スピーチ


2013年5月10日

2012年度通期決算報告
日産自動車株式会社
最高経営責任者 カルロス・ゴーン

2012年度は数々の課題に直面しましたが、成長の一年でした。日産自動車は、当期純利益の通期予測を達成し、多額の自動車事業のフリーキャッシュフローを生み出し、バランス・シートを更に強化しました。
2012年度通期の連結売上高は9兆6,296億円となり、前年度から2.3%伸びました。連結営業利益は5,235億円、そして当期純利益は3,424億円となりました。自動車事業のフリーキャッシュフローは2,486億円となり、その結果、2012年度末は自動車事業で9,159億円のキャッシュポジションとなりました。

以上の結果は、数々の取り組みの成果であり、今後も更に強化していきます。課題に対しては既に対策を講じており、解決に向けて取り組んでいます。引き続き、中期経営計画である日産パワー88の目標達成を目指し、活動を進めます。日産パワー88は、2016年度末までにグローバル市場占有率8%と、売上高営業利益率8%の達成・維持を目標としています。

財務指標の詳細をご説明する前に、いくつかの成果についてお話ししたいと思います。

2012年度、当社の商品は高く評価され、複数の賞をいただきました。例えば、日産ノートは、2013年RJCカー・オブ・ザ・イヤーに輝きました。また、中国では、自動車メディア連盟により、新型シルフィが「カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。

更に、自主ブランドのヴェヌーシアR50が「最優秀経済車」に選ばれました。加えて、2012年版インターブランドBest Global Brands 100ランキングで、日産自動車は過去最高のランク73位となり、日産ブランドのグローバルでの認知度が再認識されました。

日本経済新聞社が実施した、第16回「環境経営度調査」で、日産自動車は製造業部門ランキングで2位に輝き、自動車部門では1位を獲得しました。また、環境ブランドランキングのBest Global Green Brandsでは、初めて上位50社にランクインし、21位となりました。

日産は現在、どの自動車メーカーよりも多くのゼロ・エミッション車を販売しています。2010年12月の発売以来、日産リーフは世界で6万2,000台を超える販売を果たしました。日産リーフはまた、影響力のあるケリー・ブルーブックの2013年ベスト・グリーンカーのトップにも選ばれました。

昨年度、飛躍的な拡大を果たしたもう一つの領域は、プレミアム・ブランドのインフィニティです。2012年度の販売は、対前年比12%増の17万3,000台で、過去最高を記録しました。 チリ、ドミニカ共和国、南アフリカ、そしてオーストラリアで販売を開始しました。12月には英国サンダーランド工場で、インフィニティの新型プレミアム・コンパクトカーを生産することを発表しました。

更に、インフィニティブランドの最量販セダンの次期型であるQ50を投入し、大きな発展を期待しています。このインフィニティQ50は、1月のデトロイト・モーターショーを皮切りに、ジュネーブ,ニューヨークおよび上海のモーターショーで、お披露目しました。また、ブランド認知度向上のために、F1の2013年シーズンから、インフィニティは、昨年度優勝チームのレッドブル・レーシングとの協力関係を更に拡大し、タイトルスポンサーならびにテクニカルパートナーとなりました。インフィニティ・レッドブルは、今年すでにもっとも露出の高いブランドとなりました。2012年も、インフィニティのブランド・アンバサダーであるセバスチャン・ベッテル氏は、3年連続世界チャンピオンとなりました。

投資の最適化、原価低減、業務の効率化、そして拡販を目的に、パートナーシップを更に活用していきます。14年間の実績を持つ、ルノー・日産アライアンスは正にパートナーシップの模範であり、2012年度には年間26億ユーロにのぼるシナジー効果を生み出しました。最近発表したこの協力関係の例としては、フランスにあるルノーのフラン工場で2016年から次期型日産マイクラを生産することです。2012年度には、ロシア最大の自動車メーカーであるアフトワズが仲間入りし、当アライアンスは拡大しました。成長著しいロシア市場で、40%の市場占有率を目指しています。

4か月前、日産、ダイムラー、そしてフォードは燃料電池技術についての協力関係を発表いたしました。世界初の手頃な量販燃料電池車を早ければ2017年に発売することが狙いです。

日産パワー88の目標達成に向けて、まずは世界に通用する商品を生産、販売することが求められます。日産パワー88の戦略の一環として、6年間の計画期間中、平均で6週間に1車種、新型車を投入しています。2012年度も計画通り、グローバルで10車種にのぼる画期的な新型車を発売し、内3車種はグローバル成長モデルです。

タイ、オーストラリア、そしてブラジルをはじめとする複数の成長著しい市場では特に力を発揮し、昨年度の水準から、目覚ましい改善を果たしました。世界中の成長市場における事業の拡大と極大化に向け、生産能力を拡充するべく、2012年度は過去最大の投資を行いました。

詳しい財務実績の詳細をご説明する前に、世界最大の自動車市場である中国と米国における主な課題について触れたいと思います。

中国で事業を行う他の日系メーカーと同様に、当社も諸島問題を巡る政治的緊張と、デモによる影響を受けました。事実、日産自動車は特に打撃を受けました。昨年夏、諸島問題が議論された時には、すぐに多大な影響を受けました。9月第2週には、ディーラーの来店者数は、突然57%減少し、小売台数も50%以上落ち込みました。しかしながら、活動は改善されています。実際に、2013年暦年の初め3か月間の小売台数は2012年同期の販売を上回りました。
米国では、新型アルティマと新型パスファインダーの立ち上げにあたり、重要な設計変更により、サプライ・チェーンに支障を来たし、供給問題に直面しました。しかしながら、問題は解決済みです。供給プロセスも改善し、再発防止の対策も打ちました。

では、2012年度のグローバルな販売状況と、地域別の内訳をご説明します。
2012年度のグローバル全体需要は7,933万台となりました。当社の販売台数は491万台となりました。

日本国内の全体需要は、前年比9.6%増の521万台となりました。当社の販売台数は前年から1.3%減少し、市場占有率は1.4ポイント減の12.4%に留まりました。重要な軽自動車市場への供給不足と、新型ノート発売時期が足枷となりました。既に問題は解決し、業績は改善しています。第4四半期の市場占有率は0.5ポイント増の13.9%となりました。

中国の全体需要は前年比6.1%増の1,821万台となりました。一方、当社の販売台数は前年比5.3%減の118万2,000台でした。市場占有率は前年比0.8ポイント減の6.5%となりましたが、主に諸島問題に起因しています。

次に北米ですが、米国の全体需要は前年比11.6%増の1,471万台となりました。当社の販売は前年比5.4%増の113万8,000台に達しました。
メキシコでは、引き続きトップブランドの地位を維持しており、市場占有率は24.8%、販売台数は24万8,000台を記録しました。現在、メキシコでは販売ランキング トップテンの内、5車種は日産車です。メキシコ日産はCSI(顧客満足度調査)で1位を獲得し、SSI(販売満足度調査)では2位です。

ロシアを含む欧州の全体需要は1,718万台と減少しました。当社の販売台数も、市況の影響を受け、7.5%減少し、66万台に留まりました。
長引くユーロ圏の債務危機に加え、インセンティブ競争が大きな足枷となりました。更に、当社はこの2年間、新車投入がなかったことも影響しました。こうした厳しい環境にも拘わらず、当社は市場占有率を維持し、3.9%を確保しました。スペイン、イギリス、そしてフランスでは過去最高の市場占有率を記録しました。

アジア、オセアニア、アフリカ、中南米、中東を含むその他市場における当社の販売台数は16.3%増の95万9,000台となりました。当社は、これらの市場の多くの国々で著しい成長を続け、全体需要の倍近くの販売の伸びを記録しました。例えば、タイでは、前年比80.4%増の13万8,000台を達成しました。ブラジルでは18.4%増の9万6,000台、中東では20.8%増の18万4,700台をそれぞれ記録しました。

では2012年度通期の財務実績をご報告いたします。連結売上高は前年から2,206億円増加し、9兆6,296億円に達しました。連結営業利益は5,235億円となり、売上高営業利益率は5.4%となりました。当期純利益は3,424億円となり、当期純利益率は3.6%となりました。

営業利益を2011年度と比較すると、複数の減益要因が、購買コスト削減による増益を上回ったことがわかります。詳しくご説明しましょう。

  • 302億円の為替変動による増益は、主として、米ドルによるものです。
  • 原材料価格の低下を含む購買コスト削減は1,904億円の増益要因となりました。
  • 台数・車種構成は572億円の減益要因となりました。
  • 販売費の増加は535億円の減益要因となりました。
  • 研究開発費は370億円増加しました。
  • 生産コストは537億円増加しました。
  • 販売金融事業は2億円と若干の増益要因となりました。
  • 関連会社および日本の販売会社の減益、中古車事業の減益、メキシコ・ブラジルFTAの変更に伴うブラジルの輸入コストの増加など、その他項目は、417億円の減益要因となりました。

なお、年度末のキャッシュポジションは9,159億円となりました。

では今年度の見通しについてご説明いたします。グローバル全体需要は8,110万台を前提に、日産パワー88の戦略を引き続き実行していきます。当社のグローバル販売台数は前年比7.8%増の過去最高の530万台を見込んでおり、グローバル市場占有率は6.5%を想定しています。
今年度の生産能力増強のための投資は、過去最高だった2012年度の水準を上回る予定です。引き続き成長著しい市場を中心に投資を行っていきます。
最大市場である中国と米国では、拡販活動を更に加速させます。

中国の全体需要は前年比6.0%増の1,930万台を前提に、当社の販売台数は前年比5.8%増の125万台を見込んでいます。
私たちは、諸島問題の影響から販売を回復させるため、引き続き努力を行っていきます。
新型ティアナをはじめとする日産とヴェヌーシアの新型車が、販売を支えます。ティアナは中国における日産ブランドのフラッグシップです。
販売網を拡充するべく、今年度は日産店舗を40箇所、ヴェヌーシア店舗は20箇所、新設する計画です。インフィニティは現在の60店舗から66店舗に増やします。

米国の全体需要は前年比4.0%増の1,530万台を前提に、当社の販売台数は前年比11.6%増の127万台を見込んでいます。
米国では市場占有率の向上と利益改善を目指し、商品ラインアップの強化をしています。つまり適正な車を適正な場所に投入することです。また、販売網の強化にも取り組みます。販売店が、果敢にその成果を発揮することができるようサポートし、モニターしていきます。米国のチームは一体となって日産パワー88の重要課題および目標に向けて取り組んでいます。
2013年度には、米国で新型ローグとインフィニティQ50を含む4車種の新型車の発売を控えています。

2013年度は、新型ローグとインフィニティQ50を含め、新型車をグローバルに投入していきます。欧州での新型ノートおよび新型キャッシュカイをはじめ、積極的に新型車を発売いたします。象徴的なダットサン・ブランド第一弾もその一例で、2014年の初旬にはインド、続いてインドネシア、ロシア、そして2014年末までに南アフリカに投入していきます。

販売を支えるべく、グローバルな販売網の拡充にも取り組み、現在の9,100店から2013年度末には9,600店まで増やす予定です。

ここで当社試算による業績見通しを説明します。以上の計画に基づいた当社試算による、2013年度のおもな財務値は以下の通りです。為替の前提は1米ドル95円、1ユーロ122円としています。

  • 連結売上高は11兆2,000億円。
  • 連結営業利益は7,000億円。
  • 当期純利益は4,200億円。
  • 設備投資は5,700億円。
  • そして研究開発費は5,200億円です。

2013年度は、38万6,000台の販売増を見込み、2016年度グローバルマーケットシェア8%の中期目標にむかって着実に歩を進めています。今年度の営業利益は、為替変動、購買コスト削減ならびに販売台数増による増益要因があるものの、販売およびマーケティング費用と事業拡大コストの増加による減益要因により一部相殺されます。価格競争環境は、特に米国においては、引き続き厳しい状況が続くと予想しています。

通期予測について1点、申し上げたいことがあります。会計基準の変更に伴い、2013年度の決算は従来と異なる計算方法が適用されます。具体的には、中国の合弁会社 東風汽車有限公司の会計手法です。2012年度まで、東風汽車有限公司には比例連結が適用されていましたが、2013年度からは、合弁会社は持ち分法の対象となります。新たな会計基準でも当期純利益に変化はないものの、合弁会社は持ち分法の対象となるため、連結の売上高と営業利益には東風汽車有限公司分は含まれていません。

以上の予測に基づき、2013年度は引き続き確かなフリーキャッシュフローを維持する見込みであり、今年度の年間配当金は前年比20%増の一株当たり30円に増配する予定です。

最後に改めて、2012年度で起きたことをまとめたいと思います。多くのことを達成し、多くのことを学びました。毎年そうですが、厳しい逆風に直面しましたが、2012年度は新たなチャンスと新たな成果がありました。2013年度は、これらの教訓を行動に変え、力強い成果を上げていきます。2013年度も新たな課題と試練が予測されますが、同時に成長と達成の新たなチャンスも生まれています。日産自動車は、そのチャンスをつかみ、最大限に活かしていきます。

以 上