スピーチ


2022年6月28日

第123回定時株主総会 事業報告
スピーチ原稿

1. はじめに

それでは、これより、事業構造改革Nissan NEXTの進捗状況と2021年度の財務実績についてご報告し、その後、2022年度通期の見通しと将来に向けた取り組みについてご説明いたします。そして、最後に本日の議題について、ご説明いたします。

2021年度は、ウクライナにおける人道的危機や新型コロナウイルス、エネルギーやサプライチェーンの問題などの、様々な要因が重なり、非常に厳しい事業環境にありました。しかし、この環境を乗り越えるため、一人ひとりの従業員が努力を重ね、サプライヤー、販売店の皆さまからも絶大なご協力をいただきました。また、日産車をお選びくださった世界中のお客さまからも、力強いご支援をいただきました。改めまして、皆さまにお礼申し上げたいと思います。

2. Nissan NEXTの進捗状況

では、はじめに、事業構造改革「Nissan NEXT」の進捗についてご説明いたします。

2020年5月にNissan NEXTを発表した際、当社は

  • 最適化
  • 事業の選択と集中

を進めていくことをお約束しました。

まず、最適化についてですが、2018年度比で

  • 生産能力については、能力を2割削減し、需要に即した体制に見直しました。
  • 商品ラインアップの最適化も順調に進んでおり、これまでで車種数を15%削減しました。
  • 固定費についても、3,500億円以上の削減を実現し、目標を過達しています。

次に、選択と集中についてですが、市場については、米国、日本、中国および欧州をコア市場として位置付け、商品については、C、Dセグメント、電動車両とスポーツカーなどのコア・セグメントの商品を強化し、厳しい環境においても、計画通り18か月間で12の新型車を発表しました。

いずれもお客さまから大変好評を得ており、日本では、e-POWERを搭載する電動車「ノート」、「ノート オーラ」が、日本カーオブザイヤー、RJCカーオブザイヤーなどを受賞し、高い評価を頂きました。

台当たりの売上高も18%改善しており、販売の質は確実に向上しています。これは当社の新型車の価値をお客さまが認めてくださっている証だと考えています。

このように、Nissan NEXTにおける「最適化」と「選択と集中」の取り組みは、計画通り、着実に成果をあげています。

3. 2021年度の財務実績

次に2021年度の実績についてご説明します。

まず販売状況ですが、2021年度通期のグローバル販売台数は、通期予想を上回る388万台となりました。

  • 地域別に見ますと、2021年度通期の国内販売台数は42万8千台となりました。
  • 中国における販売台数は138万1千台でした。
  • 北米では健闘し、小売り台数は118万3千台となり、そのうち米国の販売台数は89万3000台でした。
  • 欧州では厳しい市場環境を受け、販売台数は34万台に留まりました。
  • 南米、アセアン、そして中東を含むその他市場の販売は持ちこたえ、54万3000台となりました。

重点市場において、積極的にオンライン・販売の機能を導入したことで、デジタルをきっかけとした販売は、前年から6ポイント上昇しました。

次に、2021年度の財務実績をご報告します。

厳しい事業環境ではありましたが、事業構造改革を着実に進めることで、2月の決算発表でお示しした通期予想を上回る結果を残すことができました。

こちらが中国合弁会社比例連結ベースと持分法を適用したベースの、主な財務指標です。

2021年度通期の中国事業を除く持分法適用ベースの連結営業利益は2,473億円、売上高営業利益率は2.9%、当期純利益は2,155億円となりました。

自動車事業のフリーキャッシュフローは2,947億円のマイナスとなりましたが、これは上期に半導体の供給不足による減産の影響を受けたことによるものです。

しかしながら第3四半期にはブレークイーブンに戻し、下期のフリーキャッシュフローはプラスに転じました。自動車事業のネットキャッシュは7,280億円となりました。

中国合弁会社比例連結ベースの21年度通期の連結営業利益は3,605億円、売上高営業利益率は3.7%となり、Nissan NEXTで掲げている2021年度中に2%にするという目標を大きく上回りました。自動車事業のネットキャッシュは1兆円を超えました。

こちらは2021年度通期の持分法適用ベースの損益計算書です。

売上高は前年比7.1%増、金額にして5,620億円改善し、8.4兆円に達しました。

連結営業利益は前年から3,980億円増加して2,473億円となり、売上高営業利益率は前年から4.8ポイント増の2.9%となりました。

当期純利益は前年から6,642億円増加し、2,155億円となりました。ロシアおよびウクライナ事業に関わるノンキャッシュ費用を計上しましたが、ロシア情勢の影響を除く持分法適用会社の貢献や、2021年度第1四半期のダイムラー株の売却益を含めた特別利益などの改善が、それを上回る増益要因となりました。

以上、Nissan NEXTの進捗および2021年度通期の販売台数、財務実績についてご説明いたしました。未曾有の厳しい経営環境であったにもかかわらず、下期の営業利益、売上高、当期純利益、自動車事業のフリーキャッシュフローといったすべての指標は、当初の想定を上回ることができました。これにより、3期ぶりの黒字化を果たすことができました。これは当社が、重点課題へ集中し、スピード感をもって、着実に事業構造改革に取り組んできた成果であると考えています。

4. 2022年度の見通し

次に、2022年度通期の見通しについて、ご説明したいと思います。

今年度は引き続き、厳しい経営環境を想定しています。前年から続く半導体の供給不足、ロシアとウクライナを中心とする地政学的な問題、そして、こうした問題によって、さらに原材料価格の急騰に拍車がかかっていることなどによる影響を見込んでいます。

2022年度通期のグローバル販売台数は、前年比3.2%増の400万台を見込んでいます。欧州の販売台数はロシアの販売減により前年から減少し、中国はロックダウンの影響等により前年並みと見込んでいますが、それ以外の市場では、新型車の投入や半導体供給の回復を受け、台数は伸びると想定しています。

こちらが、中国事業持分法適用ベースの、2022年度通期見通しの損益計算書です。

売上高は、前年比18.7%増の10兆円を見込んでいます。小売り台数の改善幅を上回る水準ですが、これは販売の質の向上および円安の影響によるものです。

2022年度の営業利益は、前年度並みの2,500億円を見込んでおり、売上高営業利益率は2.5%です。

当期純利益は前年比30%減の1,500億円を想定しておりますが、これは主に2021年度に計上したダイムラー株の売却益の差によるものです。

これまでの決算発表で、私は、営業利益と当期純利益の黒字化および、2021年度の下期に自動車事業のフリーキャッシュフローをプラスにし、健全な水準の自動車事業のネットキャッシュを確保した暁には、復配を検討する旨、お伝えしてきました。

Nissan NEXTの目標達成に向かって、着実に歩みを進めてきた2021年度は、これらすべての条件を満たすことができました。

そこで、本日、この定時株主総会において、2022年3月末現在の株主の方々を対象に、2021年度の期末配当として、一株当たり5円をお支払いすることをご提案し、後ほど決議いただきたいと思います。その場合、配当性向は約9%に相当します。

そして2022年度についてですが、期末配当に関しては、2021年度並みの5円を想定しています。なお、中間配当については、直近の著しく変動している外的なビジネス環境を踏まえ、現時点では未定とさせていただき、今後の状況を見極めたうえで、最終判断したいと考えております。

株主還元の向上は、当社にとって優先課題の一つです。今後、適切な水準まで増額すべく、取り組んでいく所存です。

5. Nissan NEXTからNissan Ambition 2030へ

最後に、Nissan NEXTの先、日産がどのように未来に向けて進んでいくかについてお話致します。

これまでご説明しました通り、Nissan NEXTは着実に進捗しており、私たちは将来の成長に向けたスタートラインに立つことができたと考えています。そこで、昨年11月に、2030年までの方向性を示す長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表いたしました。

このビジョンの実現を通じて、私たちは事業の再生から未来の創造へとギアをシフトし、お客さまと社会から真に必要とされる、持続可能な企業へと日産を変革していきます。そして、よりクリーンで、より安全で、よりインクルーシブな、誰もが共生できる世界の実現を目指します。そのために私たちは、様々な業界、政府、自治体と力をあわせて取り組んでいきます。

私たちはこの意気込みを「共に切り拓く、モビリティとその先へ」というスローガンに込めました。
そして、日産のDNAであるチャレンジ精神を生かし、私たちが強みとする電動化技術・知能化技術を柱にすえて、日産ならではの価値を提供し、移動の可能性と社会の可能性を広げていきます。

日産はこれまで、車両、バッテリー、充電器の開発、並びに、それぞれの生産などを含め、電動化技術に対して、約1兆円の投資を行ってきました。今後5年間で、さらに約2兆円を投資し、電動化を加速していきます。

グローバルの電動車のモデルミックスは、ニッサン、インフィニティの両ブランドをあわせて、2030年までに50%以上となる見込みです。そして、お客さまに多様な選択肢と体験を提供するため、15車種のEVを含む23の電動車両を投入します。

この計画を実現するため、2026年までにEV・e-POWERを20車種投入し、電動車のモデルミックスをグローバルで40%以上に引き上げます。一方で、今後電動化が進むスピードは市場毎に異なるため、ご覧の通り、それぞれ異なる目標設定をしています。日本においては、電動車の販売比率を55%以上とする計画です。

その日本では、先月、アライアンスパートナーである三菱自動車と共同開発した軽EV「日産サクラ」を発表しました。

性能、価格、デザイン、室内空間、使い勝手など、日本のお客さまのニーズにしっかりと寄り添ったこのクルマは、発表と同時に非常に高い評価を得て、これまで約17,000台のご注文をいただいています。この「サクラ」が、日本におけるEVのゲームチェンジャーとなり、EVの普及促進に大きく弾みをつけることを期待しています。

EVの競争力の鍵を握るバッテリーについて、日産は現在のリチウムイオンバッテリーを進化させながら、同時に、ゲームチェンジャーとなる全固体電池の開発にも取り組んでいます。今年から建設に着手する全固体電池のパイロット生産ラインは、2024年に稼働します。そして、2028年の量産化を目指しています。

日産が全固体電池の自社開発に自信を持って取り組めるのは、30年間の車載用バッテリー開発の経験と、初代「日産リーフ」発売から11年間、市場に安全な電池を送り出してきた実績があるからです。

全固体電池の実用化により、これまでにない車両レイアウト・運動性能を持つEVや、現在のリチウムイオンバッテリーでは実現が難しい大型車両のEV化も可能になります。是非、1日も早く実用化し、日産のEVの競争力を高めていきたいと考えています。

次に、もう1つの柱である知能化戦略について、ご説明いたします。

より安全なモビリティを、お客さま、社会に提供することは、私たち自動車会社にとって大きな使命です。ご存知の通り、日産は他社に先駆け、世界初となる運転支援技術を数多く投入してきたパイオニアです。

先進運転支援技術「プロパイロット」は、ニッサン、インフィニティの両ブランドをあわせて、すでに100万台以上のクルマに搭載されています。2026年までにはその数を250万台まで引き上げる計画です。

クルマの安全性をさらに高め、交通事故ゼロを目指すため、現在、日産は高性能な次世代LiDAR技術を活用した車両制御技術の開発に取り組んでいます。

日産はグローバルに最先端の技術を有する企業とパートナーシップを組み、本技術の開発を2020年代半ばまでに完了させ、順次、新型車へ搭載し、2030年までにほぼすべての新型車に搭載することを目指しています。

今年4月には、ご紹介した全固体電池と、次世代LiDAR技術を搭載した運転支援技術の開発状況を公開しました。メディアやアナリストの皆さんからは、いずれの技術も大変高い評価をいただき、非常に心強く思っています。

今後も「Nissan Ambition 2030」を実現するための主要な技術については、その開発状況を定期的に公開し、日産のビジョンが実現可能なものであること、計画が順調に進んでいることを示して行きたいと考えております。

また同時に、電動化、知能化技術を活用した、エネルギーマネジメントシステムの開発や、モビリティサービスの開発、EVエコシステムの構築など、社会の可能性を広げるための取り組みにも、引き続き、様々なパートナーの皆さまとともに、取り組んでいきます。

今年1月にルノー、三菱自動車とともに発表した「Alliance 2030」は、「Nissan Ambition 2030」の実現を大きく後押しするものです。

3社のEVラインナップは2030年に35車種となる計画ですが、そのうち90%が、共通プラットフォームを採用する予定です。さらにパワートレインの共用化も進め、アライアンスのスケールメリットを最大限生かすことで、ブランドの独自性を保ちながら、競争力の高い電気自動車を、計画的に投入していきます。

また、報道等を通してご存知かと思いますが、先月、ルノーのスナール会長とデメオCEOが来日され、様々な議論をしました。その中では、「Alliance 2030」に関するプロジェクトに加え、現在、ルノーが検討しているEV新会社の構想についても、詳細を伺いました。

日産はパートナーとして、何が一緒にできるのか。そして、何よりもそれは日産にどのような価値をもたらし、アライアンスの成長にどうつながるのか。今後、この点について、あらゆる視点から慎重に検討を重ね、日産としての最終的な結論を出したいと考えています。

自動車業界は今、100年に1度の変革期と言われています。ここから私たちが未来を切り拓いていく上で、アライアンスは競合他社にはない、大きな強みです。アライアンスをさらに発展させ、共通のアセットを最大限活用することが、メンバー各社の成長につながっていくと考えています。

アライアンスは今、次のステージへと向かおうとしています。そのあり方、進め方については、今後も様々なアイデアが出てくると思います。私は日産の社長として、自社の成長のために、あらゆる選択肢を排除せず、聖域を設けることなく、検討を進めていきたいと考えています。

これまで着実に進捗してきたNissan NEXTは、2023年度に最終年を迎えます。今年度も手綱を緩めることなく、取り組みをより一層強化することで、事業基盤をさらに強固なものとしていきます。

その上で、Ambition 2030を実現するための具体的な実行計画となる、次の中期経営計画の策定に着手していきます。これについては、然るべきタイミングで、皆さまにご説明したいと思っています。

株主の皆様におかれましては、引き続き、温かいご支援を賜りたく、よろしくお願いいたします。

 

以 上