中畔EVPメッセージ

執行役副社長・中畔邦雄

日産自動車の競争力の源泉は過去も現在も先進技術であり、創業以来、常に他が成し得ない新しい技術の開発と実用化に挑んできました。ここ20年は電動化と知能化の二つを先進技術の大きな柱において研究開発活動を進めていますが、その理由は、資源の枯渇、環境問題、交通事故、交通渋滞など社会課題を解決する鍵になると考えているからです。

我々はこうした先進技術をできるだけ多くのお客様に使っていただくこと、技術は普及させて初めて価値を持つことを常に念頭において研究開発に取り組んでいます。そうした弛まぬ努力が、電動化においてはEV(電気自動車)とe-POWERを、知能化においては様々な先進安全技術とプロパイロット、コネクテッドIT技術の実用化などに繋がっており、お客様にも広く浸透しつつあります。

一方で、今後10年は社会環境と技術の変化が激しく、非常に流動的な時代になることが予想されるため、それらに対応する技術戦略を立て、将来に向けた新たな取り組みも進めています。

電動化技術でゼロ・エミッション社会の実現に貢献

日産は1990年頃から先んじて電気自動車用バッテリーやモーターの研究開発を進め、2010年に量産型EVである日産リーフを発売しました。また、車両だけではなく、充電器の規格・拡充、Vehicle to HOME、4Rエナジーのバッテリーリユース事業など、使用環境やエコサイクルも含めて、より安心して使えるEVを目指し、市場に様々な技術を投入してきた実績もあります。そうしたリアルワールドでの豊富な実績や、蓄積してきたクルマや顧客のデータが、電動化を推進していく上での大きな強みになっています。

日産が電動化を拡大する目的は大きく2つあります。ひとつは日産がビジョンとして掲げているゼロ・エミッション社会を実現させること。もうひとつはモーター駆動のポテンシャルを活かして安心・安全・快適な移動手段をお客様に提供することです。

モーター駆動は、その制御性の良さからクルマの走る環境やドライバーの意図に応じた理想的な加速・減速、乗り心地、静粛性を実現することができ、またADAS*1など先進安全技術や自動運転技術との親和性も非常に高いことが挙げられます。そうしたモーター駆動ならではの魅力創出を今後も加速させていきます。日産は、EVだけでなく、モーター駆動でありながら充電の必要の無いe-POWERを組み合わせることで、充電インフラの整っていない地域も含む世界中のお客様にモーター駆動の価値を提供していきます。

日産の事業構造改革計画である「NISSAN NEXT」では2023年度末までに「年間100万台以上の電動車両の販売」、「8車種以上のEVモデルのラインアップ拡充」、「e-POWERのグローバル・セグメントカバレッジの拡大」を計画しています。

1.EV

日産が電動車両を開発・提供する上で重視している要件の一つが安全性です。特にバッテリーについては性能向上のためにバッテリーエネルギー密度を高める一方で、市場に投入する前に厳しい条件でテストを行い、安全性と信頼性を徹底して確保しています。「日産リーフ」は2010年12月の販売開始からこれまでグローバルで累計51万台以上*2を販売してきましたが、バッテリーが起因となる重大事故を1件も起こしていません。今後も、お客様が使われる厳しい使用環境を市場走行データから予測し、高度な信頼性設計・実験基準に落とし込み、開発に反映していきます。
電動車両の魅力を向上するための技術開発も加速させています。たとえば、魅力性能を作りこむ上で重要な技術の一つとして、リーフのモーター開発の中で培ってきた独自の制振制御技術が挙げられます。電動パワートレインは、その応答性の高さからガソリン車以上の制御性ポテンシャルを持つ一方で、人の感性に反する唐突なトルクの立ち上がりや、トルク変動による振動抑制が課題となります。それらを緻密に制御し、滑らかな加速を作り出すのに、制振制御技術が重要な役割を果たしています。これに加えて、長年に渡って培ってきたAWD*3制御・シャシー制御のノウハウを融合させた車両統合制御技術が、昨年、発表した日産アリアに搭載するe-4ORCEです。前後2つのモーターを制動・駆動の両面でコントロールし、シャシー制御と組み合わせることで、スリップや車両姿勢などの変化を感じさせないフラットで快適な乗り心地を実現しています。こうした技術が、誰もが安心・快適に運転できるクルマの価値を提供することに繋がっていきます。今後、電動化をさらに普及させるためには電動パワートレインのコスト低減が不可欠です。特にバッテリーの技術革新は大きな課題と認識しており、日産ではバッテリーの材料開発をさらに進め、高価なコバルトを減らしたコバルトフリーバッテリーの研究開発を加速しています。バッテリーパックについても、モジュールを介さず、直接セルをパックに配置する「Cell to Pack」を開発することで、製造プロセスの合理化も進めています。こうした技術革新にサプライヤーと協働して取り組むことで、2030年前までに内燃機関のクルマと同等の収益率を達成できると考えています。また、安全性と低コストを飛躍的に向上する可能性を持つ全固体電池の研究開発も、東京工業大学などと進めています。こちらの最大の課題は自動車に適用できるバッテリーの大型化と生産プロセスであり、早期の量産化を目指し、材料選定や製造プロセスの技術開発を加速させています。

今後はEVが普及すればするほど、中古バッテリー市場が拡大し、その活用が課題となります。日産はいち早く福島県浪江町に4Rエナジー社を設立し、使用済みバッテリーを再利用するための技術開発を進めてきています。市場から戻ってきたバッテリーを、その状態や性能によって分別し様々な二次利用先に供給、リユース分の価値をお客様に循環還元していくというビジネスモデルを既に構築しつつあります。このモデルを事業として拡大し、お客様がEVを保有する負担をより軽減することで、電動車のさらなる普及に繋げていきます。型化と生産プロセスであり、早期の量産化を目指し、材料選定や製造プロセスの技術開発を加速させています。

2.e-POWER

EVとコア技術を共用するe-POWERも100%モーター駆動です。制御技術を追求することで、走り出しから最大のトルクを出しながら、EVのように静かでスムーズな走行ができることが最大の特徴です。 2020年末に日本で販売を開始した新型「ノート」では、インバーターとモーターを一体化した新たな電動パワートレインを開発し、さらにパワートレイン効率を上げ、加速や静粛性などの性能を一段と向上させています。 また、e-POWERの特徴を活かし、発電用エンジンの振動伝達を究極に減らすことで圧倒的な静粛性を実現できるプレミアムセグメント向けシステムの開発にも取り組んでいます。 一方で、e-POWER普及の課題もパワートレインのコストです。EV同様バッテリー技術の進化に加えて、発電専用のエンジンを定点運転に特化することでシステムの簡素化も進めており、2025年までに内燃機関と同等なレベルまでコストを低減させることを目指しています。

知能化技術で日産車による交通事故をゼロにしたい

日産は、日産車が関わる交通事故の死亡者数を実質ゼロにするゼロ・フェイタリティの実現を目的に、リアルワールドで起こり得る全ての事故リスクに対応する運転支援技術の開発に取り組んできました。クルマが人を守るセーフティーシールドというコンセプトのもと、周囲360度のリスクへ対応する技術として、レーンキープアシストやアラウンドビューモニター、踏み間違い衝突防止アシストなど世界初となる技術を数多く投入してきました。その実績とシステムの高い信頼性が、電動化技術同様日産の競争力の源泉となっています。また、これら技術を通して、全てのお客様にストレスの無い、どこでも安心・安全で快適なドライビングを提供してくことを目指しています。 昨今の代表技術である2016年に投入したプロパイロットは、進化を重ね、2019年にプロパイロット2.0として、同一車線内のハンズオフ機能付き高速道路ナビ連動ルート走行を世界で初めて実用化しました。日産は2023年度末までに年間150万台以上の自動運転支援技術搭載車を投入していく予定です。 将来の完全自動運転に向けては、運転支援可能なシーンを広げ、自動化のレベルを向上させていくだけではなく、誰でも安心して使えるシステムであり続ける必要があります。横浜みなとみらいで実証実験を始めた新しい交通サービス「EasyRide*4」は無人運転車両を活用しており、その実現には自動運転技術の進化が欠かせません。実際のお客様にご使用いただくことで実用上の課題を発掘、将来の実運用に向けて進化を続けています。

また、リアルワールドでのあらゆるシーンで安全性を担保するためには、路上の危険な障害物を全て認識できる能力が必要になります。お客様の運転シーンと道路環境を広くカバーできる認識技術という観点では、さらなる研究開発が必要になります。今後も車両の制御技術に加えて、センサー・カメラなど基幹部品の研究開発にも注力していきます。 知能化技術をグローバルマーケットで普及させるためには、より効率的な市場環境の把握が重要であり、それを目的に道路環境のモデル化を進めています。これまでプロパイロットの開発時に蓄積した市場環境に関する膨大なデータと高精度地図データを元に、世界中の様々な走行シーンをシミュレーション上で再現することで開発を大幅に効率化してきています。こうした市場環境と実車の車両挙動を再現できるドライビングシミュレーターを自動運転技術の開発に活用しています。

アライアンスでグローバルに推進するコネクテッド技術

クラウドなど外部と繋がりながら車内のお客様に多種多様なサービスを提供するコネクテッド技術についても、日産は長年技術革新を図ってきました。1998年には、「コンパスリンク」を開始し、カーナビゲーションと携帯電話を活用した新しいサービスや日本初のオペレータサービスなど、車とITの融合の先駆けとなる技術を開発してきました。クラウドやサーバーとの間の通信速度が飛躍的に高速化することが予測され、今後さらに多くのサービス提供が可能になります。
例えば、スマートフォンのアプリを活用し、車内の様々な機能を遠隔操作する、ビッグデータを活用してドライバーの嗜好や行動を分析する、お客様の意図を先読みすることで運転中にクルマの数多くの機能を直感的に操作できるようにする、といったコネクテッド技術を実現し、これまでにないHMI(ヒューマンインターフェース)を提供していきます。
日産の先進的なコネクテッド技術の基盤となるのが、ルノー・日産・三菱アライアンスで共有しているアライアンスクラウドやオンボードプラットフォームです。こうした基盤技術をグローバルに展開していくため、世界各地の通信事業者やサービスプロバイターと連携して開発を進めています。 機能拡大に伴い、システムのソフト、ハードのアーキテクチャも年々複雑化してきており、モジュール設計を活用したシステムの大幅な合理化や、デジタル解析ツールを活用した自動での機能評価手法など、開発効率の革新も合わせて実施しています。

将来のモビリティビジネスへの拡大

これまでご紹介した先進技術は、商品として車を所有いただくお客様のためだけでなく、社会の中で人々の暮らしを豊かにしていくことにも広く貢献することができます。 一例として、走る蓄電池でもあるEVは災害時の電力としても活躍しており、日産の「ブルースイッチ」活動のもと、多くの自治体と協定を結び、広く社会に貢献しています。また、再利用バッテリーを活用したエネルギーストレージを電力グリッドにつないで電力需給調整をおこなうVehicle to Gridシステムの研究にも取り組んでいます。 地方などでの移動弱者に対しては、これまで培ってきた先進安全技術や自動運転技術、電動化技術、コネクテッド技術をフルに活用し、自治体とも連携して誰もが安心して移動できる環境構築を目指すと共に、それによって生まれる新しいビジネスモデルの検証も進めていきます。

日産では、「電動化」や「知能化」以外にも異種材料を活用した軽量化技術や、生体認識によりお客様の体調を把握し車内環境を最適化する技術など様々な先進技術の研究開発に取り組んでいます。日産独自の先進技術の魅力を拡大し、世界中のお客さまにご使用いただくことで、お客様の日々の生活を豊かにし、将来のモビリティ社会の扉を開いていくと確信しています。
今後も、「技術の日産」であり続けるため、開発部門全体で挑戦をし続けていきます。

  1. Advanced Driver Assistance System (先進運転システム)
  2. 2021年1月末時点
  3. All Wheel Drive(全輪駆動)
  4. 「Easy Ride」は株式会社ディー・エヌ・エーと日産自動車株式会社の登録商標です。

2021年6月掲載