現場目線で課題を見つけるコンサルティングに期待
秋山:
製薬業界は、厳しく特殊な規制産業という側面があり、正規の手順に則らずに作業をした結果、違う薬が混入してしまえば大きな社会問題になります。そのため、細かなことも記録に残し、その記録を二重三重にチェックしなければならないことが多く、記録自体も偽造できないようにIDを付けて管理しています。データの信頼性を確保するための作業が多くなり、何のためにチェックしているのかが見えにくくなっている状況でした。しかも規制自体は年々、厳格化し、仕事量が増加しているので、何とか整理したいと考えていました。
中澤:
弊社はありがたいことに業績が右肩上がりで、会社が大きくなるにつれて仕事も増えていますが、これが適切な業務量なのかという課題を感じており、そこを調査してムダをなくしたいという意識がありました。武尾さんも、直接作業が中心である製造工程にもかかわらず、デスクワークを伴う間接業務が多数存在することに驚いていましたね。
武尾:
ヒアリングの段階で、製薬会社の特性からチェックが多いことは理解していましたが、想像をはるかに超えるチェック量で、そのすべてにエビデンスや履歴が付いていたのには驚きました。
中澤:
個人課題や小集団活動など自分たちでムダをなくす活動に取り組んではいたものの、日常のルーティンワークに追われて改善が後回しになっていました。このままでは何も解決できないという危機感から、外部のコンサルタントに入ってもらうことにしました。世界的に有名なコンサルティング会社はいくつもありますが、私たちが日産コンサルティングに魅かれたのは「現場主義」です。現場で働く人に直に会って生の声を聞いたうえで、現場目線で課題を解決するという手法に期待したわけです。
現状業務の可視化とその共有共感で、
関係者の意識が高まった
武尾:
業務の洗い出しをするためにまず行ったのが、業務の棚卸しです。「業務棚卸一覧表」を部署ごとに記入してもらい、すべての業務を視覚化したのです。他の企業であれば30〜50行程度のリストで収まるのですが、中外製薬は100行以上も項目が出てきました。
秋山:
実はこの段階では武尾さんが意図するところがよく分かっていなかったのです。「これでいいのか?」と少し疑心暗鬼にすらなっていたかもしれません。その後、何度かの打ち合わせやレクチャーを実施した後に、ようやく狙いが見えてきました。
武尾:
お互いに通じ合うまでには多少なりとも時間がかかりますし、それまでは苦戦する感覚もあります。それが当たり前なので、打ち合わせの過程でこちらの意図をできるだけ説明するようにしています。
中澤:
私が手応えを感じたのは、業務の棚卸から改善対象業務を選定して具体的にテーマを深掘りする段階に入ったときでした。
武尾:
業務の棚卸を記入するのは現場のリーダーですが、深掘りする段階に入ると実際に現場で担当している人にも参加してもらって、どのように仕事をしているのかを話してもらいます。その際に使うのが「巻き絵」という手法。壁に模造紙を貼り、そこに業務プロセスのフローをつくって、仕事の中身を付箋に書いてペタペタと貼っていくのです。付箋を使うことで仕事を可視化して、その中身を細かく分析していくわけです。
中澤:
この作業が始まると、参加したメンバーが生き生きとしてきたんです。これまで、自分の仕事すら見直す機会がほとんどなかったのが、「巻き絵」の作業を通じて他部署の仕事も把握でき、困り事や不満なども共有できる。それぞれの仕事への意識が明確化し、通常の業務も円滑に回り出しました。いきなり「こうすべき」と施策を押し付けるのではなく、調査とディスカッションに時間をかけられたからだと思いました。
武尾:
それが日産コンサルティングのスタイルです。全てを提供して「この通りにやってみてください」ではなく、問題点や改善の方向性を共有しながら、「皆さんの立場に立つと、こうかな」と提案し、関係するスタッフへの共感と改善へのモチベーションを高めながらまとめていきます。
現場とマネジメントを一緒に巻き込み改革を推進
秋山:
上流から下流までのプロセスが見えてくると、「同じことを2回してない?」とか「業務フローを分ける必要はある?」など、気づかされたことが多々ありました。
武尾:
中外製薬の皆さんは、気付けば修正する力を持っています。だからこそ、“気付く”ということが大切です。もう一つ、私たちが感じた課題が縦割りの意識です。自分のテリトリーの仕事だけをするような企業風土が見受けられました。そこで部署間を横断して課題を解決する手法なども提案したんです。
秋山:
私がなるほどと思ったのが、現場とマネジメントの両方を取り込むやり方です。現場だけだと、「時間が割けない」とか「他の仕事がある」と逃げ腰になる傾向があり、マネジメントだけだと、現場が見えないから解決にたどり着けないこともある。武尾さんは現場スタッフの集まる会議にマネジメント層を呼んで、「部長がディシジョンメーカーですから」、「あなたがファシリテーターですからまとめてください」などと、役割を与えながら議論に巻き込んでくれました。その結果、聖域だった品質保証の業務改革に対して一石を投じられたことも大きかった。
中澤:
品質保証は何かあったときに責任が問われる部分でもあり、業務の見直しが難しかったのですが、今回は責任が取れる人に入ってもらったことで、現実的な業務改善につながる議論ができました。
武尾:
われわれは聖域が何か分かりませんし、そもそも的確な解決策をわれわれが提示できるわけではありません。論議する場や手法とそのポイントを提供できれば、自ら解決策を導き出せると考えました。
中澤:
コンサルティングが終了してから社員に意識調査をしたんです。そうしたら「業務の負担が減った」という回答が非常に多く、コンサルティングの成果が表れていました。現場のスタッフのみならずマネジメントに対しても当事者意識の変化を感じています。教えていただいた手法を使って、引き続き課題解決に向けて動いています。
武尾:
日産コンサルティングには10カ条のポリシーがあり、その最後にあるのが、「コンサルティングの成果は、コンサルタントがいなくなった後に出る」というもの。コンサルティングが入っている間だけ成果が出ても意味がない。しっかりとその会社に定着させることが大切だと肝に銘じています。
秋山:
日産コンサルティングには良き伴走者になってもらっただけでなく、具体的なスキルも含めて勉強させてもらいました。私たちは医薬品、日産は自動車ですが、同じモノづくりという目線でリードしてもらえたことが、本当に良かったと思っています。
中外製薬株式会社様