スピーチ


2019年5月14日

2018年度決算発表
日産自動車株式会社
社長兼CEO 西川 廣人

本日は、2018年度の販売実績と決算の状況、及び今年度の見通し、及び当社が取り組みを開始した事業構造改革New Nissan Transformationのアウトラインに関してご説明致します。

2018年度は、売上高11兆5,700億円、営業利益3,182億円、当期純利益3,191億円となりました。自動車事業のフリーキャッシュフローは1,911億円、2018年度末の自動車事業のネットキャッシュポジションは1兆6,000億円でした。

まず2018年度の販売実績についてご説明致します。
当社のグローバル販売台数は、全需の減少にともない前年比4.4%減の、551万6千台となりました。
日本、中国、中南米、タイ・フィリピンといった地域では台数を伸ばし、その一方で、米国や欧州における減少が響き、グローバル市場占有率は、0.2ポイント減の、6.0%となりました。日本と中国は、2018年度の販売台数を順調に伸ばすことができました。日本においては、e-POWERが高く評価されている「ノート」が2018年度国内登録車販売台数ランキングで1位となり、更に「セレナ」もミニバンセグメント販売ランキング1位となりました。中国では、全体需要が縮小する厳しい市場環境の中、当社の販売台数は2.9%増となり、市場占有率も0.3ポイント増の5.9%に達しました。北米と欧州に関しては、北米は販売の正常化の取り組み、欧州は環境規制対応の影響により、販売台数が大きく減少する厳しい結果となりました。

次に2018年度の財務実績についてです。
連結売上高は11兆5,700億円です。連結営業利益は3,182億円、売上高営業利益率は2.7%でした。
経常利益は5,465億円となりました。当期純利益は3,191億円、売上高純利益率は2.8%となりました。前年度の当期純利益には米国における税制改革による影響が含まれていることもあり、大きな減少となりました。

次に営業利益の増減要因です。
為替、欧州を中心とした環境規制の厳格化と商品性向上の必要性、原材料価格の上昇等により2,100億円の減益要因となりました。また、販売台数が減少したことによる減益を、モノづくりの増益で相殺することができなかったほか、米国におけるCVTの保証期間延長に伴う費用計上の影響などにより減益となりました。

そして、中国合弁会社比例連結ベースの2018年度の財務実績は次のとおりです。
連結売上高は12兆9,687億円でした。連結営業利益は4,932億円、売上高営業利益率は3.8%となりました。当期純利益は3,191億円でした。自動車事業のフリーキャッシュフローは2,800億円でした。自動車事業のネットキャッシュポジションは1兆9,000億円となりました。

次に、今年度の見通しです。
2019年度のグローバル販売台数は0.4%増の554万台の微増を見込んでいます。日本、中国、その他市場で販売を伸ばす見通しですが、北米と欧州においては引き続き厳しい状況が続くと想定しています。2018年度と2019年度を底として反転をしたいと思います。販売見通しをベースにした2019年度の業績見通しは、売上高は前年比2.4%減の11兆3,000億円、営業利益は前年比27.7%減の2,300億円、当期利益は46.7%減の1,700億円を見込んでおります。事業改革のコストの負担により、当期利益も大きく減少する見通しです。非常に厳しい状況ではありますが、競争力の回復に向けた投資は必要不可欠であり、新商品の投入にかかるコストやCASEなどの先進技術への投資を含む設備投資や研究開発費は増加させていく計画です。

次に2019年度の営業利益増減分析ですが、為替や規制対応コストを含めた商品性向上、原材料価格の上昇が大きく影響する見通しであり、これらが2,000億円の減益要因になります。一方、会社のパフォーマンス改善で1,120億円の増益を見込んでいます。これは、台数構成や研究開発・生産費用等、今後の新車などの生産コストは減益要因となるものの、その減益要因を購買コストやインセンティブの削減などで相殺して1,120億円の増益となります。その結果、営業利益2,300億円となります。

次に、2018年度の配当ですが、当社取締役会は期末配当として28.5円を提案いたします。
昨年11月にお支払いした中間配当28.5円と合わせ、通期では当初の予定どおり、57円をお支払いする予定です。
2019年度に関しましては、厳しい外部環境やビジネスの状況、競争力の回復に向けた投資、手元資金の状況などを考慮し、1株あたりの配当金を40円とさせて頂きたいと考えています。一日も早く事業を立て直し、業績の回復に従い適正かつ魅力的な株主還元を実現できるよう、これからご説明する事業構造改革New Nissan Transformation の取り組みを着実に実行します。

次に、事業構造改革New Nissan Transformationについてご説明致します。
事業構造改革New Nissan Transformationには「ガバナンス改革」、「組織改革」、「事業改革」の3つの柱があります。

一つ目は、当社の最優先課題の一つであるガバナンス改善の取り組みです。
2018年12月に外部の独立した専門家を中心とする「ガバナンス改善特別委員会」を設置して、同委員会より頂いた提案を踏まえて指名委員会等設置会社への移行に向けた準備を進めています。取締役会において6月に指名委員会等設置会社への移行を目指す事や独立社外取締役が取締役会議長をする事、そしてガバナンスに関するコーポレートガイドラインを制定する事を決定しております。また、ガバナンス改善特別委員会より頂いた38の提言項目については、それぞれ定款やコーポレートガイドライン、そして取締役規則や委員会規則などに織り込んで実行に移す準備を進めています。また、CEOリザーブの廃止やCEOオフィス機能の解体と必要な組織の再構築など、準備ができている件は既に実行に移しております。今後は、「暫定指名・報酬諮問委員会」から取締役候補者のご提案を頂き、取締役会で審議を行い、6月開催予定の定時株主総会でご承認を頂いたのち、新しいガバナンス体制のもとでの経営執行を開始する予定です。短期間での移行であり大変チャレンジングでありますが、当社のガバナンス元年としてやらなければやらない変革であります。

次に、当社は5月16日付で経営会議の体制を刷新します。
まず新たにCOO(最高執行責任者)及び副COO(副最高執行責任者)を置き、業務運営の強化を図ります。
また、グローバル事業において影響の大きい地域(日本、北米、中国)を統括する役員を当社の最高意思決定機関であるエグゼクティブ・コミッティ(EC)のメンバーに加えました。また、自動車業界が大きな変革期を迎える中、事業のトランスフォーメーションを加速させるために、専任の役員を任命してエグゼクティブ・コミッティ(EC)のメンバーに加えました。また、ガバナンスでは、新たに川口さんを副社長に任命して進めています。この新しい経営体制のもと、各地域事業とグローバル機能の連携強化を図り全社一丸となって業務執行を推進してまいります。

次に、事業改革について説明します。
当社の業績は厳しい状況にあります。当社の中期計画の利益ポートフォリオとして、主要3地域、アメリカ、日本、中国では、10%台の営業利益率を確保し、その他成長過程にある地域については5%の利益率まで成長させて、これで8%台の収益性を確保する事を狙っておりました。2016年度の地域別営業利益率は主要3地域は、健全な収益レベルにありました。

右側のグラフが2018年度の状況でありますが、2018年度はグローバル営業利益率が6.9%から3.8%に落ち込みました。これは北米事業の採算が大きく悪化してしまった状況です。一方、日本や中国は引き続き健全なレベルを維持しています。米国では、販売台数の拡大を狙うために販売インセンティブを多用したプッシュセールスを行っていました。その後、全需がピークアウトして他社もインセンティブを増やすなどして競争環境が厳しくなり、それまで多額のインセンティブに頼った販売を行っていた当社は、相対的に競争力を失って小売販売が減少したことによります。それを補填するため、フリート販売を増やし、更に採算を悪化させたうえ、ブランドと商品の価値を棄損する結果となりました。一度大きく棄損してしまった価値、販売会社との関係を含め、これを回復させるには時間がかかると認識をしております。

また、「Nissan Power 88」の拡大戦略の中、未だに台数の拡大も収益も上げていない新興国向けの小型車投資などの余剰生産能力や不採算事業の財務上の負担が非常に大きくなっています。このような状況下ですが、中期計画期間である2022年の先のCASEなどの技術革新やそれに伴う市場や事業の変革へ向けた事業体質の強化が待ったなしであり、収益状況の改善や選択と集中による改革を加速させる必要があり、中期計画後半の最重要課題として実施する事を決めて取り組みを開始してます。

改革のポイントは、3つあります。

  • 米国事業のリカバリー
  • 事業及び投資効率を適正化すること、選択と集中、です。
  • 新商品、新技術、ニッサン インテリジェント モビリティをベースとした着実な成長、

過去の無理な拡大の結果や台数をプッシュする習慣が残ってます。
一言でいえば、コスト構造や生産体制などの外科的手術は足早に行いますが、販売の拡大や米国販売の回復についてはニッサン インテリジェント モビリティの戦略を徹底してブランドの魅力度を上げながら、着実な成長をめざすスタンスで進めていきます。90年代やNRP(日産リバイバルプラン)と異なるのは、中国や日本市場などの堅調な柱になる事業があること、そして財務体質は健全なので、今思い切ったアクションを取ることが重要だと思っています。

まず米国のリカバリーですが、2014年度以降、車齢が業界平均より上がる中で、マーケットシェア拡大を狙うためにインセンティブによる値引き販売が増えました。一方、ブランドのover all opinion (ブランドの好感度)が上がっておらず、お客さまは商品とブランドの価値ではなく値引きでお買い求め頂いてました。車齢がここまで高くなってしまったのは、過去の新興国への量的な拡大のための大きな投資が狙い通り回収ができず、当面の利益確保のために2014年ごろから新車の開発費を抑制して新車投入を遅らせた反動であります。今年度以降は今まで開発してきた商品が出てまいります。車齢が改善する事に加えて「ニッサン インテリジェント モビリティ」の戦略のもと、お客さまに価値を認めて頂ける先進技術を詰め込んだ新車が出てまいります。先進技術やお客さまへの価値を高めて、ブランドの好感度を上げ、着実に小売販売を伸ばしていく計画であります。着実な成長やニッサン インテリジェント モビリティの戦略の強化のもと、販売台数やシェアはストレッチさせず、新車や新技術で魅力度を上げて、台あたりの売上高と利益を確保する計画です。そして、販売台数を140万台まで緩やかに戻すことをターゲットにしています。販売の大半を占めるフリートを減らしながら進めることで、純粋な小売りが増えていくとご理解ください。フリートの販売比率は15%を目指しています。そして、2022年度に向けて、プッシュセールスによる利益の確保ではなく、健全で持続可能な利益率を改善していく計画です。時間のかかる取り組みであり、今日や明日で結果が出るわけではありません。米国の販売チームやネットワークではなく、過去のマーケットシェアに重きを置いた目標がこの事態を招いた事であり、米国のチームも一生懸命仕事をしております。是非、お時間を頂き、着実に回復させていきたい、と考えています。

次に、事業と投資効率の改善です。
投資に対して狙い通りに台数が成長を果たせなかったことで、余剰の生産キャパシティを抱えています。この肥大化してしまった部分や効率が落ちている部分を抜本的に改革します。生産効率の向上や余剰キャパシティ削減とも、1割をターゲットに取り組んでおり、既に実行に移してる活動を含めますと、4,800人と470億円かかり、年間投資の効果は300億円になります。次に、将来に向けて選択と集中するため、採算性の悪い商品ラインアップやセグメントを中心に10%の効率化を図ります。戦略的な選択をおこない、現在採算が悪くとも将来に向けて維持・拡大すべきものについては積極的に投資をしていくことです。当社の強みではない地域や車種群については、win-win-winである事を前提に、アライアンスパートナーとの協力やアセットを相互活用することにより効率向上を図ります。これらの取り組みは将来の成長の基盤として、現在は前倒しを前提に実行計画をアップデートしています。7月には具体的な計画にまとめたいと思っています。

戦略的に集中する領域には、引き続き積極的に投資をしてまいります。そしてCASEと言われる技術変革に対応して、実用化して市場展開を先行する方針は変わらず、最優先事項として進めてまいります。商品については、これまで開発をしてきたコアモデルが、今年度以降順次市場に出てまいります。2022年度までに、グローバル戦略車全てにあたる20車種以上の新型車を投入します。

次に電動化の領域です。これら、モータードライブのクルマは、「日産リーフ」やePOWERを搭載した「ノート」や「セレナ」がお客さまから好評を頂いております。モータードライブのこれまでにないドライビングフィールやワンペダル操作などは環境や燃費だけではなく、新しいクルマ価値としてご好評頂いています。日本とヨーロッパでは半分以上をモータードライブに変えていきます。グローバルでは3割程度にしていきます。今のEVやe-POWERに加えて、さらにアプリケーションを拡大します。フロントとリアに大容量のモーターを加えたハイパフォーマンスな四輪駆動も22年に向けて計画しています。

次に、自動運転技術の分野では、ニッサン インテリジェント モビリティを具現化した運転支援技術「プロパイロット」を「セレナ」を皮切りに「日産リーフ」、「エクストレイル」、「ローグ」、「キャシュカイ」や「新型デイズ」などに搭載しており、グローバルにおけるプロパイロット搭載車の累計販売台数が約35万台となりました。日産は今後もプロパイロット技術の拡大を続け、2022年度にはプロパイロット技術を搭載した車を20市場に20モデル投入して年間100万台まで拡大していく予定です。また、この技術はさらに進化を続けます。複数車線における運転支援技術「プロパイロット2.0」を世界に先駆け日本において新型スカイラインに搭載し、まもなく発表する予定です。モータードライブや自動運転技術の価値をより多くのお客さまの手にお届けします。準備はできており、CASE時代に「技術の日産」のDNAを進化させた「ニッサン インテリジェント モビリティ」を認めて頂けるように取り組んでまいります。「ニッサン インテリジェント モビリティ」を軸に、販売の質も無理な値引きをして買って頂くのではなく、買いに来て頂けるような状態を作り出す取り組みを重ねていきます。

次に、中期の見通しです。
既に計画している事業の成長や今回ご説明した取り組みを合わせて、TRANSFORMATION PLANとして、2022年度までに5000億円規模の利益改善を狙います。これは約3,000億円の投資効率化であり、約2,000億円がニッサン インテリジェント モビリティを軸とした成長による改善です。従来から6年の中期計画の後半は見直しが必須と申し上げてきましたが、売上高は従来の16.5兆円から14.5兆円程度に下がり、営業利益率は8%から6%への大幅な見直しとなります。前会長の下で進めてきた台数規模の拡大に向けた投資、販売面での台数プッシュの問題など、過去からの問題をここで徹底的に整理します。そして、この規模拡大路線から、よりサステイナブルな成長路線への変換を目指します。米国事業のリカバリーや事業及び投資効率を適正化、新商品、新技術、ニッサン インテリジェント モビリティを軸にした着実な成長を進めていきます。本日は22年度までの取り組みの骨子をご説明しました。特に、事業や投資効率の適正化は足早に進めており、21年度には22年度に近い状態を目指します。そしてCASEや将来への技術チャレンジは緩めないように進めてまいります。7月を目途により具体的な実行内容とアップデートをご報告します。

最後に、日産は想定外の出来事から抜け出して、将来へ向けてスタートを切ったところでございます。
日産は、課題は山積みですが、業績低迷からの脱却が最優先課題です。不正事件が発生して以降、ルノーとの関係などの諸問題により事業面に集中できない期間がありました。従業員の皆さま、お客さま、そしてお取引先さまに多大な不安を与えてしまい大変申し訳ありません。結果はこの事業結果にも現れています。本日ご説明した課題の多くは元体制から受け継いだ負の遺産です。不正事件が発生して以来、動揺の中で本来打つべき施策が遅れていますが、一刻も早い挽回を進めてまいります。お客さま、そして株主の皆さま、関係者の皆さまに多大なるご心配をおかけし、大変申し訳ございません。そして減配となりましたことを、改めてお詫び申し上げます。

NRP(日産リバイバルプラン)とは異なり、やるべきことは明確であり、財務体制は健全です。現在は底にあり、今後2年、長くとも3年頂ければ日産の軌道を元に戻す見通しであり、そのお時間を頂きたいと思います。そのためには新しいガバナンスの設置、アライアンスの在り方やルノーとの関係の安定化を進めることが必須となります。

昨今のルノーとの関係について報道が多く出ており、皆さまにご心配をおかけしています。トップ同士として信頼関係があり、スナールさんと率直に両社の在り方について議論を交わしています。資本関係の在り方についてもテーマとなっております。スナールさんの意見と私の意見に相違があることも十分認識しておりますが、日産から見た場合とルノーから見た場合の違いは当然あると思います。さまざまな方向性についてオープンに議論することが、将来にとって重要だと思っております。ただし、スナールさんと一致しておりますのは、今はその議論をする場でなく時期ではないということです。日産は業績の回復、安定化に集中をすべきであり、スナールさんからも支持頂いてることをご報告します。

日産は、600万台から650万台を目指して徐々に台数を伸ばしていきます。その上で、売上高が14兆円から15兆円になります。「技術の日産」のDNAは健在であり、変革の時代を勝ち抜く力は十分あります。そして、将来にわたって技術的に成長していくことが日産の進むべき道です。ただし、「CASE」と言われる技術革新は、それに伴う市場や事業構造の大きな変化を想定しています。その中、単独ではなくパートナーシップを持つことはとても大きなチャンスであり、強みとなります。ルノーや三菱とのアライアンスを安定的に発展させていくことが、日産の将来にとっては非常に重要であり、スナールさんや益子さんと連携をして仕事を進めていきます。

以 上