スピーチ


2020年6月29日

第121回定時株主総会 事業報告
スピーチ原稿

内田CEO

それでは、まず2019年度の業績をご説明し、その後、当社の業績回復に向けた取り組みと本日の議題について、ご説明させていただきます。

2019年度のグローバル全体需要は、中国市場の減速や、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、前年比6.9%減の8,573万台となりました。

そうした中で、当社の販売台数は、中国において全体需要を上回る販売を達成したものの、第4四半期の大幅な全体需要の低迷に加え、北米と欧州を中心とした販売減が響き、前年比10.6%減の493万台にとどまりました。

次に主な財務指標ですが、これまでと同様、中国合弁会社に持分法を適用したベースでの数値でご説明します。

2019年度通期の連結売上高は9兆8,790億円に減少し、営業損失は405億円、当期純損失は6,712億円となりました。

為替変動、規制対応及び商品性向上コスト、ならびに原材料価格の高騰を含む外部要因が自動車業界全体の収益を圧迫していることに加え、当社固有の問題として、商品高齢化の是正や販売正常化の取り組みが、まだ十分な収益貢献に至っておらず、販売台数の減少が収益を圧迫しました。

また、グローバルでの販売減に加え、当社は収益性の改善と持続可能な成長に向けた事業改革を遂行していくため、総額6,030億円の構造改革費用と減損損失を計上しました。

自動車事業のフリーキャッシュフローはマイナス6,410億円と悪化していますが、資金は健全な水準を維持しており、危機に対応するために十分な資金を保有しています。2020年3月末の自動車事業の手元資金は1兆4,950億円で、自動車事業のネットキャッシュは1兆650億円でした。これに加えて、約1兆3,000億円の未使用のコミットメント・ラインを維持し、更に、7,126億円にのぼる資金調達を実行しました。

次に、2020年度の見通しについてですが、グローバル全体需要は、新型コロナウイルスの影響を受け、前年に対し15%から20%減少すると見込んでいますが、先行きは極めて不透明な状況です。現時点では2020年度の通期の業績予想を合理的に算定することは非常に困難であり、算定が可能となった時点で開示したいと考えています。

2019年度の期末配当ですが、当該年度のフリーキャッシュフローや足元の資金の状況、今年度の収益やフリーキャッシュフローの見通し、及び競争力の強化に向けた将来への投資の必要性等を鑑み、見送りとさせていただきました。
このようなご報告となり、株主の皆さまには、大変申し訳なく存じますが、将来への投資を減速させないこと、そして事業を抜本的に改革し、その先の着実な成長によって、企業価値の向上を実現するため、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

なお、今回このような結果となりましたことを、大変重く受け止めております。
配当を見送ることでご迷惑をおかけする株主の皆様、そして新型コロナウイルス感染拡大による臨時休業等で苦労をかけている従業員と痛みを分かち合うため、役員報酬に関して報酬委員会の承認を得て、減額及び辞退させていただくことといたしました。

引き続きまして、当社が取り組む事業構造改革「NISSAN NEXT」について、ご説明いたします。

当社は日産パワー88以降、需要の増大を前提に、新興市場を中心とした事業規模の拡大による成長戦略をとってきました。
しかしながら、その際に色々まいた種を充分育てられず、結果として刈り取りができませんでした。更にその大きな投資の影響により、日本をはじめとする、主力市場へ新商品が投入できない、という事態を招きました。
2年ほど前から、このような拡大路線からの転換を図ってきましたが、足元で抱える700万台規模の門構えに対し、販売は500万台を割る状況となり、この状態で事業を継続して利益を出していくことは、到底困難と言わざるを得ません。

この状況から脱却するために、当社がこれまで十分向き合ってこなかった失敗を認め、正しい軌道へと修正すること、回収が十分に見込めない余剰資産の整理を実行すること、そして「選択と集中」を徹底し、コアマーケットやコアセグメントに持続的にリソースを投入すること、これらを一切の妥協なく断行してまいります。

今回の計画のポイントは3つです。

  • 過度な販売台数の拡大は狙わず、収益を確保した着実な成長を果たすこと
  • 自社の強みに集中し、事業の質、財務基盤の強化をすること
  • そして新しい時代の中で、「日産らしさ」を取り戻すこと

これにまず注力をし、2023年度末までの4か年で、その先10年を戦っていくための十分な体制を再構築してまいります。

「NISSAN NEXT」では、2つの重点分野に注力していきます。

一つ目は事業規模の「最適化」です。

まず、回収が十分に見込めない事業、及び余剰設備を整理し、事業の構造改革を断行します。そのために、

  • 生産能力の最適化
  • グローバルな商品ラインアップの効率化
  • さらに、その他経費等を最適化することで、大幅な固定費を削減します。

 
二つ目は「選択と集中」です。

集中する領域においては、しっかりとしたマネジメントのもとで投資を行い、確実なリカバリーと着実な成長を果たします。

まず、「最適化」の取り組みについて、ご説明します。

生産能力は、現状の販売レベルを踏まえ、2018年度の720万台規模から20%削減し、通常シフトで年間540万台体制とします。
具体的には、当社のインドネシア工場を閉鎖します。
また、バルセロナの工場については、閉鎖にむけて協議と準備を進めていくこととしました。

次に商品ラインアップについては、コアモデルに絞り込み、リソースを集中することで、より価値が高く、競争力ある商品を開発してまいります。また、商品のライフサイクルについても、車齢を4年以下にし、ラインナップの刷新を図ります。
具体的には、2023年度末までに、車齢の長い乗用車とトラック、地域専用となっているモデルやロシアにおけるダットサンなどを打ち切り、18年度と比較してラインアップの車種数を69モデルから20%削減し、55モデル以下の競争力の高いラインアップに切り替えていきます。

さらに、一般管理費を15%削減することなどによって、当社のコストベースを格段に改善させ、約3000億円の固定費を削減し、そのレベルを維持していきます。

次に選択と集中です。
マーケット、商品、技術の3つの領域で「選択と集中」を進めます。

まず、マーケットについては、日本、中国およびメキシコを含む北米を当社のコアマーケットとして、経営資源を集中し、健全な事業運営を実現してまいります。

一方で、その他地域については、アライアンスのアセットも最大限活用しながら、適正な規模での事業展開を図っていきます。

また、当社にとってビジネス・チャンスが限られている韓国からは撤退します。

ホームマーケットである国内市場には改めて力を入れます。

国内にはこれまで培ってきた日産の基盤があります。こうした大切なお客さまに向け、実用性の高い先進技術とその価値に目を向け、より魅力のある商品を拡充してまいります。

e-POWERやプロパイロット搭載車両は、90%以上のお客さまにご満足いただいており、当社は電動化と自動運転技術を基軸にして、引き続きブランドの向上と、マーケットシェアの回復を目指します。

まず、その第一弾として、先週水曜日に新型キックスe-POWERを発表しました。発売は明日30日を予定しており、日本でのブランド向上や販売増に大きく貢献してくれるものと期待しています。

また、来月15日には、新型クロスオーバーEV「アリア」のワールドプレミアを行います。「アリア」に搭載される技術のハイライトは電動化と、将来の自動運転に繋がる先進運転支援技術の融合です。先進運転支援技術「プロパイロット2.0」や最新のeパワートレインを搭載した「アリア」は、ホームマーケットであるこの日本を皮切りにグローバルに投入し、まさに新しい時代の日産の「顔」として、ブランドをけん引する重要な役割を担います。

世界最大の自動車市場である中国ですが、日産は強いプレゼンスを誇り、健全な事業運営を続けています。
中国は、将来の更なる成長や繁栄が期待されており、当社は、ニッサン・インテリジェント・モビリティの戦略のもと、同市場に7車種の電気自動車をラインアップとして揃え、e-POWER を搭載した主力商品を投入していきます。

米国において当社は、この 2 年、フリートから個人のお客さまに重点をおき、販売正常化の取り組みを進めてまいりました。回復には、当初の想定より大幅に時間を要しておりますが、焦ることなく、そのリカバリーに向け、固定費の削減や、商品計画の見直し等、もう一段の合理化を進めています。

これまで、米国においては、販売正常化の取り組みを進めてきておりますが、新昨年発売した「セントラ」 でその成果が出始めています。

また、今月15日には、米国でもっとも売れているSUVである「ローグ」の新型を発表しました。発売は今年の秋を予定しています。

この新型「ローグ」を皮切りに、いよいよ新車攻勢が始まります。「パスファインダー」、「QX60」、「フ ロンティア」をはじめ、SUV とピックアップトラックについても、商品力を強化していきます。

ここからは、より積極的な攻めの戦略について、ご説明いたします。

当社は今後18か月の間に少なくとも12の新型車を投入する予定です。日産の強みである電動化技術や先進運転支援技術の採用を拡大し、ラインナップの刷新と強化を図っていきます。

当社は新型の電気自動車2車種をラインアップに追加し、中計期間中に8車種を超える100%電気自動車を投入します。

また、電動化のもう一つの柱であるe-POWERは、グローバル市場に拡大し、その結果、2023年度までに電動化比率を日本では60%、中国では23%、ヨーロッパでは50%に引き上げ、100万台以上の電動化技術搭載車の販売を見込んでいます。

先進運転支援技術においては、スカイラインに世界初のハンズオフ機能をもったプロパイロット2.0を搭載するなど、商品展開と技術の完成度において当社は業界をリードしています。

プロパイロット搭載車は、これまでに約70万台を販売しており、2023年度末までには20の市場、20を超える商品に適用することで、プロパイロット搭載車の年間販売台数は150万台を超える見込みです。

ここまで、事業構造改革、そして選択と集中による着実な業績のリカバリーに向けた取り組みの概要をご説明してまいりました。

ある一定の経済環境や市場環境が前提となりますが、今後2年間で、戦略的対策の実行を完了することで、まず自動車事業のフリーキャッシュフローを健全なレベルにまで持っていきます。そして、2023年度末には、中国の合弁会社を50%比例連結したベースで、マーケットシェア6%、営業利益率5%をボトムラインとして回復できるとみています。

その先の10年を戦うための事業基盤を再構築していくため、妥協せず覚悟を持って取り組む所存です。

以上が事業構造改革「Nissan NEXT」の概要ですが、当社は、昨年6月の定時株主総会で株主の皆様のご承認をいただき、指名委員会等設置会社へ移行いたしました。明確な形で執行と監督・監査を分離することにより、意思決定の透明性を向上するとともに、迅速かつ機動的な業務執行を実行し、業績回復と合わせ、信頼回復に向けて取り組んで参ります。

最後に、私自身の決意を、お話しさせていただきたいと思います。

この数か月間、世界中の人々が従来とは異なるライフスタイルを余儀なくされています。改めて、よりクリーンで、より安全なモビリティを通じて「人々の生活を豊かに」し、社会の活力になることが、日産の長期的な使命であることを実感しました。

お客さまに常に新たな価値を創造し、ご提案する。そのためにチャレンジし、ブレークスルーを果たす。これこそが、私たち日産のDNAだと思っています。

繰り返しになりますが、私は日産を必ず成長軌道に戻します。

道のりは決して平坦なものではありません。しかし、日産には何よりも、素晴らしい従業員たちがいます。一人ひとりの力を結集し、この危機を乗り越えていきたいと思っています。

私は日産自動車が、日産らしさを発揮する会社であり続けたいと思っています。日産は、常に「人」を中心に見据え、「人」のための商品、技術やサービスを追求してまいりました。

電動化も、決して環境のためだけではありません。

日産の技術、商品には「楽しさ」があります。その一つが新しいドライビング・エクスペリエンスを提供するe-POWERでありますし、来月発表する新型「アリア」にも運転する楽しさ、「人」をワクワクさせる魅力があります。
自動運転も、「人」のための技術です。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、私たちのライフスタイルは一変しました。また、自動車業界も大きな転換点を迎えています。このような新しい時代、新しい生活様式の中でも、日産は常に「人々の生活を豊かに」するために、日産ならではの挑戦を続けてまいります。

株主の皆様におかれましては、何卒、暖かいご支援を賜れば幸いでございます。

 

以 上