保持し続けなければなりません。

変化の波が押し寄せる中、日産が進むべき道とは

ハウス:ブランドとの関係や愛着という点で、新しい世代の消費者はこれまでとは異なります。日産は、ブランドとしての伝統を持つと同時に、消費者を魅了するようなワクワクする製品を展開しており、その意味では素晴らしいポジションにいると言えます。消費者との信頼を構築することは、ブランドとして勝利するための重要な戦略の一つです。

デルマス:鍵になるのは、やはり「人」です。日産は将来に向けて適切な人財を確保し、社内で育てていかなければなりません。日産とは1985年からの付き合いですが、従業員のプロ意識とモチベーションの高さにはいつも感銘を受けていました。長期的な成功を収めるには、人財を育成し、モチベーションを高めることが大切です。これまで報酬委員会は役員関連の案件に重点を置いてきましたが、企業が成功するためには経営体制全体に目配りすることが重要です。

2021年3月掲載