スピーチ


2011年6月27日

日産自動車 新中期経営計画

日産自動車株式会社
取締役社長兼CEO カルロス ゴーン

本日、発表いたします新たな中期経営計画は、多大な努力が求められるハードルの高い内容です。

中には、「本当に達成できるのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、私は日産の再生に臨んだ1999年、グローバル危機に立ち向かった2008年、そして重要な拠点が深刻な被害を受けた今年3月の大震災からの復旧と同様に、やり遂げられると信じています。

日産には、本計画の高い目標を達成するための確かな礎、リソース、力、そして意欲があります。新たな中期経営計画は、1999年以来、私どもが学んできた教訓、生み出してきたシナジー効果、そして進めてきた投資を活かした内容です。1999年当時、日産には全社共通のビジョンも、ステークホルダーの厳しいニーズに対する心配りにも欠けていました。今や、日産には明解且つグローバルなビジョンがあり、世界中の主要な市場・セグメントでプレゼンスを確立し、革新技術、商品、サービスでリーダーになる実力が認められています。

中期経営計画の対象期間は、2011年から2016年で、日産の成長を更に加速する計画です。本計画は、会社の将来像を描くだけでなく、全てのお客さまに対して、改めて掲げる公約でもあります。

日産パワー88(エイティエイト)の意味
日産パワー88と銘打った本計画は、全社的な目標達成の固い決意を裏付けています。

日産パワー88の「パワー」とは、ブランドとセールスに注ぐ、私たちの力と努力を指します。

当社のコミットメントは、お客さまの購入検討から保有までの経験に重点を置いてブランドパワーの向上を図り、日産車をお買い求めいただくお客さま一人ひとりに、質の高いカーライフをご提供することです。

「88」は、本計画を達成することで得られる測定可能なリターンを意味しています。グローバルな市場占有率を2010年度の5.8%から8%に伸ばすと同時に、売上高営業利益率を2010年度の6.1%から8%に改善し、その後維持していきます。

日産パワー88は6年間を対象期間にすることで、長期戦略を立て、一貫した経営判断を行うことができます。同時に、中間地点に向けて、向こう3年間を見据えた、数値化した具体的な重点目標を設定し、進捗を確認していきます。

本計画の重点項目が目指すのは、世界中の成長市場でリーダーになり、収益性を確保すること、電気自動車と低排出ガス技術を通じた持続可能なモビリティ社会の積極的な推進、及び全ての人にモビリティをご提供することです。日産は、クルマをお求めの世界中のお客さまに、魅力的な競争力溢れる商品ラインアップをご提案していきます。

日産パワー88 −商品
自動車業界では、どのような計画もまず商品から始まります。向こう6年間、当社は幅広い商品計画に基づき、平均で6週間ごとに1車種、新型車を発売する予定です。ニッサン・ブランドとインフィニティ・ブランドは共に、商品の重複を解消しながらラインアップを拡充していきます。中国、ブラジル、ロシア、インド、インドネシア等、重要な成長市場のニーズにお応えする商品を増やしていきます。お客さまが自由に使えるモビリティをより身近に感じていただけるよう、ニーズに応じた取り組みを続けています。

日産には既に幅広く、きめ細かいグローバルな商品ラインアップが揃っています。日産パワー88の期間中には、合計51にのぼる新型車を投入します。1999年、日産はグローバルで49車種の商品ラインアップで、77%の市場・セグメントをカバーしていました。現在は64車種で80%の市場・セグメントをカバーしています。さらに2016年には、ニッサン・ブランドとインフィニティ・ブランド合わせて66車種を取り揃え、世界の市場・セグメントの92%をカバーします。具体的には、車種統合や新規投入を図り、13車種を廃止し、15車種を新規投入します。例えば、次期型クエストとエルグランドなどを統合する予定です。

更に、同期間中に90以上の新たな先進技術を商品に搭載する計画です。これは平均で年間15件の新技術を投入していく計算になります。

当社は人気の高いいくつかのグローバル成長モデルを刷新していきます。グローバル成長モデルとは、世界中の主要セグメントで台数増の牽引役となる、アルティマ、ティアナ、キャシュカイをはじめとする商品です。キャシュカイは英国サンダーランド工場で累計生産台数100万台を達成したばかりです。4月に上海モーターショーで発表した新型ティーダ・ハッチバックはグローバル成長モデルの第一弾です。

一方、インフィニティ・ブランドのラインアップも拡充し、2016年までに世界のラグジュアリー・カー市場で10%の市場占有率獲得を目指します。現在の市場規模で見ると、これは50万台の販売台数に相当します。インフィニティ・ブランドは現在36の市場で7車種を販売していますが、2016年には71の市場で10車種以上をご提供する予定です。今後加わる商品には、2012年春に発売予定のインフィニティJXクロスオーバーと、2014年までに投入予定のインフィニティ専用の電気自動車等があります。

中国では、お客さま固有のニーズにお応えするため、ロングホイールベースの派生車を含め、ニッサン・ブランドとインフィニティ・ブランドのラインアップを拡充します。中国で10%の市場占有率獲得を目指す目標に揺らぎはありません。中国のパートナーである東風汽車とも協力して、自主ブランド ヴェヌーシアの共同開発にも取り組んでいます。

幅広い用途に対応するVプラットフォームを活用し、スタイリッシュで高品質、そして手頃な価格の商品群を世界中のお客さまにご提供していきます。Vプラットフォームをベースにしたグローバルカーのラインアップを現在の2車種から3車種に広げ、2016年の販売台数を現在の13万台から100万台以上に引き上げます。また、車両生産では引き続き高水準の現地化率を維持し、タイ、中国、インド、そしてメキシコで90%以上を維持します。

更に、BRICs諸国やインドネシアをはじめとする新興市場の需要拡大に対応するべく、エントリー・プライスのセグメントにも力を入れていきます。エントリー・プライスのラインアップは、パートナー各社と共に開発していきます。

当社が長年に亘り、携わってきました商用車事業も勢いを増しています。当社の小型商用車NV200は近々ニューヨーク市のイエローキャブの代名詞となります。NV200は「タクシー・オブ・トゥモロウ」コンペで見事に選ばれました。2016年度までに、日産は業界をリードする小型商用車メーカーとなります。

日産パワー88(エイティエイト) −戦略
日産パワー88は6つの戦略をテコに目標達成を目指します。6つの戦略とは、

  • ブランドパワーの強化
  • セールスパワーの向上
  • クオリティの向上
  • ゼロ・エミッション リーダーシップの有効活用
  • 事業の拡大を通じた成長の加速化
  • コスト リーダーシップ

です。

第1の柱:ブランドパワー
ブランドパワーを強化するため、私どもは開発・生産の強みを、販売・マーケティングとお客さまの経験に基づく価値創造の領域に広げていきます。お客さまとの触れあいのレベルを高め、世界一流のサービス水準を実現し、日産車のオーナー一人ひとりと長期的な関係を築いていきます。

ブランドパワーの強化を通じて、売上の創出、お客さまの好意度、そして購入意向度をはじめとする測定可能な領域における競合他社との格差を縮小していきます。

ニッサン・ブランドとインフィニティ・ブランドで、より一貫した、明解なブランド・アイデンティティを確立するべく、グローバル・マーケティングと広報を融合し、グローバルなマネージメント体制のもと、足並みの揃った取り組みを進めています。

ブランドを支える大規模なプラットフォームである、インフィニティ・ブランドのF1の取り組みとゼロ・エミッション戦略等を通じて、ニッサンとインフィニティ・ブランドのグローバルな認知度と評判の向上を図ります。

日産のブランドは、これまで培ってきた技術力、革新性をリードしてきた実績、そして日産リーフに象徴される環境配慮に対する強い決意によって、力をつけてきました。日産リーフは「2011年ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」、「2011年欧州カー・オブ・ザ・イヤー」等、数多くの賞に輝きました。日産リーフは、正に当社の大きなブランド優位性となりましたが、これを、その他商品ラインアップにも広げていきたいと考えています。新たな商品に敏感な初期の購入者やオピニオン・リーダーに選ばれている日産リーフは、クルマという存在を超えた、全ての日産車が持つ技術力と将来を先取りした視点を体現したブランドそのものです。

第2の柱:セールスパワー
中期経営計画で目指すセールスパワーの狙いは、各市場のお客さまのニーズを取り込み、販売台数と市場占有率を飛躍的に増大させることです。

現在、当社には世界中で6,000店にのぼる主要販売拠点があります。これを中期経営計画期間中に7,500店舗に拡大します。

新興市場では、しっかりとした販売網を確立し、お客さまのニーズにきめ細やかに対応する態勢を整えます。一方、販売網が既に確立されている成熟市場では、お客さまの定着率改善を図ると同時に、1店舗あたりの販売台数を増やして販売効率の向上を図るなど、戦略的に取り組んでいきます。

日産は今や中国、ロシア、そしてメキシコでナンバーワンの日系ブランドであり、さらに2016年度までに欧州で最大の販売台数を誇るアジア・ブランドの地位を目指し、前進を続けています。また、日本、米国、及びアセアン地域でもセールスパワーの向上に取り組んでいます。

第3の柱:クオリティの向上
日産は製品品質の向上に向けて着実に歩みを進めていくことを目指します。日産パワー88の期間中、すなわち2016年度までに製品品質の面で、ニッサン・ブランドをグローバル自動車業界のトップ・グループに位置づけると共に、インフィニティ・ブランドをラグジュアリー・ブランドのリーダーに育てていくことが目標です。

第4の柱:ゼロ・エミッション リーダーシップ
日産のように、グローバル自動車メーカーで、持続可能なモビリティの仕組みづくりを推進する包括的な活動に取り組んでいる企業は他にありません。当社はあらゆる面でトップランナーです。バッテリー・充電器・商品ラインアップの開発から送電網まで、バッテリーのリサイクル、そして外部電源としてのバッテリーの活用等、様々な分野に携わっています。

社会と地球環境の両方に資するものは、ビジネスにも資するという代表例が電気自動車です。持続可能なモビリティ社会に対する私どもの強い決意は、気候変動の問題解決の一助となるだけでなく、よりクリーンなクルマをお求めになるお客さまが増える中、経営上の重大な決断でもあります。太陽光、風力、水力等、再生可能エネルギー利用の動きが活発化することは、電気自動車の普及を後押しするでしょう。電気自動車を動かす電源は一つではなく、様々なものから得ることができるからです。

今年、当社は最大の電気自動車の販売台数を誇るメーカーとして、自動車業界の先頭に立ちます。今後、ルノー・日産アライアンスで、販売好調な日産リーフに続く7車種の100%電気自動車を発売予定です。日産の電気自動車ラインアップには、小型商用車と、インフィニティ・ブランドで100%電動のラグジュアリー・モデルを2014年までに揃えていきます。アライアンス・パートナーのルノーとともに、2016年までに累計150万台の電気自動車を販売する計画です。

日産の持続可能なモビリティづくりの一環として、ピュア・ドライブを支える技術も採用しています。例えば日産独自のハイブリッド技術は、今後ニッサン・ブランドとインフィニティ・ブランドのモデルに適用を広げていきます。また、次世代エクストロニックCVTの燃費を更に改善し、採用していくことで、CVT技術のグローバルリーダーとしての地位を維持していきます。

第5の柱:事業の拡大
5つ目の柱は事業拡大に関わる戦略です。1999年、当社のグローバル市場占有率は4.6%でした。2010年は過去最高の5.8%を達成しました。2016年度には市場占有率8%を目指します。

販売を支えるのは平均で6週間ごとに新型車を1車種投入する商品投入計画、成長市場における継続的な取り組み、そしてインフィニティ事業と小型商用車事業の拡大です。

また、ブラジル、インド、ロシア及び、それに続くインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、そしてベトナムといったアセアン5ヵ国を含む第二のBRICs諸国におけるプレゼンス拡大にも力を入れていきます。グローバル危機が発生する前、これらの市場はグローバル全体需要の4割を占めていました。それが2016年度には、6割を占める見込みです。

生産能力向上への投資が、中国、北米、そしてブラジルを中心に、台数増を支えます。

日産は中国で市場占有率6.2%を誇るナンバーワンの日系ブランドです。本計画期間中も、中国は引き続き当社にとって最大の市場です。2012年初旬には、生産能力を現在の2倍近くに相当する120万台に増強します。さらに、市場占有率10%達成に向けて、生産能力を増強していきます。パートナーである東風汽車と共に、新型車と販売網の拡充に投資を行い、新たな自社ブランドのヴェヌーシアの展開にも取り組んでいきます。

北米については、生産能力の増強を進めると同時に、メキシコ市場でトップメーカーの座を維持します。現在、メキシコの市場占有率は23.1%に達しています。

ブラジルでは、現在1.2%の市場占有率を5%以上まで高めていくことを目指します。そのために、ブラジルに新工場を建設し、まず20万台の生産能力を確保します。

欧州では、アジア・ブランドで最大の販売台数を目指します。ロシアでは2016年までに日産の市場占有率を7%に伸ばす計画です。

インドではチェンナイのアライアンス工場で新型車5車種を立ち上げます。また、販売会社を引き続き増やしていきます。

アセアンでは、タイ日産が戦略的な生産・輸出のハブ拠点です。今後はインドネシア市場での成長をにらみ、ジャカルタ近郊の生産拠点の能力を年間5万台から10万台に増強し、現地の需要に応え、アセアン5ヵ国の市場占有率を現在の6%から2016年までに15%に伸ばしていきます。

日産は量販ゼロ・エミッション車のラインアップを揃えると同時に、主要な新興市場で急成長を果たしている唯一のグローバル・メーカーです。しかも、他に類を見ない戦略的な協力関係を各社と実現しています。これこそ、21世紀の自動車業界のリーダーを決める競争優位性となるでしょう。

第6の柱:コスト リーダーシップ
市場を問わず、会社の成長には高いコスト競争力が不可欠です。従って、コスト リーダーシップを6つ目の柱に据えました。

当社は日産リバイバルプランの実行以来、年間5%の原価低減を果たしてきましたが、これは主としてサプライヤーを交えたクロス・ファンクショナルなモノづくり活動によるものです。生産体制が益々グローバル化する中、これからもこのペースを維持し、特に北米、中国、インド、ロシアを中心に、世界中の生産拠点で本活動を徹底していきます。

車種間・新旧モデル間の部品とシステムの共用化率を上げることで、プラットフォーム全体の効率化を更に進めます。

プラットフォームと商品のシナジー効果をパートナー各社と共に生み出していきますが、特に小型車・中型車の領域に力を入れています。

更なる台数増で、コスト効率はより上昇します。購入部品のみならず、物流費と内製コストにも目を向け、生産と購入品、納車整備センターまでの物流費を含めたトータルコストを年間5%低減していきます。

日本では、円建ての売上増大を目指し、国内市場における拡販に取り組むとともに、円建てコストを削減するべく、海外工場の部品の現地化を更に進めます。日本及び各地域間でモノづくり活動を強化することが、コスト削減の鍵を握っています。これらの活動によって、国内で年間100万台の生産維持に努めます。

アライアンス
発足以来12年間成果を生み出してきたルノー・日産アライアンスの経験と、その他5つの実りあるパートナーシップが、今後も日産の業績に寄与していくでしょう。

例えば、ルノー・日産アライアンスとダイムラーの戦略的協力関係を通じ、日産はインフィニティ・モデルに採用するメルセデス・ベンツのエンジンの供給をはじめ、ディーゼル・エンジンとパワートレイン技術で協力します。

ロシアではアフトワズ社を含め、当アライアンス全体で40%の市場占有率を目指し、商品開発、現地生産と現地調達への投資を行っています。

中国のパートナーである東風汽車は、10%の市場占有率獲得に重要な存在であり、7月には、東風汽車と共同で、中国における中期計画を発表する予定です。

インドではアショック・レイランド社と共に、小型商用車の共同開発と生産を行います。

また、三菱自動車との協力関係を拡大し、軽自動車の合弁会社を設立しました。

株主への利益還元については、中期経営計画の期間中、引き続き増配を行います。2011年度の年間配当金は2010年度の一株当たり10円から20円に増配する予定です。2011年度以降の経営計画期間中、当社は配当政策として、配当性向を最低でも25%とすることを目指していきます。

まとめ
日産パワー88は、今後6年間の指針となります。2011年度はその初年度として好調な滑り出しが期待できます。

今年度のグローバル販売台数は前年から9.9%増の460万台、連結売上高は7.1%増の9兆4,000億円を見込んでおります。2011年度は厳しい幕開けになったものの、良い年になるでしょう。

日産パワー88の成否を左右するのは、世界中の日産従業員一人ひとりの取り組みです。私は、全社一丸となって、目標を達成できると信じています。グローバル金融危機からの力強い回復と、3月に発生した東日本大震災からの見事な復旧で、私は改めて日産の底力を目の当たりにし、自信を深めました。

私どもは、日産のブランドパワーとセールスパワーを強化し、商品とサービスの質の向上に努め、お客さまのご期待にお応えし、従業員の誇りをより確かなものにしていきます。

日産は引き続き、持続可能なモビリティ社会の推進、全ての人にモビリティをご提供する取り組み、そして世界中のお客さまに、革新的で魅力があり、よりクリーンで手頃なクルマをご提案する活動を率先して進めていきます。

これこそ、私どもが積極的に進め、達成を目指す日産パワー88の狙いです。

以 上