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2005年度決算報告・日産バリューアップ

2006年4月25日

日産自動車株式会社取締役社長兼CEO
カルロス・ゴーン


皆さん、こんにちは。本日はお出でいただきありがとうございます。

2005年度は当社にとって移行期でした。日産180の三つのコミットメントを完遂し、完全復活を遂げると同時に、次のステップである長期的な利益ある成長を目的とした日産バリューアップが順調に進んでいます。

また、2005年度は逆風と激動の1年でもありました。原材料価格とエネルギー費の高騰、法規制の強化と共に、金利が大幅に上昇したのです。競争激化の中、当社はコストの増加の大半を吸収しなければならず、これが利益を圧迫し成長を減速させる結果となりました。昨年度は日産バリューアップ期間中、最も新車投入の数が少ない谷間の年でありました。

このような状況下、当社は全ての課題に挑みました。2005年度、日産は過去最高益とグローバル自動車業界トップレベルの売上高営業利益率を達成したことをご報告いたします。

本日は2005年度の実績をご説明しますが、これらは全て最終値です。また、日産バリューアップの進捗状況と今年度の業績見通しについてお話いたします。

2005年度販売状況
当社のグローバル販売台数は356万9,000台となり、前年比5.3%増となりました。2005年度はグローバルで7車種の新型車を投入しました。

国内の販売台数は前年比0.7%減の842,000台となりました。軽自動車の販売は好調で新型モコとオッティの健闘により、前年比39.6%増を記録しました。一方、市場占有率は0.2ポイント減の14.4%に留まりました。

米国における販売台数は前年比6.1%増の107万5,000台となり、新車投入のない中、2年連続して過去最高の販売を記録しました。ニッサン・チャンネルの販売は6.8%増加しました。モデル末期にも拘わらずアルティマとセントラは好調です。ムラーノとタイタンは引き続き新規のお客様の注目を集めています。

インフィニティ・チャンネルの販売は前年比1.3%増の134,000台となり、再び過去最高記録を更新する見込みです。新型Mセダンが牽引役となり、28,000台の販売を達成しました。

米国における市場占有率は過去最高の6.3%に達し、前年の6%から上昇しました。

会計年度が暦年ベースの欧州では、販売台数は前年とほぼ同水準の541,000台となりました。欧州では台数を追求するのではなく、高収益を見込めるセグメントのムラーノ、ナバラ ピックアップ等の収益性の最大化に努めます。特にロシアにおける販売は好調である一方、ドイツとイタリアの売上は芳しくありませんでした。ドイツとイタリアでは現在、リストラクチャリングが順調に進んでいます。

メキシコとカナダを含む一般海外市場の販売は前年比13%増の111万1,000台となりました。国別では、中国の販売台数は53.4%増の297,000台に達しました。成功に大きく寄与したのは中国の2006年カー・オブ・ザ・イヤーに輝いたティーダで、同じく中国の2005年カー・オブ・ザ・イヤーとなったティアナに続きました。中近東と中南米における好調な販売が台湾、タイ、そしてオーストラリアの台数減を補いました。

2005年度財務実績
次に2005年度の連結財務実績についてご説明します。

2005年度の連結売上高は9兆4,283億円となり、前年比9.9%増となりました。為替レートの変動は売上高に対し、3,010億円の増収要因となりました。連結対象範囲の変更は、カルソニックカンセイ等の追加を含め、1,178億円の増収要因となりました。

連結営業利益は前年度から1.2%増加し、過去最高の8,718億円となりました。また、売上高営業利益率は9.2%です。

2004年度と2005年度の営業利益の増減要因は次の通りです。

  • 2005年度通期の連結営業利益に対し、為替は1,178億円の増益要因となりました。
  • 連結対象範囲の変更による影響は210億円の増益です。
  • 価格改訂、台数増及び車種構成の変化により204億円の増益となりました。
  • 販売費は529億円増加しましたが、これは主に米国におけるインセンティブの上昇によるものです。
  • 購買は健闘を続け、購買コスト削減は1,600億円の増益を生み出しましたが、原材料価格と原油価格の上昇による1,000億円のコスト増を吸収しなければなりませんでした。
  • 商品性の向上と規制対応に関わるコストは690億円の減益要因となりました。
  • 研究開発費は226億円増加し、引き続き商品と技術開発の強化を図っています。
  • 製造と物流コストは169億円増加しましたが、これは日産バリューアップ期間で予定している70件の生産立上げに伴う生産能力の増強と商品に関わる投資が含まれています。
  • サービス保証費は370億円の減益要因となりましたが、これは拡販とより積極的且つ迅速なお客様へのサービス対応を推進したことによるものです。
  • 一般管理費とその他経費は102億円増加しました。

各地域の営業利益は、グループ会社間の取引価格を改訂し、グローバルな開発費の大部分を負担する日本の収益を適正化しました

では所在地別に見てみましょう。日本の営業利益は3,904億円となり、2004年度の3,411億円から増加しました。

米国とカナダの営業利益は3,454億円となり、2004年度の3,797億円から減少しました。

欧州の営業利益は672億円となり、前年の560億円から増加しました。

一般海外市場については、1,012億円となり、前年の848億円から増加しました。

地域間の内部消去は324億円の減益要因となりましたが、これは主として在庫にかかわる未実現利益によるものです。

営業外損益は259億円の損失となり、前年度から204億円悪化しました。これは主に為替差損によるものです。

金融コストは58億円から46億円に改善しました。

その結果、経常利益は8,459億円となり、2004年度の8,557億円から減益となりました。

特別損益は369億円の損失となり、前年から255億円改善しました。当年度の損失は主として、固定資産の減損処理に関わる会計基準を適用した結果、一時的な費用が発生したためです。日産ディーゼル株のボルボへの売却益等がその他の特別損失を補いました。

税金等調整前当期利益は8,090億円となりました。法人税等は2,544億円となり、連結ベースの実効税率は31.4%でした。

少数株主利益、これは100%子会社ではないカルソニックカンセイ、愛知機械、日産車体等にかかわるものですが、365億円になりました。

当期純利益は5,181億円となり、前年から58億円増加しました。

2005年度末現在の実質手許資金は3,729億円となり、年度の初めから1,671億円増加しました。

2005年度末の投下資本利益率は19.4%となり、日産バリューアップの3年間平均で20%以上というコミットメントに対し計画通りです。

6月27日に予定されている定時株主総会では、既に発表しましたように、一株当り15円の期末配当金を提案し、2005年度の年間配当は一株当り29円になる予定です。これは3ヵ年計画のコミットメント通りの増配です。

日産バリューアップの進捗状況
2006年度は当社の3つ目の事業計画である日産バリューアップの二年目にあたります。日産バリューアップは持続可能な利益ある成長を目的としています。今までの事業計画と同様に、日産バリューアップでは三つの重要なコミットメントを掲げています。

一つ目のコミットメントは2005年度から2007年度の毎年度、グローバル自動車業界トップレベルの売上高営業利益率を維持することです。

二つ目はグローバル販売台数420万台を2008年度末までに達成することです。

三つ目のコミットメントは3年間平均で、投下資本利益率20%以上を確保することです。

日産バリューアップでは四つの主なブレークスルーを目指しています。当社が開拓すべき新たな領域は次の通りです。

一つ目のブレークスルーはインフィニティを、世界で名立たるラグジュアリーブランドにすることです。

二つ目のブレークスルーは小型商用車、LCVのプレゼンスをグローバルに強化することです。

三つ目はLCC、リーディング・コンペティティブ・カントリー、競争力のある国々からの部品、機械、設備、ベンダーツーリング、サービスの調達です。

四つ目は地理的拡大です。例えば中国、インド、タイ、ロシア、東欧、湾岸諸国、エジプト等におけるプレゼンスを強化することです。

では進捗状況をご説明しましょう。

1. インフィニティは正しい方向に進んでいます。去年の韓国への導入は成功を収めました。2005年のインフィニティのグローバル販売台数は148,000台となり、前年の142,000台から増加しましたが、これは新型MとG35の健闘によるものです。

韓国の新しい店舗を手始めに、当社はインフィニティ・ブランドの活気を表現するショールームづくりに取り組んでいます。この取り組みは全世界で展開しつつありますが、これによりショールームの外観と雰囲気に一貫性を持たせ、お客さまにより良いカーライフを提供し、ブランドの強化を図っています。

今年はロシアにインフィニティを導入し、中国への導入は2007年を予定しています。
また、2008年には広く欧州全土で新規の専業の販売チャンネルを通じてインフィニティを導入します。欧州は世界で最も競争の激しい高級車市場ですが、次世代のインフィニティのクルマで、欧州のラグジュアリーセグメントのお客様に今までになかった新しいご提案ができると信じています。

2. 小型商用車事業は日産バリューアップのコミットメントを前倒しで達成する見込みであり、当社のグローバル事業の柱としての役割を確かなものにするでしょう。小型商用車の目標とは、売上高営業利益率8%、販売台数434,000台を2007年度末に達成することです。これは2004年度に対し、営業利益率で二倍、販売台数では40%増に匹敵します。

2005年度、小型商用車は7.7%の売上高営業利益率、前年比28.2%増の販売台数401,000台を実現しましたが、特に中国とその他一般海外市場が顕著な伸びを示しています。

2006年度から2007年度には小型商用車の新車を4車種投入します。また、小型商用車専門のディーラーをまずは日本、続いて欧州に設立し、お客様のサービス向上に努めます。更に北米に専門チームを設けて戦略を実行します。

3. リーディング・コンペティティブ・カントリー、競争力のある国々からの調達、LCC活動も進んでいます。購買部門と開発部門はLCCからのグローバルな部品調達を増やすコミットメントを掲げています。同様の活動はベンダーツーリングでも進めています。

現在、中国とタイを中心にLCC活動を行っています。中国とタイにおける活動と、これからのインドでの活動が、今後のグローバルなベンチマークとなり、当社の全体的なコスト競争力強化の一助となるでしょう。

また、間接業務を含め、研究開発、情報システム、生産等に関る様々な総務関連業務の更なるアウトソーシング/オフショアリングを追求しますが、これはコストを削減し、社員を付加価値のあるコア業務に集中させることを目的としています。2005年度には140億円の初期コスト削減を実現しました。

4. 地理的拡大も予定通り進んでいます。また、複数の地域で新しい生産設備と販売網も整備されつつあります。

  • 中国では、今後の拡大と現地化に備えて、46億円の投資を行い、乗用車事業のテクニカル・センターを新設しました。更に86億円の投資を行い、花都工場の生産能力を80%拡大し、年末には27万台まで増強します。
  • 昨年4月にはウクライナにニッサンとインフィニティの両方を扱う販売会社を新設しました。
  • エジプトでは2005年の12月にサニーの生産が始まりました。
  • インドには昨年6月に子会社を設立しましたが、更に拡大する可能性を検討しています。
  • ロシアにおける事業は成功を収め、当社にとって益々重要な市場になりつつあります。当社はロシアに生産拠点の新設することを決定しました。場所はサンクト・ペテルスブルグです。連邦政府との合意次第、2009年に操業を開始する予定です。複数の車種を生産することになる同工場には2億ドル投資することになります。

研究開発も大幅に増強しています。日産バリューアップとそれ以降の成長には魅力的且つ競争力のある商品が不可欠です。当社は900億円をかけて国内の研究開発拠点の改修を行っています。新しい開発棟が今月開設し、デザインセンターはこの秋にリニューアルを完了するでしょう。

ルノー日産アライアンスは引き続きステークホルダーの価値を生み出しています。ルノー日産アライアンスは今やグローバル自動車業界の上位四社に入り、2005年度の販売台数は610万台にのぼりました。両社の時価総額はアライアンス発足以降、飛躍的に増加しています。日産は健全な企業として成長を続け、ルノーも健全で成長を加速化しています。

ルノーと日産は独立した企業であり、お互いの業績向上を目指し、手を結んでいます。両社は双方にメリットが期待できる分野で協力しています。技術、能力、ベストプラクティス、そしてサポート用のインフラを共有化しています。また、お互いにベンチマークを行っていますが、これは他社とは実現し得ない透明性を確保しつつ実施しています。

アライアンスは最初から青写真が用意されているわけではありません。ルノーと日産はこの新たなパートナーシップのあり方の先駆者だからです。アライアンスは他にはない、永続するチャンスです。アライアンスには微妙なバランスと強い決意が必要ですが、長期に亘って着実に運営する自信はあります。

2006年度の見通し
2006年度は上期と下期とでは様相が大きく変わる予定です。

上期に成長を果たすのは難しいでしょう。台数は減少し、利益も下がると見込んでいます。

一方、下期には新車投入に伴い、販売台数が10%以上拡大し、収益性が改善します。グローバルで9車種の新型車を投入する予定です。上期には1車種、下期には8車種の新車投入を行います。

しかも、新型車の大半は米国で発売します。当社は利益の6割を米国で生み出しています。米国では新型アルティマ、セントラ、インフィニティG35セダンを皮切りに、新車攻勢が始まり、日産バリューアップ以降も続きます。

日本では軽自動車と小型商用車を含め新型車を3車種発売します。加えてこの秋には新型スカイラインの発売を控えています。欧州では小型商用車とコンパクト・クロスオーバーを投入します。一般海外市場には一般海外市場向けに設計された新型車を投入します。

2006年度は地域別に合計で23の商品イベントを予定しています。

グローバル全体需要は6,390万台を前提に、2006年度の当社のグローバル販売目標は前年比4.5%増の373万台です。日・米・欧の全体需要はよくても横ばい。一般海外市場については中国や中東等の主要市場の拡大を想定しています。

では地域別の販売目標をご覧ください。国内の全体需要は590万台を前提に、販売目標は前年と同水準の846,000台です。

米国の全体需要は1,690万台を前提に、販売目標は前年比2.3%増の110万台です。

欧州の販売目標は前年比3.7%増の561,000台です。全体需要は2,040万台を見込んでいます。

メキシコとカナダを含む一般海外市場の販売目標は前年比10.1%増の122万3000台です。

今年度、当社は日産バリューアップを達成する上で、厳しい環境に直面しています。為替レートの変動、そして原材料価格とエネルギー費の高騰に加えて金利も上昇するでしょう。インセンティブも高いレベルで推移し、日産は容赦ない競争に晒されています。

数々の障壁を克服する唯一の手段は日産バリューアップの迅速且つ効果的な実行です。

以上を鑑みて、2006年度の業績予測は1米ドル110円、1ユーロ135円を前提に、次の通り、東京証券取引所に届出を行っております。

  • 連結売上高は前年比6.9%増の10兆750億円です。
  • 連結営業利益は前年比0.9%増の8,800億円を見込んでおります。
  • 経常利益は8,700億円を予想しております。
  • 連結当期純利益は5,230億円です。
  • 設備投資は5,500億円となり、売上高の5.5%を見込んでいます。
  • 研究開発費は4,900億円を見込んでおり、売上高の4.9%を想定しています。
  • 投下資本利益率は20%です。

まとめ
日産は再び過去最高の営業利益と税引き後当期利益を記録しました。これは正に世界中の日産社員、販売会社、そしてサプライヤーの方々の多大な努力の賜物です。また、お客様と投資家の皆様のご協力にも改めてお礼申し上げます。

確かに過去最高の年でしたが、厳しい1年でもありました。商品イベントが極めて少ない中、多方面からの逆風に晒されました。原材料価格とエネルギー費が高騰すると共に金利も上昇しました。更に規制対応に関わるコスト増に直面し、それを商品価格の引き上げで補うことはできませんでした。

インセンティブ競争が続く中、自動車業界は益々、価値創造ではなく、台数を追求する傾向が強まっています。クルマを商品力ではなく、値引きで売り支えることは、今まで以上に自動車業界が、特に環境対応の面で革新性が求められている今、破壊的行為です。

極めて厳しい年に、日産が記録を更新したことは、私どものファイティング・スピリットの証です。この7年間、数々の高いハードルを乗り越えることを通じて、当社は競争する自信がつきました。しかし、自己満足は許されません。日産バリューアップのコミットメント達成の保証はどこにもありません。私どもは改めて、成功に向かって高い目標を目指さなくてはなりません。そして日産は必ずや、やり遂げるものと皆さん確信して下さい。

ご清聴ありがとうございました。