スピーチ


2021年6月22日

第122回定時株主総会 事業報告
スピーチ原稿

内田CEO

それでは、初めにNissan NEXTの進捗についてご説明し、その後、2020年度の財務実績、2021年度通期の見通し、および、将来に向けた取り組みについてご報告いたします。そして最後に、本日の議題について、ご説明いたします。

事業構造改革「Nissan NEXT」は、着実に進捗しています。3つの重点課題に沿って、順にご説明いたします。

まず、最適化についてです。
生産能力では、二つの工場の閉鎖を決定したほか、生産体制の変更等を実施しました。
商品ラインナップをコアモデルに絞り込み、関連コストを下げる取り組みは計画通りに進んでいます。
販売マーケティングや、一般管理費についても、最適化を図り、コストを大きく削減しました。

その結果、固定費はこの2年間で当初の計画を上回る、3,500億円以上、削減できており、約440万台の販売で営業利益を確保することができるようになりました

続いて、選択と集中です。
長期的に利益ある成長を実現するため、2020年度は販売の質を各市場で大幅に改善しました。
魅力的な新型車や技術をご提案し、適正な値付けを行うことで、収益性が向上しています。

また、お客さまの購入意欲を引き出す販売戦略に変更したことで、在庫の適正化や、販売の質、営業活動によるキャッシュフローが向上しています。さらに、コロナ禍の新しい販売方法として力を入れているデジタル販売は、全体の販売台数の12%に達しています。

米国では、台当たりの販売価格を改善すると同時に、インセンティブを削減しました。昨年度、米国に投入した新型「ローグ」は大変好評を得ており、第4四半期の当社の市場占有率は5.8%に増加しました。

日本では、好調な「キックスe-POWER」、「ルークス」に加え、新型「ノートe-POWER」を投入し、市場占有率を11.4%まで伸ばしました。台当たりの販売価格も改善しています。 e-POWER搭載車の累計販売台数は50万台を超えました。また、新型「ノートe-POWER」を購入された約5割のお客さまが、運転支援技術「プロパイロット」をお選びになっています。

中国では、インセンティブを抑制しながら、市場占有率を伸ばしており、市場全体の実売価格が下落傾向にある中、当社は台当たり収益への影響を最小限に抑えています。今年度は、新型車の投入により、販売価格をさらに向上し、お客さまの期待にお応えしていきます。

欧州では、生産能力を最適化し、アライアンスのリソースを活用することで、固定費を大幅に削減しました。「ジューク」は販売台数、台あたりの販売価格がともに大きく改善しています。今後は、e-POWERを「キャシュカイ」や「エクストレイル」などの最量販モデルにも搭載し、電動化をさらに促進していきます。

Nissan NEXTでは、将来に向けて、様々な投資を行っています。18か月で12の新型車を投入する計画については、これまで既に11のモデルを発表しました。これらの新型車は、Nissan NEXTと、それ以降の成長を支えていきます。また、日産ならではの革新的な技術も続々と投入していきます。

今後も日産は、足元の業績回復と、将来に向けた土台作りのバランスを取りながら、改革を進めていきます。

続いて、2020年度の財務実績についてご報告いたします。

2020年度の当社のグローバル販売台数は、405万2000台となり、前回予測を0.9%上回りました。
新型コロナウイルスの感染拡大、半導体の供給不足等、数々の逆風にもかかわらず、第4四半期の台数は、第3四半期から大幅に増加しました。

米国の「ローグ」、国内の「ノート」、インドの「マグナイト」をはじめとする新型車と、欧州の「ジューク」や、中国の「シルフィ」といった、好調な現行車が販売増をけん引しました。

次に主な財務指標ですが、これまでと同様、中国合弁会社に持分法を適用した数値でご説明いたします。

2020年度通期の連結売上高は7.9兆円、連結営業損失は1,507億円、当期純損失は4,487億円となりました。売上高と営業利益が前年より悪化しているのは、特に第1四半期において、新型コロナウイルスの影響により、販売台数が減少したためです。

一方、販売の質を大きく向上させ、台あたりの収益を改善しながら、販売奨励金や在庫の削減を推進した結果、四半期ごとに損益の改善が進み、営業損失は前年同期に対し、大きく縮小しました。

当初に設定した通期見通しは、コロナ禍で不透明な経営環境ということもあり、4,700億円の営業損失を見込んでおりましたが、最終的に3分の1以下となる1,507億円まで圧縮することができました。

また、第3四半期3ヵ月で、今年度の目標である比例連結ベースの営業利益率2%レベルを達成し、私たちのポテンシャルを示すことができました。

さらに、事業資金についても、当社は引き続き、高い流動性を確保しておりますので、ご安心ください。

2020年度の期末配当ですが、当該年度の自動車事業フリーキャッシュフローが引き続きマイナスであったことに加え、当社を取り巻く経営環境及び、持続可能な成長へ向けた投資の必要性に鑑み、見送りとさせていただきました。
このようなご報告となり、株主の皆さまには、大変申し訳なく存じますが、将来への投資を減速させないこと、そして事業を抜本的に改革し、その先の着実な成長によって、企業価値の向上を実現するため、何卒ご理解賜りますよう、お願い申し上げます。
次に、2021年度の見通しについてご説明いたします。

今年度の自動車市場は、半導体供給不足の影響を受け、不透明な状況が続いています。当社も例外ではなく、現時点で年間の販売台数を正確に見通すことは難しい状況ですが、グローバル販売台数は、前年度比8.6%増の440万台を見込んでいます。

これを踏まえ、売上高は9兆1,000億円、営業利益は「プラスマイナス ゼロ」、当期純損失は600億円と見込んでいます。厳しい状況においても、将来に向けて、必要な研究開発や設備投資は積極的に行ってまいります。

営業利益を押し下げる要因は、為替と、規制対応及び、商品性向上のコストなどの外部要因です。一方で、販売やモノづくりのパフォーマンスを改善することで、約5,500億円の増益を見込んでいます。そこから約1,500億円の新車への投資を見込んでいますが、これはNissan NEXTの達成と、その先の成長に向けた必要な投資であると考えています。

今年度は、半導体の供給不足や、原材料価格の高騰といった、大きなビジネスリスクがなければ、Nissan NEXTで掲げた、中国合弁会社を含めた、比例連結ベースの営業利益率2%を上回ることができる見通しですが、5月の決算発表の段階では、足元の状況がまだ不透明な部分が多く、ビジネスリスクを鑑みて、営業利益の見通しを「プラスマイナス ゼロ」といたしました。しかし、すでに回復の兆しは見え始めています。4月、5月の実績を見ますと、昨年度から取り組みの成果が十分に出ており、計画を上回る内容で推移しています。

昨年度投入した新型車の販売は引き続き好調で、お客さまに私たちの商品・技術の価値を十分に理解していただいた結果、収益・ブランド力の向上に大きく貢献しています。 アメリカではコロナワクチンの接種が進んでいることもあり、全体需要が高まっております。

半導体については、市場の状況をふまえて、生産車種の調整などを実施し、工場の稼働率低下をできるだけ抑制しています。また、減産分を年度内に1台でも多く取り戻すための準備や、安定的に部品を確保するための対策も並行して進め、ご注文いただいたお客さま及び、収益への影響を最小限に抑えています。

現在の勢いを今後も維持し、ビジネスリスクに対しては、対策を迅速かつタイムリーに打ち、社員一丸となってNissan NEXTを推進することで、3年連続の最終赤字を、何としてでも回避したいと考えております。

今年度は、新型クロスオーバーEVの「アリア」や、日産DNAの象徴である「フェアレディZ」、そしてインフィニティ「QX60」など、日産らしさにあふれる新型車を次々と市場に投入します。
そして、「アリア」を皮切りに、日産にしかつくれない電動車両を継続的に投入することで、日産の企業価値を高め、収益力とブランド力を向上させていきます。

「アリア」については、購入に強い関心を持たれているお客さまが、現時点で約20万人いらっしゃいます。今月、日本で予約注文の受付を開始しましたが、すでに4000台を超える予約注文をいただき、大変好調なスタートとなっています。さらに、三菱自動車との共同プロジェクトとして、NMKVで企画・開発している軽のEVは、今後他社に先駆け、国内市場に投入します。 

「e-POWER」については、今年度より中国、欧州への導入を開始し、日本での成功をグローバルへと広げていきます。
こうした取り組みにより、Nissan NEXTの今年度の目標達成に一歩でも近づけるとともに、2023年度の営業利益率5%の達成への道筋を、しっかりと描いていきたいと思っています。

昨年の総会では、ステークホルダーの皆さまとの信頼回復の重要性について、ご指摘を頂きました。
その言葉を胸に刻み、私たちはこの1年、従業員はもちろんのこと、ビジネスパートナーである販売会社やサプライヤーの皆さまとも対話を重ねてまいりました。信頼回復は決して一朝一夕に実現できるものではないことは十分に理解しておりますが、様々な調査から、いずれも回復の傾向が見られるようになってきました。

私たちの使命は、引き続き、ステークホルダーの皆さまとの関係を強化するとともに、健全な収益性とキャッシュフローのもと、株主利益の向上に取り組んでいくことです。利益ある事業の成長を実現することで、できる限り早期に復配することを目指します。

以上が、Nissan NEXTの進捗と、2020年度の業績および2021年度の見通しです。 次に、将来に向けた取り組みについて、少しお話させていただきたいと思います。

自動車業界は、100年に1度の変革期を迎えていると言われています。
気候変動への対応や、カーボンニュートラル社会に向けたテクノロジーの革新、高齢化社会やコロナ禍がもたらす、社会やお客さまニーズの多様化など、特にこの数年は、世の中が大きく変化しています。

これまで経験したことのない、先行き不透明な状況においては、将来に向けて、持続可能な成長を支える長期ビジョンをしっかりと描き、事業運営を行っていくことが重要です。一方で過去を振り返ると、短期的な収益確保を優先した結果、社会の変化に柔軟に対応できていなかったことがあったと感じています。

その反省を踏まえ、私たちはこの先10年、そして更にその先を見据えた長期ビジョンと、その実現に向けたロードマップを明確に打ち出していきます。

その前提になるのは、コーポレートパーパスです。「人々の生活を豊かに、イノベーションをドライブし続ける」、私たちは、このように日産パーパスを定義しました。日産は常に、「他がやらぬことをやる」という創業以来の精神のもと、革新的な商品・サービスを通して、お客さまの生活や社会に新しい価値を提供してきました。それこそが日産らしさであり、私たちの社会における存在意義であると考えています。

長期ビジョンの中身については、現在議論を進めている段階のため、今日この場で詳しくお話することはできませんが、日産の強みである電動化や、自動運転の技術がその大きな柱の1つとなります。

日産は、長きにわたって排出ガスゼロ、死亡事故ゼロの社会の実現を目指し、電動化と自動運転の技術開発を行ってきました。数々の新技術、新商品を開発する過程で、他社では持ちえない、日産独自の高度なノウハウを培ってきました。これまで、苦しい時期にも絶やすことなく積み上げてきたものが、これから大きな実を結んでいきます。

そして、絶えず変化する自動車業界において優位性を保つため、アライアンスを最大限活用し、志を同じくするパートナーとの協業も広げていきます。

電動化の推進に関しては、2030年早期より、主要市場の新型車をすべて電動車両としていきます。

将来に向けては、さらなる技術革新に取り組みます。希少金属であるコバルトを使わないバッテリーや、全固体電池など、革新的なバッテリー技術を開発し、次世代「e-POWER」に採用する発電専用エンジンでは、世界最高レベルの熱効率50%を実現します。

アライアンスでは、EVの部品の規格を統一し、バッテリーやモーター、車台など、基幹部品の約7割を共通化していくことで、スケールメリットの拡大と技術競争力の向上を図ります。

そして、こうした高度な電動車両を生産する「ニッサン インテリジェント ファクトリー」を、今年、初めて栃木工場に導入し、「アリア」の生産を開始します。

日産はまた、従来の枠を超え、クルマで培った技術で実社会に貢献していきます。 例えば、EVを活用して、地域の課題解決を図る「ブルー・スイッチ」の取り組みは、日本国内ですでに130件を超えています。福島県では、EVモビリティサービスを含む、未来のまちづくりを、地元の方々と一緒に進めています。

バッテリーを中心に据えたエコシステムでは、EVを動く蓄電池として活用し、使用済みバッテリーは4Rエナジーを通して2次利用します。これらのバッテリーに再生可能エネルギーを組み合わせ、エネルギーセクターとの連携もより一層強化していきます。

こうした、クルマを超えた価値を創造する、日産だからこそできる取り組みを、今後より一層、推進していきます。

以上、現在議論を進めている長期ビジョンの考え方の一部についてお話させていただきましたが、何と言っても、まずはNissan NEXTを計画通り最後までやりきることが重要です。

来月、第1四半期決算の発表の場で、4月から6月までの実績及び、最新状況を踏まえ、足元の業績回復に目途をつけ、議論を進めている長期ビジョンについても、本年秋を目途に、発表したいと考えています。

すでに、こうしたビジョンの実現に向けた変化は、会社の中で起きています。起こしているのは人の力です。
世界中の従業員が、やる気になっています。一人ひとりが情熱を持って、改革に取り組んでいます。
その結果、日産を見る、お客さまの目が変わってきていると感じています。

繰り返し申し上げますが、日産の財産は人です。日産は何度も、人の力で困難を乗り越えてきました。
私たち経営層が先頭に立ち、一人ひとりの力を結集することで、想像を超える大きなパワーを生み出します。
私たちは、「輝く日産」を必ず取り戻します。
株主の皆様におかれましては、引き続き、温かいご支援を賜りたく、よろしくお願いいたします。

 

以 上